[携帯モード] [URL送信]

拍手
11



 ここ最近、一護の頭は赤い髪の同級生で一杯だ。これは別に一護が彼を好きだからだとか、淡い想いを寄せているからだとか、そんな甘酸っぱい理由からではない。というかむしろそうだったなら甘酸っぱいを通り越して気持ち悪いだけだ。それでは何故同級生である彼のことで頭が一杯なのかと聞かれれば、それは偏に恋次が雨竜のことを好きかもしれないと気付いてしまったからという他ない。
 こういうことには他人が口を出すことではないとわかっている。さらに言えばいくら幼馴染とはいえ、自分が雨竜の恋愛に口を挿む資格などない。そもそも恋愛方面に明るくない自分が口を出せることなどないのだ。そんなこと、全部わかっている。わかっていて、それでも気にせずにはいられなかった。
 ぐるぐると堂々巡りを繰り返す自分の思考が鬱陶しくて、一護は苛々と髪を掻き回す。どうして自分が休日の朝からベッドの上で同級生と幼馴染の恋を心配をしなくてはならないのだ。
 一護は無意識の内に溜息を吐く。
 ノックもされずに一護の部屋が開いたのは、まさにその瞬間だった。
「いないのか黒崎」
 この家にいるはずのない雨竜の声が、いきなり開いたドアの向こうから聞こえてくる。慌てて上半身を起こすと、そこにはやはり雨竜が不機嫌そうな顔をして立っていた。
 確かに彼女の家は隣にあって、よく行き来はする。雨竜が一護の部屋に来ることも珍しくない。だけど、この年にもなって平気で男の部屋を無断で開けるとは、いくら幼馴染であっても常識的に考えてありえないだろう。
 そもそも何故雨竜が不機嫌そうな顔をしているのだ。そんな顔をする権利は、急にドアを開けられた自分の方にある。
「おまえなあ、ノックぐらいしろよ!」
「急に開けられてまずいことでもしていたのか」
 悪いのは圧倒的に雨竜の方だったはずだ。それなのに、一護の方が冷めた目で見られている。どうしてこうなるんだと、一護はがっくりと肩を落とした。
「してねえけど常識だろ……」
「確かに君の言うことにも一理ある。だけど、そもそも僕は何度もノックをした。君が気付かなかっただけじゃないか」
 呆れたように言われて、思わずおまえと恋次のことを考えていたからだろうと言い返したくなったが、言ったら言ったでまた面倒なことになるのは目に見えている。一護はその言葉を必死に飲み込んで、誤魔化すように橙色の髪をかき混ぜた。
「で?おまえが俺の部屋に来るなんて、なんか用があったんだろ」
 話を促すように雨竜を見ると、彼女は眉間に皺を寄せながら少しだけ首を傾けていた。疑問に思っているのか不快に思っているのかどちらかにしろ、と言いたいが当然何も言わないことにする。
「君、おじさんから聞いてないのか?」
「え、何を?」
 一護が何も知らないことを悟ったのか、雨竜はわざとらしい溜息を吐いた。
「今日は遊子ちゃんと夏梨ちゃんが友達の家に行っていないから、晩御飯を作ってくれ頼まれてるんだよ」
 なんでそれを雨竜に言って俺に言わないのだと自分の父親をきつく詰ってやりたくなった一護ではあるが、今はいない相手に向かってそんなことを言うのは無駄である。だからこそ、それよりも先に口に出たのは心底嫌そうな声であった。
「もしかして、おまえ親父さんも家に来るのか……?」
 別に一護は竜弦のことが嫌いなわけではない。嫌いではないのだが、どうにも苦手なのだ。というより、一方的に嫌われている気がするのは勘違いではないと思っている。
「父さんは仕事だよ」
「そっか、そうだよな。仕事、忙しいんだったな」
「うん。だからこれから買い物行くんだけど、荷物持ちはよろしくね」
 雨竜は人に物を頼んでいるとは到底思えない態度でそう言うと、一護の返事を待つこともなく部屋から出て行ってしまった。



next

[*前へ]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!