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証―彼は僕のものになる
やっぱ、友達じゃなくね?
「あのさ、どうして、こんなことするの?」

もう何度目になるだろう。秀麿との勉強は、毎晩続いていて、体をいじられるのも、同じく続いていた。秀麿は、僕の腹をティッシュで拭いながら、興味なさそうに答えた。

「さあ? お前がやらせてんじゃねーの?」

拭き終ると、いつものように、僕の腰を持ち上げて、ジーンズを穿かせる。慣れた仕草だ。女の子にも、こんな風にやってあげているのだろうか。

もう、ここのところ、毎晩のように、僕は、彼の手によって、僕自身のものを吐き出されている。はああ、ホント、僕は、元気な高校生なんだ。

「いやか?」

「当たり前だろ」

「ふうん」

秀麿は、立ち上がると、ベッドから離れて、勉強机の前に座った。雑誌をめくり始める。涼しい横顔に腹が立ってくる。

「もう、勉強はみてくれなくていいから。学校の授業もわかるようになったし」

僕は、立ち上がって、勉強机の上の教科書を取り上げると、ドアに向かった。

後ろから、手首をつかまれる。

「本気で嫌なら、本気で嫌がれよ」

秀麿は、面倒臭そうに、僕を引き寄せると、キスを仕掛ける。

僕は、顔をそむけた。

「やめろってッ」

自分でも驚くような大きな声が出た。一瞬、秀麿は、意外そうに僕を見たが、すぐに、僕の頭を抑え込んできた。秀麿の暗くなった目が怖くて、目をつぶった。

唇を奪われる。

舌が乱暴に侵入してくる。唇を何度も噛まれる。舌をからめとられ、齧られる。

どうして、こんなことされなきゃいけない。これは、何の罰だよ。

濃厚なキスの後、僕は、秀麿に体を預けて、自分の乱れた呼吸を遠くに聞いていた。唇の端からは、よだれが垂れている。秀麿のシャツについてしまうといけない。僕は、手の甲で、拭ってから、後悔した。全部、彼のせいだろうに。

「お前、大学行けよ。そうだな、俺の学校の大学に合格すれば、やめてやる」

「無理だ」

聖ジュリアンナ学院大の偏差値がどれだけ高いか、わかって言っているのか。僕の高校からは、通る筈がない。そんなことがあれば、開校以来の大騒ぎになる。

「お前は、頭は悪くない。性格が悪いだけだ。勉強を続ければ、受かる」

秀麿は、僕の頭を撫でている。

褒められているのか、貶されているのかわからないが、気持ちがすうっと落ち着いてくるのがわかった。

秀麿の胸は温かい。抱っこされるって、こんな感じなんだ。今まで、誰かに抱っこされたことなんて、あったっけ。僕だって、小さいころ、だれかに抱っこされたはずなのに。

「僕は、就職する。そして、ここから出ていく。あんまり、迷惑はかけられない」

これは、当然の選択だ。この選択肢しかない。今すぐに、高校を辞めて働きたいくらいだが、中退して就職するのと、半年後に、新卒で就職するのとでは、どちらが有利か、僕にも分かる。先生も、それくらい、アドバイスしてくれる。

秀麿は、頭をなでる手を止めた。溜息を一つついた。

「お前さ、自分のこと、わかってんの? どれだけだめな人間か、わかってんの? お前みたいなのが高卒で就職しても、すぐに、リストラされて、派遣に転落して、派遣も干されて、路上生活だ。挙句の果ては、首吊り自殺。だめな人間こそ、大学に行くべきだ。俺みたいに、どうやってでも生きていける人間には、学歴など要らないが、だめなやつは、箔つけなきゃいけないんだよ」

とても残念な未来図を勝手に描いてくれているが、自殺を図った経験のある僕には、かなり現実味のある話だ。

「でも、進学は、不可能だ。金もないし、助けてくれる家族もない」

秀麿は、急に、僕の胸を押した。

僕は、秀麿の膝からずり落ちそうになって、慌てて床に足をつけて立つ。

「ああ、めんどくせーな、お前。ともかく、約束な。お前が、俺の大学に合格したら、もう、お前をいじって遊ぶのをやめてやる」

はァァ? 今、さりげなく本音、言ったよね。遊んでるって、言ったよね。僕は、あんたのおもちゃか何かか?

「落ちたらどうなる? ずっと、こんなことされるのか?」

「あー、もう、うざい。部屋に帰れ。そのときはそのときだ」

秀麿は、プイと背中を向けた。

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あきゅろす。
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