03 「はぁ…はぁ…」 バーの外は、怪しげな路地だった。 私は人目も気にせずしゃがむ。 「ロベリア」 ジュードの声がして、肩に優しく手が置かれた。 「ジュード…」 「元気出して。僕、いいこと聞いたんだ」 「いいこと?」 立ち上がると、ジュードが頷いた。 「リドウさんが、さっきの写真、ユリウスさんに送るつもりなんだって」 「そ、それ、全然いいことじゃないよっ!?」 青ざめた。兄さんに見られたらなんて言われるか…! 「ユリウスさん、生きてるんですかって聞いたんだ」 「!」 ジュードの言葉に、息をのむ。 「…死んでてくれたら嬉しいけどね、だって!」 「じゃあ!?」 「うん!ユリウスさん、無事なんだよ」 よかった…! 「メガネのおじさん、生きてるの?」 バーから出てきたエルを、抱き抱える。 「うん!無事なんだって!」 「お、下ろしてー!」 「あ、あはは、ごめんね」 笑みが止まらない。 「あの兄さんは、幻だったのね」 「幻…?」 ジュードが首をかしげる。 「だってノヴァも無傷だし、兄さんも生きてる!何か幻を見てたのよ!」 「マボロシー?」 「あれは全部、夢だったってこと!」 そう、悪い夢だったんだ。 ジュードが顔を上げた。 「これからどうするの?」 「カナンの地!」 エルが慌てて叫ぶ。 「エルは、カナンの地にいかないと!」 「その、カナンの地っていったい何なの?」 「カナンの地は、古い精霊伝承に出てくる伝説の場所でね。魂の循環を司る精霊が棲んでるって言われてるんだ」 「そうなの…」 ジュードは物知りだなぁ。 そう言えば医学者って言ってたものね。 「なんでもお願いを叶えてくれる不思議なトコロなんだって」 「そういう、お伽噺?」 「ほんとなのー!エルのパパが言ってたんだから!」 すぐむくれるエルが面白くて笑うとまた睨まれた。 「…一概にお伽噺とは言えないかも」 「ほら!」 エルがジュードの援護にふんぞりかえる。 「伝説では、カナンの地は、意志の槍をもった賢者クルスニクが辿り着く場所とされてるんだ」 「クルスニク!?」 「槍持ってた!」 何それ。そんなの聞いたことない。 「あれが現実ならカナンの地だって―。けど、あれは一体…」 ジュードが私を見る。 申し訳ない気持ちで首を振った。 「わからない。あんな風になったの、初めてなの」 「そっか…」 ジュードが少し考えて、エルを見た。 「エルは、どうやってカナンの地に?」 エルは答えようとして、うつ向く。 「…わかんない。パパが、あの列車にのれって…」 「じゃあ、パパと一緒に来た訳じゃないの?」 「パパは…」 更に聞くと、エルが黙ってしまった。 「エルって迷子…だよね?」 「そうみたいね…」 うつ向くエルを見る。 エルに近づき、目線を合わせた。 「エルは、どうしてカナンの地に行きたいの?」 「パパと約束したから!約束は守らなきゃダメでしょ?」 「…そっか」 エルが強い目で私を見る。 パパとの約束を守る為に、こんな小さい子がたった一人でここまで来たんだ。 不安だろうに、それを押し隠して。 「あのメガネの怖いおじさん、カナンの地知ってるっぽかった」 「…」 ―どこでそれを! 思い出し、背筋が冷える。 「ロベリア、ユリウスさんのGHSにかけてみた?」 「あ!」 忘れてた! 私は急いでGHSを取り出し、兄さんの番号にかけた。 一回コール音がして、 『おかけになったGHSは、只今応答できない状態にあります』 という声が聞こえた。 「ダメみたい…」 がっかりして、GHSを仕舞う。 「とにかくロベリアの家に戻ろう。ユリウスさんが無事なんだから、連絡が入るはずだよ」 「ジュードも…一緒に来てくれるの?」 「お節介かもしれないけど…」 「ニャー」 恥ずかしそうに言うジュードに、エルがルルと顔を見合わせる。 「そんなことないって」 歯を見せて笑ったエルにつられて、笑った。 ジュードもルルに笑いかける。 「ありがとう。えっと…」 「…ね、この子の名前教えて」 「ルルよ」 「ルル!」 エルは嬉しそうにルルの前足を掴む。 「エルと似てるね!」 「ニャー!」 [*前へ][次へ#] |