ルパンの恋人U 13 気分直しにゲームをしていると、やっと、ママンが帰ってきた。とっつぁんと違い鍵を持っていない俺は、戸締りできない家に、眠った親友を一人残して去れなかった。俺もルパンに甘い、結局のところ。 「あ、おかえりっす。おばさん、いつもきれいですね」 俺はすぐさま立ち上がって、ママンからスーパーの袋を奪って、ダイニングテーブルまで運んだ。もちろん、下心のなせる技。 ママンは、ぎゃはは、と声を立てて笑った。ほっぺにえくぼを作るところが、かわいらしい。 「何、言ってやがんだよ、こんな顎の割れたババアに」 ママンは、いまだにレディースでアタマ張ってた頃の口調が抜けない。そんなところも、すごくタイプだ。 「いや、すげえ、可愛いです。ゴリラなところが、特に」 あ、ゴリラは、ミスった。口が滑った。チャーミングって意味なんだけど、通じるかな。 同じ年の息子がいるのに、ママンはチョココロネよりも、かなり若い。30代にしか見えない。俺には、熟し加減のちょうどいいメスゴリラだ。ルパンとは似ていなくて、一緒に歩いていると、女子プロレスラーと新人マネージャーだ。 授業参観では、チョココロネとママンは、いつもすごく目立ってた。ホント、変な母親を持って互いに大変だったよね、俺たち。 「これ、食うか?」 バナナを一本わけてくれるところが、何とも自分のキャラをわきまえている。ホント、ゴリラの物真似、上手いよね。 「夕飯、お前も食ってくか?」 エプロンを巻いて流しに向かう。メスゴリラのフェロモンはたまらない。思わず、その背中に抱きつきたくなる。あ、俺、失恋のせいで、随分、いろいろ溜まってるのかな。下半身辺りに。 ルパンは、ママンと全く似ていないが、フェロモンは似てる。甘やかなのに、ちょっぴり寂しくて切なくなるフェロモン。 「さっき、ルパンと食いました」 「何だ、そうかい」 息子が夕飯をすませていると知って、途端に手を休めるママン。自分だけなら、余りもので済ませるらしい。二十歳を超えても、息子は息子なんだよね。俺も、チョココロネを思い出す。そろそろ帰らないと、あの人、レクイエムを歌い出す。 「じゃ、茶、入れてやるな。あれ、あいつは?」 「部屋で寝てます」 失神させられてます、なんて、さすがに言えない。 「ルパン、恋人出来たんですね」 もうママンも公認の仲なのだろうが、口に出して言ってみた。俺、今日は、ママンに、腹イセするつもりなのかな。いくら、ママンが心広くっても、息子の恋人にケチつけたら、怒るよね。 「知ってるぜ。いい男だよね」 やっぱ、了承済みか。俺が、がっくりしてると、ママンは、何を察したのか、ニヤニヤして肩をド突いてきた。うわ、今、肩砕けるかと思った。 「何?ヤッチンてば、男と男は恋愛しちゃ駄目、とか思ってんのかよ。それとも、あいつを恋人に取られたとでも思ってやがんのか?」 笑ったママンは、えくぼが何とも、かわいらしい。ああ、ママン、もっといじめて。俺、ママンにいじめられたら、失恋の痛手も、親友を改造された痛手も、忘れられそうな気がする。 「小さいころからのダチっすからね。いろいろ心配っつうか」 何しろ、毎回、失神だからね。体とか、大丈夫かな、とか、いろいろ、さ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |