証―彼は僕のものになる 彼が僕に残すもの 二人とも、それぞれの生活があって、あまり、長い時間を過ごすことはできなかったが、一緒にいる間中、秀麿は、いろんなことを与えてくれた。 秀麿は、文学、絵画、社会や政治のこと、世界のこと、いろいろなことをよく知っていた。その知識や考え方は、とてもじゃないが、高校生とは思えなかった。 時間を惜しむようにして、秀麿は、僕にいろいろなものを教え、与えていく。 僕のバイトが空いた時間には、バスケ部の練習を見学に連れて行かれたり、彼の友人が家に来たりすると、付き合わされる。 「こいつ、この面して、お前らの先輩になるつもりだぜ。性格は悪いし、いいとこないが、おもしれー奴だから」 とても嫌な感じの紹介をする。しかし、彼が、僕に友だちを残していこうとするのが、よくわかった。秀麿の友だちは、彼に似ていて、いい奴ばかりだった。僕とはかけ離れているから、馴染めるか心配だったが、意外にも、秀麿抜きで、話せる相手もできている。 しかし、彼がそうやって僕にたくさんのものを残していこうとするのが、ふと、たまらなく、怖くて不安で、どうしようもなくなる。 単なる親切というには、あまりにも、多くのものを分け与えてくる。 もう二度と会えないわけでもないのに。 しかし。 僕は、何も、知らなかった。彼のことを、こんなに好きで、そばでずっと、抱きしめてきたのに、腕の中で、心の中で、抱きしめて過ごしていたのに、彼の気持ちも考えていることも何かも、まったく、知らなかった。 [*前へ] [戻る] |