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椿の恋
17
安田がいなくなった書斎。その場は、途端に、険悪なムードが立ち込めた。

俯くふーちゃんの知らないところで、松本とカナちゃんが、恐ろしい形相で、睨みあっていた。火花を散らして見つめあう二人。

松本を睨みつけているカナちゃんは、内心では、松本に怖気づいている。大人しい外見の下に隠れた松本の恐ろしさを、カナちゃんは本能的に悟っている。自分の怖気を隠すために、やがて、ニッコリと笑った。

下手にこの男を刺激しないようにせねば。

この男のせいで、安田に手出しはできないようになった。それどころか、安田が自分に関係のないところで何かあれば、自分がこの男に報復されるかもしれない、と思うと、少々、怖い。

安田を殺して、遺産を手に入れ、安田家から出ていく計画はやめにした。取りあえず、安田から金を絞り取れるだけ絞り取って、頃合いを見て、ポイすることにしようと、決めた。

それまで、良妻を演じるしかない。

静かに睨んでくる松本に向けて、カナちゃんは、ニッコリと微笑んだ。

「紅茶のお替わりは、いかが?」

だが、松本は、睨みつけたままだった。

「お前、可哀相な奴だな」

松本の声の冷ややかさに驚いて、ふーちゃんは、顔を上げた。そこには、見たこともない様な冷たい顔で、カナちゃんを睨みつけている松本がいる。

………何があったの?

ふーちゃんは、目を見張る。

そして、カナちゃんの顔を見て、更に、驚く。

さっきまでニッコリ微笑んでいたカナちゃんは、魔女のような恐ろしい顔になっていた。

そのカナちゃんを、静かに問いつめる松本の声があった。

「お前、ヤッチンから金を絞り取れるだけ絞り取って、頃合いを見て、ポイすることにしよう、と決めた、それまで、良妻を演じるしかない、とか、考えているだろう?」

カナちゃんは、一瞬、笑みを凍りつかせる。

この男、エスパー? 

考えていることを一字一句見透かされて、一瞬、ぞっとするが、負けじと、笑みを浮かべる。

「オーッホッホーーー。あたくしが、そんな悪巧みをすると思って? あたくしは、心の底から、安田を愛しているのよ」

いや、その高笑い、いかにも、嘘ついてるって感じがするんだけど。バレバレなんだけど。

ふーちゃんは、眉をひそめる。

そして、何が起きているのかを理解し始めていた。



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あきゅろす。
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