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美食日記
02


「そういえば、さっき思ったんですけど、」


二人でベンチに座って話しているとき、私が唐突にロヴィーノさんの方を向いた。


「ロヴィーノさんって、なんか懐あたりからいい匂いがしますね」

「そ、そうか?ああ、これのことか」


ロヴィーノさんは財布を取り出し、財布のポケットの中から小さな袋を取り出す。


「サシェだ」

「うわぁ。お洒落ですねぇ」


目を細めて匂いを嗅ぐ。


「ラベンダーですか?」

「わかんのかよ?これ結構匂い薄いヤツだぜ?」

「自慢じゃないですけど、私、味覚と嗅覚は人の五倍あるんです」


ふふんと笑うと、変なヤツだな、と言われた。失礼な。


「じゃあ、そろそろ行くか」

「え?何処に行くんですか?」

「どっか行きたいとこあるか?」

「美味しいものが食べられるところで!」

「…薄々思ってたけど、お前」


そこで、ドン!と凄い音がしてロヴィーノさんが後ろに尻餅をついた。

やせ形のロヴィーノさんにぶつかったのは、いかにもなお兄さん。

ロヴィーノさんはお兄さんを見ると、顔を青くして立ち上がった。


「ああ?何処見て歩いてんだよ」

「す、すいませんでしたぁ!どうぞ、お通り下さい!!」

「チッ…」


道の脇に避けたロヴィーノさんの代わりに、お兄さんのゴツい腕を掴む。


「ああ?」

「財布、返して下さい」


ロヴィーノさんと周囲の人間が、お兄さんを一斉に見る。

お兄さんは少したじろいで、私を睨んだ。


「よぉ、姉ちゃん。なんの根拠があってそんなこと言ってんだ?」

「ロヴィーノさんのサシェの匂いがあなたに移りましたから。警察は呼びませんから早く返して下さい」


私の夜ご飯代、という言葉を急いで呑み込む。危ない危ない。

周囲の人間がひそひそとお兄さんを見て、話を始めた。

お兄さんは私を一層強く睨んで、私の胸ぐらを掴んだ。


「てめぇ。いい加減にしねぇと…グフッ!?」


私が胸ぐらを掴まれた状態から、お兄さんの顎にアッパーを加えたことで、お兄さんは不意のダメージに目をチカチカさせて座り込んだ。

私はすかさず、懐からロヴィーノさんの財布を抜く。


「あっ!俺の財布!」

「すみません。正当防衛ということで」


私はお兄さんに頭を下げ、急いでロヴィーノさんの手を掴んで逃げようとした。

が、復活したお兄さんに腕を掴まれた。


「待てよ。ゆっくり話し合おうじゃねぇ……ガフッ」


お兄さんは、台詞の途中でドサッと崩れ落ちた。


不思議に思って振り返ると、そこには、


「耀さん!!」


中華鍋を持った耀さんが立っていた。ちょ、湾さんにそれ教えたのあんたか。そして何故今中華鍋を。


「名前、こんなところで何してるあるか」

「耀さんこそ…あ、ありがとうございました」


ペコリと頭を下げると、耀さんがたくさんの袋を見せて、「買い物ある」と言った。


「ところで、そいつ、誰あるか」

「あ、彼は「ああ?てめぇこそ誰だよ」

「…ロヴィーノさん?」


ロヴィーノさんを見ると、ギギギ…と怖い効果音でも付きそうな顔で耀さんを見ていた。

耀さんも眉間に皺を寄せる。

これもしや…、二つ合わせちゃいけない感じ…。


「ほら。行こうぜ、名前」

「へっ?あ、じゃ、じゃあ、また!耀さん!」


ロヴィーノさんが私の腕を掴んで歩き出す。

私はとりあえず、耀さんに向かって手を振った。

そのときの耀さんの顔が、私の頭に焼き付いた。






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