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ルパンの恋人U
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本当のルパン、か。

ただ甘えていた俺には、見えていなかった親友の本当の姿があるのだろうか。秋空は、晴れ渡るばかりじゃない、雨降りのときも曇りのときもある。いつのまにか、冬空になっているかもしれない。

キューッと、胸が掻き毟られる。教室で馬鹿やっていた時、失恋してメソメソ泣いた帰り道、試合に負けてしつこく愚痴った部室、いつでも静かな佇まいを崩さずに隣にいてくれたあいつは、どんな想いを抱いていたのだろう。俺ばかりが甘えてた。

親友の俺の前でさえ一度も見せなかった哀しみや苦しみを、あいつはどこで流していたのだろう。

ひょっとしたら、あの男の前では、あいつも涙を見せるのかな……。

湧き立つどす黒い嫉妬。

苦いものを噛みしめる。今の俺には、あいつの涙を吸い取る余裕はない。あいつが泣いたりしたら、俺は、母親の泣く姿を見る幼子のように不安になるだけだ。

あの男なら、本当のあいつをちゃんと守ってやれるのかな。俺の知らない本当のあいつを。

嫉妬と拮抗して、こみ上げてくる祈り。

親友の幸福への祈り。

俺にあるのは、独占欲だけじゃない。親友への純粋な情愛も、確かにある。

あの男が、あいつを幸せにできるのなら。

「ま、恋人が警官なら、大丈夫なんじゃないですかね」

あの男が、あいつを、曇りなく澄み渡らせる太陽になれるのなら。

「変な子だよね。あんないかつい男が、あの子には、可愛くてたまらないように見えるんだって。まるで悪夢のようだって、呟くの。ホント、変な子だよね」

そんなママンの言葉を聞きながら、俺は、親友に恋人ができたことを喜ぶべきか、あいつを奪い返すためにもっと大人の男になるべきか、容易には答えが見つけられそうにない問いを、胸に繰り返す。

「ヤッチンも、彼女でも作っちまえよ。あんたもいい男なんだからさ」

ママンの笑った顔には、やはりえくぼが浮かんでいた。どきっとしながら、緩やかに見守るようなママンの笑顔を見返す。

「あ、もしかして、お前もコッチじゃなくて、コッチの方か?」

小指を立てた後、親指を立てる。さすが、昭和生まれのメスゴリラ。

そのとき、物音がして、ルパンが部屋から出てきた。ふてぶてしさの滲む平然とした顔付きを取り戻している。腕組みして、軽く俺を睨みつけている。

「そうだぜ、お前、もっと欲張れよ。お前、俺なんかよりもスゲー奴なんだから、もっと欲張れよ、いろんなことに。長いツレのお前が威張ってないと、何かキモいだろ?お前は、いつもへらへらして、そこにいてくれればいいんだからさ。ヤッチン、最近、変だぜ?」

その口で、ヤッチン、と呼ばれるのは、久しぶりだ。こいつ、心の中では、俺のこと、ずっと、ヤッチンって呼んでくれてたのかな。

そっか、ママンや銭形が、俺をヤッチンと呼ぶのは、こいつが俺のことをそう呼んでるからだよな。

俺は、何故か、涙腺が緩んでくるのを感じながら、ルパンの静かに佇む顔を見つめ返した。

ルパンの言葉は丸ごと、俺がルパンに対して抱いてきた気持ち。一方的に尊敬し、甘えているのかと思ってたら、もしかしたら、互いに尊敬し、互いに甘え合っていたのかな。

ルパンは、やはり、ルパンだ。何にも変わっていない。

恋人ができようと、少しばかり成長しようと、互いにとって、特別な存在のままの俺たち。

いずれ、他に大事なものを見つけてしまおうと、いずれ、離れてしまおうと、いずれ、死のうと。

俺たちは、互いに特別。

だよね?

俺は、ルパンに、へへへ、と、笑って見せた。するとルパンは、下唇を噛み、怒った顔を見せてきた。慌てて笑みを引っ込めると、ルパンは、やっと、頬を緩ませた。心から楽しそうな笑みを浮かべる。

ガキの頃と少しも変わらない笑みで、俺たちは、笑ってた。











20100513 終わり。

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