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ソノ恋、逃レル不能
3
学期末掃除は、さすがに、ペアではなかった。だが、席順に分けられ、俺やまりちゃんは、席が近いせいで、二人とも家庭科室に、割り振られていた。

アホで恋に盲目すぎて、視力がゼロになってる安田は、教室だ。家庭科室に向かう俺を、肘でツンツン、つついてきた。頼むぜ、のツンツンだ。あばたもえくぼすぎるだろう。視力、ゼロどころか、マイナスになってんじゃね?本気で、その道に進むのか?もしかして、マニアか?お前にそういう趣味があったとは、知らなかったよ。

家庭科室では、適当に流して手を抜いている奴らの中、まりちゃんだけは、やはり、あのちゃっちゃとした手つきで、箒で掃いている。

棚の後ろ側の埃を掃き出そうとして、重そうな棚を動かそうとしているまりちゃんを、手伝うふりをして、さりげなく、近づく。

「手伝うよ、一人じゃ無理だろ?」

と言ってみたものの、俺が手を出す前に、棚は、さっと、移動されていた。そうだ、こいつは、桃太郎だった。

「あー、ありがとうー。松本、昨日の怪我は、大丈夫?」

まりちゃんは、役に立たない俺に、それでも、ニコッとひまわりの笑みを寄こした。

いつッ。何、この縫い目。いきなり、俺を擦ってきやがったよ。こそばくて、たまらないだろうがよ。何で、胸のところが、こそばくなるんだ?

「うん、お陰で、助かった。もう平気。ところでさ」

「何?」

まりちゃんは、上から俺を見下ろす顔に、笑みを浮かべて首をかしげる。相変わらずでけえな。でけえし、たくましいな。母ちゃんになったら、頼もしいだろうな。頑丈そうで、働き者だし。う、何、こいつが、母ちゃんって。そこの家、父ちゃん二人になるだろ。

「あー、今度の日曜日、ヒマ?安田んちであいつの誕生日会があってさ、よかったら」

行かない?と尋ねようとする前に、まりちゃんは、ニコッと笑って言った。

「まりちゃんも、安田んちに行きたいなー」

あ、そうなの?

それはそれは、ちょうどよかった。誘う手間が省けたぜ。ラッキー。超ラッキー。かなりラッキー……。

おっと、縫い目よ、あまり擦るな。こそばゆい、を通り越して、何か、痛くなるだろ。

ふーん、まりちゃんも、安田んちに、行きたかったのか。

「じゃ、言っとくよ、安田に。まりちゃんも行くって」

「うん、ありがとー」

まりちゃんは、言いながらも、作業の手を休めず、棚を動かしては、その後ろから、たまった埃をかき出している。だから、俺も、ちりとりを持って、それを手伝うことにした。

「つか、さ。まりちゃん、安田んち、行きたかったの?」

「うん。とっても」

埃をかき出しながら、ニコッと笑顔を向ける。ひまわりよ、どうしてだか、今は、まぶしすぎるぜ。目に痛いだろ。

とっても?とっても、だとう?

ギギギ……。おっと、縫い目よ、お前まで、擦れきて、俺を痛くするなよ。いた、何、縫い目、いた、胸んとこ、痛くするな。

「じゃ、ちょうどよかったな」

「うん。よかったー」

「もしかして、安田のこと気になってるとか」

おいおい、こいつは、カップル誕生か?どえらいことになりそうだな、だが、まさかな、などと、思いながら、冷やかしたつもりが、まりちゃんは、何気なく「うん、そう。何か、気になるの」とか言った。

そっか、まりちゃんも、安田のことが気になってるのか。まあ、安田はアホだが、顔はいい。性格が悪いが、顔だけはいい。結構、モテるし。そうか、そうか、まりちゃんも、安田が。じゃあ、こいつら、相思相愛じゃん……。

う、この縫い目、痛い。この縫い目、痛い……。


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