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椿の恋
11
ふーちゃんと松本は、駅で別れた。

松本は、だが、電車には乗らないで、踵を返した。

そして、安田を驚かせることになる。

安田は、書斎のドアを開けて、声を上げそうになった。今さっき、玄関で見送ったはずの松本が、そこに立っていた。

「えっと、ルパン、何やってんの?」

松本は、ソファの上に立っていた。







「しッ」

松本は、人差し指を口に当てる。

「ドアを閉めたら、ソファを抑えてて」

安田が言われた通りにすると、松本は、ソファの背もたれに立って、天井の火災報知機に手を伸ばした。

どこから取り出したのか、右手にしたドライバーで、機械を外しにかかる。

そして、機械を手に、ひらりと絨毯に飛び降りた。

「何? 何なの?」

松本は、手の中の機械の蓋を取り、中を見つめている。

そして、「ほら」と差し出した。

安田はそれを受け取った。

「壊されてる」

「ホントだ………」

明らかに、金づちのような硬いもので、打たれたような跡がある。配線が潰れて、はみ出ていた。

「えっと、もしかして、お前やったの?」

安田は、昔、松本が、高校の男子トイレの火災報知器を壊していたことを思い出した。トイレでくらい、煙草吸わせろよ、というのが、当時の理由。

何しろ、こいつは、地味を装うワルだ。俺んちの火災報知機の一つや二つ、壊すことくらい片手間にできる。

さすが、ルパン。

妙なところで、感心する安田。だが、理由が思い浮かばない。

でも、何のために………?

松本は、首を捻って訝しげな顔で見つめてくる安田を一蹴した。

「アホか。俺が、壊すわけねーだろ。さっき、お前の煙草に、全く反応しなかったから、気になっただけだ」

「あ、そのために、わざわざ戻ってきてくれたの? ありがとう」

さすが、ルパン、俺の親友だ。俺のためなら、何でもしてくれる。

呑気そうな声を出した安田は、肘を突かれる。

「お前、自分の身に、危険が近付いていることを察しろ。誰かが意図的に火災報知機を壊したんだ。何のためだと思う?」

「あ……………」

アホの安田でも、さすがに、気づいた。自分の周囲にただならぬことが起きていることに。

そういえば、老人が火災に見せかけて殺された事件や、男が練炭自殺に見せかけて殺された事件が、テレビで話題になっている。どれも、強欲な女による金目当ての殺人………。

まさか、俺ってば、命を狙われている…………?

「いいか、一晩じゅう用心するなり、理由をつけて母屋に寝るなり、自分の身は自分で守るんだな」

「ん、わかった」

安田は、頷いた。

だが、安田は、本当にアホだった。松本が心配する以上に、桁外れのアホだったのだ。

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あきゅろす。
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