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ルパンの恋人U
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ママンは、湯呑みを差し出しながら、俺の向かいに座った。

「あいつ、ちょっと、変わってるだろ?価値観が人と違うというか、すごく自由というか。平気で悪いこともする。お前にも、随分、迷惑掛けてるんじゃねえの?でも、あいつのモラルは独特でね、本当の意味で誰かを裏切るようなことはしない。変な子に育っちゃったけど、ヤッチン、見捨てるなよ。見捨てたら、殺すからな」

はい、絶対に見捨てません。

つか、迷惑を駆けているのは、いつも俺の方。見捨てられそうなのも、俺の方。

この前なんかさ、と、ママンは、思い出し笑いをする。

「あいつ、いきなり、白いレースのブラジャー買ってきて洗ってやがるの。さすがの私も驚いて、お前の趣味はどんなでもいいけど、そういうの、母親には秘密にしろよ、とドついたら、下着泥棒を捕まえるんだって抜かすのよ」

下着泥棒?恋人に影響されて、泥警ごっこか?ルパンの奴は。

「この辺で下着泥棒があってね、洗濯物の被害が相次いで、騒ぎになってたのよ。あいつ、調査の結果、こんな白いレースが、下着泥棒の好みだっつうのよ。で、物干しに干しといたら、三日目ぐらいで、案の定、犯人の奴が、ひっかかりやがってね。犯人は、気の弱そうなカバ男。私が数発殴って、カバをジャガイモに変えてやったよ」

ジャガイモって、お気の毒すぎるね、その男。

「その後、あいつが、小一時間、説教。下着を盗むのはよくない、でも、集めるのはかまわない、カバの下着選別能力はとても高い、その能力を生かして、下着屋さんになればいいんだ、とか。で、下着屋さんになって、古い下着を下取りすればいいんだと。そうすれば、合法的に使い古しの下着を集めることができると、二人で長々と話しこんでるの」

つか、ルパン、他にすることなかったのか?

「カバの奴、早速、店を出しやがった。カバのくせに金は貯め込んでてさ。出した店が大繁盛、顔はカバだけど、今じゃ、女にモテモテ。使い古しの下着の山と女に囲まれて、鼻の下伸ばして、ますますカバ面になりやがった。たまに、私にも、下着をくれるんだぜ、ほら、こんなやつ」

ママンは、そう言って、胸元をぐわっと広げた。目に、白いレースに包まれた肉まんが二個、飛び込んでくる。ムワっと、ピンク色のオーラに襲われる。

ブフーーーッ。

思わず、茶、吹き出しちゃった。いや、茶だけじゃない、鼻血も。このメスゴリラ、何すんの?

「あ、わりー。これ、逆ハラだな」

高らかに笑うママン。してやったりという顔付き。ママン、わざとでしょ、わざと俺をいじめて楽しんでいるでしょ。さすがドS。

差し出されるティッシュの箱で、鼻血を拭う俺。

「あいつ、セクハラ教師は、警察に売ったのに、下着泥棒は、助けるのか」

変な所に、疑問を抱いてみる。

「ヤッチン、お前、アホだな。強い立場にいる奴が弱い奴を泣かすのは悪いけど、弱い奴が悪いことをやるのは、社会が悪いんだろうが」

胸をムッハーと叩くメスゴリラ、超かっけえ。

「カバみたいな奴を、カバだからって、卑屈にさせた世間が悪い。誰かが下着を恵んでやらなかったから、盗むようになっちまったんだよ」

言っていることは意味不明だが、腕組みをして、鼻息鳴らすママンは、超カッコ良かった。頼むから、両手で胸板ドコドコ叩いてみてよ。

「あんな年の離れた男を、恋人として連れてくるなんて、あいつ、もしかしたら、ファザコンなのかもな。あいつの父ちゃんは、流れもので、生まれる前にどっかに消えちまったからね。今頃、地獄に落ちてるのか、刑務所にでも放り込まれているのか。でもね、やっぱり、変なモラル持ってた。父子なんだね。だんだん似てくる。あの子も、無鉄砲が年々ひどくなる。今に、何かしでかして、サツにでもしょっ引かれるんじゃないか、とか、どっかで刺されてくんじゃないかって、たまに怖くなる」

ママンは、ふと、寂しそうな顔をする。女手一つで、苦労して育てた一人息子。

でも、サツだとか、刺されるだとか、心配しすぎじゃね?

ママンの言葉に、不意に、銭形の言葉がよみがえる。





本当のこの子をきみは知らない。


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あきゅろす。
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