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シークレット・アイドル『アキ』
伝説を作ったアイドル


特集!伝説を作ったアイドル!

年齢不詳!事務所無所属!

今、老若男女問わず日本中を震わせるアイドル!


アキ!!




「伝説を作ったアイドル…ねぇ」


少女は、手に持つ雑誌のページを捲り、水着姿の愛らしい少女がアップで写っている見開きのページを開ける。

そしてその視線をそのまま上へとずらし、

目の前でニカッと笑う少年に向けた。


「水着なんてどうやって撮ったのよ」

「あぁ、それ?兄ちゃんが合成した」

「…輝さんの技術悪用し過ぎ」

「そっちの方がウケるんだって」


中ニ男子にして、146センチの小柄な身長。

透き通る、しかし健康的な色合いのスベスベモチモチの肌。

いくら鍛えてもつかない筋肉。

クリクリとよく動く大きな目、愛らしい鼻と唇。

まだ声変わりの兆しも見えない、高い声。

親しい幼なじみを眺め、少女、神宮芽衣子は思う。

彼は、昔から全てにおいて、芽衣子より『少女』だった、と。

七五三のとき、桃太郎をした芽衣子に対し、彼はシンデレラの衣装を着た。あまりに可愛かったため、その写真は引き伸ばされ、写真屋の広告として使われている。

小学校中学年のとき、誘拐された二人は、彼は誘拐犯をその魅力に溺れさせ、芽衣子は習っていた護身術を使い、その場を切り抜けた。

極めつけは、アイドルオーディションである。

彼の姉が面白がって出したオーディションに、書類審査で芽衣子は落ちたが、彼の方に一次審査合格通知が届いた。

そして、彼の兄による完璧なメイクで彼はオーディション最終審査を合格。

しかし事務所には所属せず、好きなときに好きなものに出るという気ままなアイドル活動を行なっている。

アイドルネームは、アキ。

つまり、今芽衣子の目の前にいる少年、中塚明こそが、アイドル、アキその人なのだ。


「ここの雑誌の記者ってスゲー髭濃いんだぜー。笑い堪えんの必死だったし」

「堪えてないじゃん。伝説のアイドルとの対談にしては『(笑)』多すぎでしょ」


芽衣子の言葉に、明は机をバンッと叩いて言った。


「伝説のアイドルじゃねぇよ!伝説を作ったアイドル!」

「どう違うのよ」


うんざりして返す芽衣子に、明は唇を尖らせて応える。


「違う!伝説のアイドルって言ったら、もう終わった奴みてーじゃん」

「おっ。なんだぁ?まーた痴話喧嘩か?二人と…っ」


横から入ってきた少年、山崎雄二の言葉が続くことはなかった。

何故なら、雄二の言葉に、芽衣子が素早く技をかけたからだ。


「誰と、誰が…痴話喧嘩だ?」

「あっ、ちょっ、ギブギブッ!俺が!俺が悪かったですぅー!」

「まぁまぁ。メイちゃん落ち着いて」


おっとりした声の少女に、芽衣子は技を解く。

後ろで激しく咳き込む雄二を無視し、芽衣子は少女、多田麗花を振り返った。


「麗花」

「二人で何の話してたの?」

「あー…」


友人である麗花の問いに、視線を泳がせ、雑誌を背表紙を上に置いて、中身を見えないようにする。


「まぁ、雑誌の話」

「雑誌ってどんなだよ…って」


雑誌を持ち上げた雄二が固まる。

しまった!と芽衣子と明が思ったのも後の祭。


「これ、明日発売の『月刊アイドル特別号!ついにあの伝説のアイドルアキとの対談に成功!』じゃねぇか!」

「だから伝説を作ったアイドル、だっつーの」


スラスラと出てくる単語に、芽衣子は苦笑いをして返した。


「まぁ、その、知り合いのツテでだな…」

「うわ、ちょ、その人紹介しろよ!てかちょっとこれ貸して!ってうわー!!!!」

「忙しいねぇ、雄二君」


雄二は見開きのページを開けて、固まった。


「お、おい、雄二?って、ぎゃあっ!」


明が覗きこむと、雄二はポタポタと鼻血を垂らして例の水着写真を見ていた。

明と芽衣子はぎょっとして雄二から一歩離れる。


「ゆ、雄二…?」

「はい。雄二君、ハンカチ」


麗花のハンカチを黙って受け取り、静かに鼻血を拭いてから、雄二は大きく息を吸い、

叫んだ。


「アキちゃあぁぁーー−ーーーーーーーーーーーーん!!」


芽衣子と明はもう二歩離れる。


「はぁ、はぁ…」

「だ、大丈夫か?山崎」

「大丈夫、大丈夫だ。アキちゃんのスク水の可愛さに死にそうになってたが俺はまだアキちゃんを生で見たことがないから留まった」

「毎日見てるけどな」


ボソッと明が溢した言葉に、芽衣子が蹴りを入れる。


「しかしまぁ、水着姿はこの雑誌初公開じゃないか!?」

「そ、そうじゃね?」

「どんな格好してもアキちゃんは可愛いぜぇ…」


雑誌に頬擦りする雄二に、三人はため息をつく。


雄二はアキを初めて見たときからファンだったらしく、ファンクラブを設立、その会員No.1であり会長である。


「明ぁ!」

「んだよっ!」


雄二がズイッと明に顔を寄せて喋る。


「知ってるか?」

「何を」

「…お前近くで見たらますますアキちゃんそっくりだな。ハァハァ」

「やっ、止めろ気色悪ぃ!」


明は雄二を蹴飛ばす。


「じゃなくて、お前ら!アキちゃんの歌手デビューが決定したそうだ。拍手!」


麗花がパチパチと拍手をする。

芽衣子と明は顔を見合わせた。


「お、おいおい。何処情報だ?それ」

「いつも予言的中するブログサイト『守銭奴の舘』の情報だ。まずガセはない」

「(姉ちゃんかよっ!)」






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