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ルパンの恋人U
6
思いのほか、抑えきれない感情が次々と沸き起こる。

許せないね。そんなの。こいつは、俺の親友だ。俺のルパンだ。好き勝手に改造されちゃ、困る。ルパンは、秋空のように、静かに晴れ渡っていればそれでいいんだ。それで、いつも俺を甘えさせてくれれば、それでいいんだ。

秋空を春めかせないでほしい。秋に間違えて咲く、春の花って、どうしようもなく頭悪そうだよね?そんな気色の悪い景色なんか、見たくない。

「ねえ」

俺は、ルパンの肩を背後から掴もうとした。しかし、このときのルパンには隙はなかった。するりとさりげなくかわされると、戸口で靴を履いている。

「あんまり遅くなると、お前の母ちゃん心配するぜ?今、日本にいるんだろ?すげえ心配性なんだからさ。また、レクイエムとか歌いながら、捜索願い出されるとやっかいだぜ?」

確かに、チョココロネは、異常な心配性だ。俺が門限(10時!不可能だろ)破ると、泣きながら玄関でレクイエムを歌い出す。しかし、何ゆえ鎮魂歌?帰って来ないのは、俺が死んだから、とか思い詰めてるの?いや、ともかく、怖いんだよね、あの曲。

ルパンは、相変わらず、気が回るし、俺への気遣いもある。でも、俺にはそれじゃ足らない。今までと同じレベルの気遣いでは、今の俺には、足らない。そんな気持ちが沸き起こる。

親友を超えた、特別な気遣いが欲しい。お前の特別な何かになりたい。そんな想いに捕らわれる。

しかし、先にドアを開けて外に出てしまったルパンを追いかけないわけにはいかず、俺は急いで外廊下に出た。

「ねえ」

階段を降りながら、もう一度、その背中に声をかけた。「ん?」とだけ答えてくれた親友が、階段を降り切って数歩進んだところで、後ろから腕を掴んだ。今度は、かわされないようにちゃんと掴む。

そして、暗がりに引っ張り込むと、俺の方に向かせて、その背中をブロック塀に押し付けた。

「キスしていい?」

ルパンは、いきなりの俺の問いに、別段、驚いたような顔もしなかった。

「よせ」

「何で?前は許してくれたよね?しかも、ちょっと濃厚だったよね?何で今は駄目?」

ルパンは、小さく吹き出している。親友の目には、少しの怯えも不信もない。平然と、少しだけ笑って、こちらを見ている。

「アホか。外だぜ?」

俺を押し返して、逃れようとするが、俺は、しつこくルパンの両腕を掴んで、その背中をブロック塀に押さえつけた。

こいつと力比べをしたことはないが、本気でやり返されれば、俺など、簡単に撥ね退けるだろう。こいつは何を取っても俺よりすごい。周囲に取り巻きを作る俺なんかよりも、地味なこいつの方がはるかに優れた人間だ。強さも優しさも力も頭脳も、何もかもにおいて、俺に勝る。

俺は、負けてるんだよね。負けっぱなし。だからかな、だから、お前とずっと一緒にいて、とても楽しかったのかな。自分より上の奴って、癪だけど、見てて飽きないじゃん?

慎重で計算高いルパンは、力で抑えつけられたら力で跳ね返そうなどとは、決して思わない。その切れる頭脳で、結局は、自分の望むように、そして、相手の望むように、事を運ぶ奴だ。だから、俺は、事の次第をすべてこいつに任せればいい。

そんな甘ったれた考えで、俺は、その先どうしようなどということは考えもしないで、ただ、ルパンをブロック塀に押し付けていた。

キスは二の次で、本当は、ルパンに、俺の心のもやもやを解決して欲しかっただけなのかもしれない。胸に浮かぶ言葉を、フィルターに掛けずに、そのまま、舌先に乗せていく。

「ねえねえ、ルパン。他の男のものになるくらいなら、俺のものになれよ。俺、お前のことよく知ってるし、お前のこと大事にするし。だから、俺のものになれよ。他の男のものになんかなるなよ」

お前は俺の親友でいればそれでいい。俺のものでいればいいんだ。他人のものになんかなるな。

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