[携帯モード] [URL送信]

ルパンの恋人
2
小学生のときには、ダディに嫌われると怯える俺の通信簿を、見事、改竄した。六年時には、クラスのほとんどの奴の通信簿の改竄に手を染めていた。こいつの手、印刷工みたく、汚れてたよな、砂消しゴムとインクで。

中学生のときには、弁当を忘れた奴がいると、どこからともなく調達してきて、配ってた。あれ、先公の盗んでたんだよな、きっと。

高校のとき、教頭のフサフサが風に飛ばされたときはスゴかった。何事が起きているのかわからない俺たちの目の前で、こいつは、すぐさま、飛び上がってフサフサをキャッチし、秒速で元通りにかぶせやがった。一瞬のことに、教頭本人も何が起きたかわかってなかったよな。お陰でその場は、平和に過ぎた。巧妙なズラに、こいつ、いつから気付いてたんだろう。

美術のロン毛の総入れ歯も知ってたし(どんだけ甘党だよ)、物理のイケメンが白ブリーフ派なのも知ってたし(その顔ならボクサーはけ)、英語のボインのハルンケア愛用も知っていた(だから修学旅行はいつもパスだったのか。オネショとか心配だしな)。

……まさか、俺のボラギノールまでは知らないよな?

他にも、生徒用トイレの火災報知機をこっそり壊したり(愛煙家のため)、セクハラ教師の名前を書いたブルマを派出所の前で落としたり、秘密裏に、かなり反社会的な行為を重ねている。

地味な外見の内側に、超越した能力を隠したワルだ。

俺は、怪盗紳士の名に恥じないワルの横顔を眺めた。

「ルパン、俺に隠してることあるでしょ」

「別に」

だが、どんなワルだろうと、俺には、こいつを憎めない。こいつは、命がけで俺を助けようとしたこともある。あのオッサンがいなければ、こいつ、今頃、死んでた。

ワルはワルでも、こいつは、良いワルなのだ。

「ルパン、最近、何か出てるよ?」

俺の声に、炬燵に皿を並べ終えたルパンは、紫フレームの眼鏡の奥から、面倒臭そうな目を向けた。家の中でだけ、眼鏡をかけている。目立つ色のフレームだが、全体的にセンス良くまとめているから、却って地味だ。水色のボーダーシャツ、首元には、細い皮紐を巻いている。俺の服より安物だろうに、はるかに、センスがいい。

「出てるって何が?」

「何かね、フェロモン的なものが」

俺は、その眼鏡を取り上げた。

胸を押すと、不意を突かれて、姿勢を崩した。

親友を、そのまま、絨毯に押し倒してみる。

……ふ。

俺に無防備なお前が悪い。

「何だよ?」

驚いた顔もせずに、面倒臭そうに、見上げている。こいつは、少々のことでは、驚かないのだ。

それに俺には何でも許してくれる。

「ルパン、女、できたでしょ」

俺は、親友に顔を近づけた。

親友は、否定しない。

何か悔しいぜ。

唇で、その唇を噛んでみた。

[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!