ルパンの恋人U
ネバギバ!ヤッチン!
俺、本当に好きな人とやったことない。だから、本当の快楽ってもの、わかんないよ。
ルパンの家のこたつに寝そべりながら、俺は、その横顔を眺めていた。
ルパンは、こたつに紙を広げて何かを書いている。
何だ?怪盗らしく、予告状でも書いているのか?
もう少し、きれいな字を書けよな。読めればいいって、お前、合理的すぎ。何でもかんでも、見た目より、中身だよね。本質さえ良ければそれでいいと思ってるかも知んないけど、お前と違って凡人は、なかなか本質を見抜けないんだよ?大抵、外見に惑わされる。
つか、数式の横に、買い物メモとか、やめてよね。
「豚ひき肉、キャベツ、ニラ、餃子の皮(50枚入り)」って、明日は餃子か?俺、明日も来るね。つか、「マグカップ(マイメロディかウサギ柄、なければ、ピンク)」って何?誰のマグカップ?
ルパンは、ボールペンを置いた。小さな溜息をつく。
「ルパン、どしたの?」
俺は、優しく溜息の理由を尋ねる。ここのところ、たまに見せる悩ましげな表情。
理由はわかってる。どうせ、銭形のことでしょ?
ルパンは、頭が切れるし、行動力もある。地味を装うワルのこいつは、自分ためだろうが他人ためだろうが、何か問題が起きると、一人でさっさと片付けちまう。少々、犯罪の匂いがしようが、危険を伴おうが、誰にも文句はつけられず、むしろ、みんなが満足な方法で解決してしまう。
本当のワル、でかつ、本当のヒーローは、こんな地味な奴なのだ。それが、真実。
しかし、こいつにも、弱点が、がある。所謂、弁慶の水虫が痒いところ、だ。
こいつは、色恋沙汰だけは、苦手だ。超奥手なだけに、好きになれば、もう修正できない。しかも、恋人は、あの無自覚天然女たらし。セール中の百貨店のごとく女が寄ってくる。アフロディーテでも、手を焼く男だ。
つまり、ルパンが悩ましげな顔をするとしたら、銭形のことに限るってこと。それはつまり、俺にとっては、チャンス。
………ふ。
つけ入る隙を与えすぎなんだよ、あのとっつァん。
「別に」
俺の問いに、素っ気なく答える。ルパン、もしかして、俺を警戒してる?
お前をどうにかしてやろうという俺の邪な考えを、見抜いているのか?
「言っとくけど、俺、お前が好きだから、隙を見せたら、襲うから」
「るせー、キモい」
再びペンを走らせるルパン。何度、告白しても、ライクにしか受け取らない。俺にだって、ラブかライクかわかんないこの感情を、なぜか、こいつは、ライクだと言い張る。お前が言いきるなら、きっとそうなんだろうね。そうなんだろうけど。
でも、俺、ラブを持っていない。ラブもライクも全部ひっくるめて、お前へのライクが、一番の地位にある。お前にこのライクを受け取ってもらえないなら、俺は、もう本当の恋とか、本当に好きな人との触れ合いとかを、決して味わえないことになるの?
俺の視線に気づいて、やっと、こちらを見てくれるルパン。
その目が僅かに見開く。
「お前、何かあったか?」
静かだが、優しい声音。そんな優しい声、珍しいね。
「うん、何か、寂しい。キスしたい」
拒絶されると思ったが、ルパンはじっと、俺の顔を見つめ返したまま。
今日は、もしかして、許してくれるのか?さっき隙を見せるなつったのに?
でもそれならば……。
俺は、ルパンににじり寄り、顎を捕らえた。
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