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 尾鰭をつけた噂は相変わらず学校中に流れているが、一護も恋次もいつもと変わらない普段通りの生活をしていた。雨竜の方も相変わらずで、気が向けば一護たちと昼食を共にしている。
 今日だって例の如く、一護は雨竜を昼食に誘おうと彼女の席に寄って行こうとしていた。けれど、どうしてか一護は途中でそれを止め、恋次たちの方に戻ってきてしまう。
「今日は誘わねえのか?」
 思わず恋次が聞くと、一護は何処か嬉しそうな、安心したような笑みを浮かべて視線を雨竜の方へ向けるだけだ。不思議に思った恋次と他三名が一護の視線をたどると、そこには珍しく女子生徒――井上織姫と話している雨竜がいた。その顔はいつもより穏やかで、優しく見える。
「今日は必要ねえだろ」
 一護の言葉に皆は同意しそれぞれ屋上に向かおうと動き出したが、恋次だけは何故か動けなかった。
 初めて見る雨竜の笑顔に、目が離せない。それは恋や愛という甘い感情によるものではなくて、ただ純粋に驚きの為だった。恋次の中の石田雨竜と言えば、昼食を共にしている内に多少は近付けたかもしれないが、いつも無表情で何を考えているのかわからないような存在だ。笑わない人間なんていないということくらいわかっていたが、雨竜が笑うだなんて思いもしなかった。
「恋次、どうしたんだよ」
 中々歩きだそうとしない恋次に、一護は訝しげに声をかける。恋次はなんでもないと答えようとしたが、先に口を開いたのは楽しそうに笑う水色だった。
「あ、もしかして石田さんの笑顔に見惚れちゃった?」
「なになにそうなのか!?まあ確かに笑ったら可愛いもんな!なんで普段笑わないんだろう、勿体ないよなあ」
 水色だけでも恋次にとっては面倒なものだったのに、続く啓吾の言葉に恋次は辟易してあからさまに溜息を吐いた。
「そんなんじゃねえよ。本当におまえらはうるせえな」
「浅野さんとは一緒にしないでよ」
「なんでそこで敬語?そんなに俺と一緒にされるのが嫌だったの?」
 泣きつく啓吾とそれを軽くあしらう水色たちと言いあっている内に、恋次はすっかり頭から雨竜のことが抜けてしまっていた。だから、気が付かなかったのかもしれない。恋次を見る、怖いくらいに真剣な一護の視線に。



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