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美食日記
アーサーの場合


私はアーサーの家の前で深呼吸した。


(大丈夫…用だけ終わらせて帰ればいいんだ)


震える手でインターホンを鳴らす。


ピンポーンという音の後、足音がして、アーサーが出てきた。


「誰だ?って、名前!」

「トリックオアトリック!!」

「一択かよ!!」


とりあえずベタなことやったので、アーサーとすれ違い家に入る。


「お邪魔しまーす」

「入るのかよ!まぁいいけど…」


アーサーの家はきれいに整頓されていて、テーブルの上には花瓶が飾ってあった。


「茶飲むだろ?適当でいいか?」

「うん」


アーサーがキッチンに向かった。

ちょうどいいので、お皿とフォークを借りてさっきのケーキを並べる。


「はぁ〜、幸せっ!!」


一つ一つ堪能していると、アーサーがティーカップを置いた。


「ほら。ダージリンだ」

「あ、ありがとう…!?」


芳醇な香りのダージリンの隣に、上品な皿に乗った黒い何かが異臭を放っていた。


「…」


私はその皿をそっと避け、カップが触れないように引き寄せた。


「避けるなばかぁ!」

「ちっ…」


バレた。


「でも、名前が来るなんて珍しいな」

「あ、そうそう。フランのお使いなの。『来シーズンの茶葉が入ったから飲ませてやってもいいぜ』って」

「はぁ!?なんであいつはいちいち上から目線なんだ」


アーサーは眉を寄せるが、フランも紅茶に関してはアーサーを信用しているんだろう。

どちらにせよ、あの店のキッチンにアーサーが立つのはぞっとしない。


そう思いながらダージリンを飲み、最後のマドレーヌにかかろうとすると、横から手が伸びてきて、頭に触れた。

いつの間にか隣に座ったアーサーが、頬杖をついた手とは反対の手で、付け耳をふにふに触っている。


「なんでオオカミなんだよ。もっとこう、あるだろ、魔女とか」

「似合わないもん。オオカミが私のキャラに合ってるでしょ」

「べ、別に一緒にホグワーツの男女制服着ようと思ってたわけじゃないからな!?」

「ふーん」


そう言いながら、アーサーは飽きずに耳を触っている。


(似た者同士め)


「つーか、そっちは何かねーのかよ」

「何が?」

「俺の格好見て、なんかあるだろ」


妙にそわそわするアーサーは、チェックのローブを着て、同じ柄の帽子を被りパイプまでくわえている。


「…チェック好きの作家?」

「ちげーよ!!ホームズだホームズ!!」

「ふーん」

「お前、アルのも見ただろ?どうだ、俺の方がかっこいいだろ?」


勝ち誇ったようなアーサーに若干イラッときたが、アルの仮装ジェイソンを思い出したらそれも吹っ飛んだ。


「かかか、完成度は断然アル」

「なに!?」


ふと時計を見ると、もう昼を回っていた。


「ごちそうさまでした」


私は手を合わせて席を立ち、カップと皿を洗って適当に置いた。


「もう帰るのか?」

「うん」


玄関で靴を履いていると、アーサーがバタバタと動く音がした。

すごく嫌な予感。

やがて出てきたアーサーはやはり、紙袋を持っていた。


「これ、持ってけよ」


視線を向けずに押しつけられ、ひとまずそっと袋を開ける。

もわっと臭う焦げとか油とか諸々の臭いに泣きたくなった。


「…いいよ。気持ちだけで。いやほんと、気持ちだけで」

「べ、別にお前の為に作ったんじゃないぞ。戸棚の妖精さんが作ってくれたんだからな」

「さんを付けるな。そしてその妖精今すぐ抹殺しなさい」


アーサーに紙袋を押しつけ返す。

そのまま逃げるように、アーサーの家を出た。













何が怖いってアーサーのお菓子です





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