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美食日記
06


キィ…

扉を開ける。

繋いでいる菊さんの手が、少し強ばった気がした。


すると、中からパタパタ音をさせて、湾ちゃんが出てきた。

菊さんを見て、少し目を見開き、


「どうぞ…」


と私たちを席に案内した。

店には人はいない。

菊さんと並んで席に座る。

湾ちゃんは厨房に走って行った。


「…あの、名前さん。これは…」

「言ったじゃないですか。お料理食べて欲しいって」


菊さんに笑いかける。

するとすぐに香辛料の香りが私の鼻をくすぐった。


「あ、ほら!来ますよ!これは…」

「酢豚あるよ」


耀さんが、皿を持って立っていた。

私と菊さんの前に皿を並べる。

菊さんはじっと酢豚を見つめている。


「菊さん!」

「はい」


私は両手を合わせて菊さんに微笑んだ。

菊さんは面食らった顔をして、笑った。


「いただきます」

「いただきます!」


菊さんが、酢豚を口に運ぶ。

いつの間にか厨房から出てきた湾ちゃんとヨンス君と、耀さんと一緒に見つめた。


「…だから、」


菊さんが微笑って、


「パイナップルは入れないでくださいと言っているのに」


と呟いた。

耀さんたちはあからさまに息を吐いた。


「そ、そっちの方が酸味が効いてて美味いあるよ」

「まず暖かい物にパイナップルを混ぜるという感覚がわかりません」

「えー?私は好きだよ?師匠の酢豚」

「俺も!俺も!」

「…別に嫌いだとは言っていません」


一気に騒がしくなる人たちに微笑んで、静かに立ち上がった。






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あきゅろす。
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