ルパンの恋人 1 親友んちの炬燵に寝ころ込んで、漫画を読みふけりながら、飯が出来上がるのを待っている俺は、かなり図々しい。 でもね、金持ちで頭も顔も性格もいい俺は、何をしても許されるから大丈夫。 プール付きの俺の家よりも、木造アパートのこいつの家の方が、落ち着くって、何でかな。こいつのママンが俺の好みだからかな。ごつい眉に逞しい肩、デカくてゴリラな女って、何かソソるよね。 ママンが、ハエを空手チョップで真っ二つにしたときの、俺の胸の高まりはなんだったのだろう。まさか、超奥手の親友には訊けない。 働くシングルマザーに育てられた親友は、腹減ったと言えば、飯くらいお茶の子さいさいで作ってくれる。あ、ママン、そういえば、ずっと独身だよね。何時に帰ってくるんだろう。恋人とかいるのかな。 「お前も箸ぐらい出せ」 親友が、フライパンを片手に告げてくる。 あ、生姜焼きだ。きゃっほい、うまそう。 「よしきた、ルパン」 「だから、その呼び方、やめろって」 ひょんなキッカケから、再び口にするようになった昔のあだ名に、嫌そうな顔をするものの、怒りはしない。 小学生の時からのツレであるルパンは、いつも、俺に甘いのだ。大抵のことには、平気な顔で付きあってくれる。 合コンにも、面倒臭がりながらもついてくるし、頼めば女の子のアドレスも聞き出してくれる。テニスに誘えば、少々体調が悪くても、本気で相手をしてくれる。 今日だって、ぶらりと寄っても、嫌な顔せずに、家に入れてくれた。 さては、こいつめ、俺に惚れてるな。 ルパンは、頭も切れるし、運動も出来る。センスもいい。顔だって悪くない。だが、地味で目立たず、大人しい奴だ。 高校までずっと一緒だったが、今は、俺はチャラい私大に、こいつは、地味な国立大学に通ってる。 俺は、金持ちで顔も頭も性格もいいから、いつでもどこでも話題の中心にいるが、こいつは、話題の端っこどころか、名前すら覚えられてないことが多い。 俺は、モテるが、こいつは、モテない。たまにコアなモテ方をするが、なぜか、相手の女の子は、片想いのまま諦める。こいつを熱い想いで眺めてたら、バリヤーを張っているのに気付くからだ。 誰とでも打ち解けるが、決して内面を見せない。何を考えているのかわからないが、頼れば、意外にも、何でも解決してくれる。 全然違うタイプの俺が、ルパンからずっと離れないのは、単に小学生のときからの腐れ縁だからじゃない。俺がこいつに甘えているからなんだよね。 俺は、知ってる。ルパンは、ただ者じゃない。 小学校からの付き合いだ。さすがに、わかる。 能ある鷹は爪を貸金庫に預ける、っていうだろ?こいつの正体は、ただの地味男じゃない。 地味を装うワルなのだ。 [次へ#] [戻る] |