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ルパンの恋人U
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声援で湧き立つ体育祭の日も、弾ける笑い声が入り乱れる文化祭の日も、地上の健やかな営みをそっと見守ってきた秋空。

ルパンの静かな佇まいはいつも、そんな秋空のようだった。

行事ごとは、大抵、晴れだった。秋空は、晴れて当たり前だった。それが、秋空であり、俺にとってのルパンだった。

秋空が静かに温かく見下ろしているように、ルパンは、静かに温かく佇んでいた。幼いころからずっと、俺の隣で、静かに晴れ渡っていた。

だから、俺は、思ってしまったんだ。秋空が、明日も明後日もそこにあるように、あいつも、明日も明後日も、俺のそばでずっと晴れ渡っていると。









「ヤッチン、泣くなよ、ほら」

え、俺、泣いてるのお?冗談だよね?

見ると、目の前には、ルパンが笑みを寄こしている。仕方のない奴だな、目がそう言っている。伝わり来るルパンの静かな優しさ。その落ち着いた顔に浮かぶ、小さな笑みが、俺の心を、安らぎで満たしていく。さざ波が広がるようにゆったりと。

「失恋したんだろ?もっと、俺に甘えていいぜ?」

失恋ね。ああ、したよね。だからって、俺、そんなに酷い顔してるのかなあ?毎度のことなのにさ。世間に知れ渡るモテ男の俺が、実は失恋ばかりしていると、お前だけが知っている。一言も語ることがなくても、どういうわけか俺の傷心を察知する。それって、愛のせいなのか、と尋ねたらどんな答えをくれるかな?いや多分殴られるね。

ルパンは、俺の頬に手を伸ばしてきた。優しい手つきで、頬を撫で上げる。ただの愛撫じゃない、涙を掬い取る愛撫だ。涙とともに、哀しみも掬い取る。俺の頬から、ルパンの手のひらへと、涙とともに哀しみが移っていく。いつも、お前が、俺の哀しみを半分、吸い取ってくれたよね。ルパンにも、自分の分の哀しみがあるはずなのに。

「慰めて欲しいときは遠慮するなよ。親友だろ?」

ルパンは心配そうに、俺の顔を覗き込んできた。息がかかるほど顔が近い。昔は、いつも、くっつきあって遊んでたよね。でも、最近は、お前がそんな親しげに寄ってくるの、珍しいね。

いつのころからか、そう、中学の頃からかな、お前ってば、急に大人っぽくなって、何事にも顔色を変えない奴になっちゃって、ふざけるのは、俺一人の担当になった。俺、お前について行くの必死だったんだよ?それに、気づいてるか?

どうして、今更、そんな優しい顔するのかなあ?お前には、もう、恋人がいるくせに。恋人のものになっちゃったくせに。そいつに、好きなようにされているくせに。

久しぶりに与えられる優しい眼差しが、何だか切ない。ああ、俺も、余所向いてたよね。お前が何を考えているかなんて想像もしないで、余所向いてた。お前って、いつも大丈夫な奴じゃん?絶対に倒れない奴じゃん?何でも平気な奴じゃん?でも、もしかしたら、お前も、つらい想いとかしたことあるのか?

大人になれた今になってやっと、決して恵まれて育ったわけではない親友が、幼かりし日から今日までどんな想いで生きてきたのか、その胸中に思いを馳せてみるだなんて、俺、カッコ悪い奴だね。でも、お前以外の前では、結構気取ってるんだよ?弱っちい奴を助けたり、慰めてやったりしてるんだよ?頼りになる男だったりするんだよ?

俺は、ルパンの静かに笑む顔に見惚れてた。ああ、俺、こいつ、好きだな、こいつのツレでよかったな、こいつから離れなくてよかったな、地味なこいつの良さに気付けた俺はでかした奴だな、とか思いながら。

俺の頬に優しく伸びた手を、俺の手で握った。ルパンがびっくりしないように、そっと。だって、驚かせると、心配してくるからさ、こいつは。逃げたり、ビビったりせずに、ただ、心配する奴だからさ。心配して、勝手に解決してくれるような奴だから。何でもかんでもさ。たった一人で無理してさ。平気な顔したままでさ。

「じゃあ、こんなことしていい?」

俺は、ルパンのうなじに手を伸ばし、引き寄せた。


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あきゅろす。
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