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 窓側の一番前の席、それが彼女の定位置だった。
 成績優秀、容姿端麗、品行方正。周りの生徒や教師は彼女をこのような陳腐な言葉で飾り立てる。けれど、まさに優等生という言葉が当てはまるような彼女は、いつも一人だった。
 だからと言って、別段いじめられているわけではないのだろう。彼女自身も、一人でいることに苦を感じている様子はない。むしろ、清々しているようにさえ見える。
「おまえ、石田のこと気になるのか?」
 声をかけられたのは、気付かぬうちに彼女――石田雨竜を眺めていた最中だった。顔を上げると、何やら真剣な表情でこちらを見ている一護と視線がぶつかる。
「別におまえから取り上げようとは思ってねえよ」
「はあ?俺とあいつはそんなんじゃねえよ!」
 よく見なければわからないほど僅かに耳を赤くさせ喚く一護を軽く笑って、恋次はもう一度だけ雨竜に視線をやる。
 一護は、いつも一人でいる雨竜に近づける唯一の人間だった。家が隣同士の幼馴染らしく、一護は何かと雨竜を構っている。それが恋愛感情なのかはわからないが、基本的に去る者追わずがスタンスの一護が嫌がられてでも近付こうとする人間を、恋次は雨竜の他に知らない。
 雨竜の方も鬱陶しそうにはしているが、満更でもなさそうにしている。案外両想いなのかもしれない。
「なあ、もし少しでもあいつのことが気になるなら、話しかけてやってくれねえか?」
 恋次の視線に気が付いたのか、一護は先程までの表情を不意に消して、真面目な声を出す。
「だから別に気にしてねえよ。大体、俺みたいなのに話しかけられたら向こうも迷惑だろ」
 恋次はそう言って自嘲混じりの笑みを浮かべた。一護が何か言いたげな顔をしていることには気付かないふりをする。
 優等生と称されることの多い雨竜に対して、恋次は派手な髪色や目付きの悪さから不良と言われることも少なくなく、ほとんどの生徒や教師から怯えた目で見られていた。一護も同じような目で見られることは多いが、本来の優しさが滲み出ているのか、あまり怯えられることはない。
「でも、石田はそういうこと気にしないぜ?」
「それはおまえだからだろ」
 もうこの話は終わりとばかりに、恋次は雨竜から視線を引き剥がした。



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あきゅろす。
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