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禁じられた恋のナミダ※連載休止中
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あなたが自分を許さなくても、私が許してあげる。あなたの恥も罪も何もかもを。だから笑って?







武蔵出は、仮眠から覚めてもなお、記憶の中の情景に耽っていた。無機質な部屋で、柔らかな夢の中のくすぐられるような光景に、束の間、浸る。しかし、それも、一瞬のこと、夢を引きずる自分を呪いながら、目を開けた。

なおも耳に残っている、柔らかな囁き声。消えることを欲しても、決して消えない声。

あの女は、死ぬ最期の瞬間まで俺を許したに違いないが、今でもまだ許すだろうか。何もかもを許すと、今の俺にもなお、囁きの言葉をくれるだろうか。

あの女は呆れるほどに何も残さなかった。腹の中の小さな命を抱えたまま、死んだ。それが、どんな死に方であろうと、死ぬ、というのは、残された者に対する最大の裏切りだ。たとえ、殺されたのだとしても。

あの女もまた、俺を裏切った。

子どもじみた怒りがこみ上げる。

許さないと言って、消えてほしかった。どうせ、目の前からいなくなるのならば。許さないと言って。

こんな自分を諦めて、そして、消えてほしかった。そこに許しがある限り、まだ、自分を捨てきれないでいるのだから。

こんなおのれを余すところなく捨てて、一刻も早く、別のものになり果ててしまいたかったのに。

武蔵出の手の中で、携帯電話は震えている。自分を眠りから呼び覚ましたそれを耳に当てた。

それを閉じた後、立ち上がった。








「予定が変わった。計画を3時間、早める」

ドアを開けた武蔵出は、自分に纏わりついてきたナオを冷たく追い払い、ヨンファを見た。いかにも、ナオを遠ざけろ、と言わんばかりの顔付き。

ヨンファは、少しばかり非難のこもった目を武蔵出に向けてから、ナオに呼びかけた。

「ナオ、こちらへいらっしゃい。私のそばにいらっしゃい。ね?遊びの続きをしましょう?」

ナオは、寂しそうな微笑をたたえながらも、素直にヨンファのもとにやってくる。ヨンファはナオを、自分の横に座らせて、鉛筆を握らせた。ナオは、不規則な数字の列を書き始めた。覚えこんだ円周率を、紙の上に、延々と書き綴っている。

武蔵出に不服そうな目を向けるヨンファ。

「3時間も早めたら、出発は、一時間後。無理よ」

武蔵出は、冷ややかな眼差しを向けた。

「命令は絶対だ」

ヨンファはその武蔵出の顔つきに、彼が既に全身を緊張状態に入り込ませる準備をしていることを知る。

武器庫に通じる部屋に向かおうとする武蔵出は、背後に言葉を投げかけた。

「首相の方の予定が変わったんだ。気まぐれなのは俺じゃない、官邸だ」

やれやれ。

また、着替えなくちゃ。

ヨンファはナオの手を取った。せっかく着せ込んだジャケットを脱がせて、今度は、合金繊維が編み込まれたスーツを着せなければならない。防弾処理がなされた特殊カーボンスーツを。




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