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ソノ恋、逃レル不能
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「あのさ、転校生、少し、変わってるよね?」

俺は、さりげない感じで、問題を提起してみた。何しろ、ことは重大だ。俺の高校生活の安寧に関わる。いや、高校生活どころじゃない、俺の、人生観にすら、関わってくる。ことは慎重に運ばねばならない。

安田は、どうにかサンドイッチを飲み込んで、今度は、ミカンを眺めていた。まさか、それも、一口で入るかどうか、試すわけじゃなかろうな、おい、小2。

「んー?そうかなー。ま、俺も、最初はびっくりしたけど、慣れてきた。笑うと可愛くね?それに、外見と中身ギャップあるよね。俺、まりちゃんに、ボタンつけかえてもらったの。ほら、これ。俺、ギャップ好き。大好き。でかいギャップほど好き」

と、シャツの一番上のボタンを見せるこいつは、ただの小2じゃなかった。俺、大きくなったら、海賊王になるんだ、とか、ほざくレベルの小2だった。哀れな奴だ。ミカンで窒息しろ。ボタンの縫い付けが器用にできていることを確かめている、俺もついでに、殺ってくれ、ニ個めのミカンで。

確かに笑うと、可愛いよ。可愛いし、全体的にいい子っぽいよ。喋り方も丁寧だし、出しゃばりじゃないし、センスもいいし。しかも、親切だ。消しゴム探してたら、こっちが頼む前に貸してくれる。いつも笑ってるし。気配り満点だし。でもさ、肝心なところが、だめだろう。どれだけ中身よくてもだめだろう。

いやいやいや、と、また、「外見で、人を判断してはいけません」との言葉が頭によぎる。確かに女子の中で女子っぽくしてると女子に見えてくる。周りに女子っぽく扱われていると、女の子に見えてくる。

周りは驚くべきことに、すんなり受け入れている。俺のいない一週間に、順応したのか。どれだけ能力高いんだ。この連中は。頭にバナナ突き刺してるゴリラが先生でも、受け入れるだろう、お前ら。

しかし、俺だけが、奴にこだわっているとするなら、俺が間違っているのか。あいつは何か計り知れない事情があるだけの、普通の女子高生なのかもしれない。

だとすれば、俺はその事情の部分を見て見ぬふりをしなきゃいけないのかもしれない。誰にだって弱点はある。弱点は知らないふりで通すのが、礼儀ってヤツかもしれない。それができない俺は、自分のルールに縛られて、他人の個性を受け止めることのできないただのクズなのか?

現実否定と、自己否定の狭間に落ち込み、そのときの俺は、しばらくの間、親友が分け与えてきたミカンを受け取ることができなかった。

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