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 雨竜にボタンを付け直してもらったあの日から、案の定恋次と雨竜の仲がいいという噂がクラス中に流れ始めた。いや、それだけではない。二人が付き合っている、雨竜が一護から恋次に乗り換えた、果ては雨竜が二股をかけているなんていう内容も恋次は耳にした。あの誰にも興味がないというような顔をしている優等生の雨竜と、皆に恐れられている恋次の二人は有名で、その噂はすぐに学校中に広まることとなる。もちろん出所は水色だ。それだけは間違いない。
 いつものように寄越される怯え混じりの視線の他に好奇の視線を感じながら、恋次は廊下を歩く。こんな日々がこれからも続くと考えると憂鬱で、思わず溜息を吐いた。
 しかし、大変なのは自分よりもむしろ雨竜の方だろう。普段から一護のことが好きな女子に良く思われていないようだったが、あんな内容の噂が広まっているとしたら、雨竜はますます妬まれ逆恨みされるはずだ。そう考えると些かならず心配になってくる。
「おはよう」
「噂、ますます酷くなってんな」
 噂の大本である水色のいつもと変わらぬにこやかな笑顔と、朝の挨拶よりも早く苦笑混じりの声で掛けられた一護の言葉に、恋次はあからさまに顔を顰めた。
「石田は俺とおまえに二股かけてるんだってよ」
 ついさっき聞こえた内容を皮肉交じりに伝えると、一護の方も皮肉っぽく笑って言い返す。
「俺が聞いた話じゃ恋次が俺から石田を無理やり奪ったってことになってたぜ」
「なんだそりゃ」
 そもそもどうして一護と雨竜が付き合っている前提なのか。一緒に食事をするようになって確信を持ったのだが、恋次の見る限り二人の間に恋愛感情は全く存在しない。
「でも、こんな風に噂が広まるなんて思わなかったな」
 笑顔のままちょっと困ったように言う水色に、おまえが言うなと恋次と一護は揃って思った。けれど彼の様子からして、本当に水色は噂がこんな風に広まるなんて思っていなかったのだろう。
「石田さんには悪いことしちゃったかな」
 もはや隠す気もないようで、水色は堂々とそんなことを言う。けれど言いながら窺うように一護を見る水色を責める気にはなれなくて、恋次はわざとらしく大きな溜息を吐いた。一護も同じように思ったらしく、呆れたように苦笑している。
「人目とか気にしないから、あいつは大丈夫だと思うぜ」
「そっか。でも、もしも気にしてたら謝っといてね」
「ああ」
 一護が返事をしたと同時に三人が足を踏み入れた教室では、窓側の一番前の席で雨竜がいつものように本を読んでいる。
 それを見て恋次は胸を撫で下ろし、自分でも気付かぬ内に優しげな微笑を浮かべていた。



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あきゅろす。
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