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Long
自覚。
 








俺が人間に拾われてから、早いもので数週間が過ぎた。その人間の容姿はひどく美しく、俺は見る度少しぼぉっとしてしまう。

彼は…ユキは、他の人間とは違っていた。俺の姿を見ても怖がらなかったし、攻撃しようともしなかった。それどころか、優しく怪我の手当てまでしてくれたのだ。

ユキが俺に触れる手は冷たかった。それなのに、俺の心は温かくなる一方。これがぬくもりなのかと思うと、少し恥ずかしいような気がする。

ユキは俺を守りたいと言った。「僕は君の味方です」と、優しい声で。俺が噛みついても逃げなかった。それどころか、優しく頭を撫でてくれさえした。でも、いつまで経っても罠のような気がしてしまうのは、俺が臆病者だからだ。こんなに優しいユキが、急に、手のひらを返したように裏切ってきたらどうしようと、心のどこかで思っているから。


「クモリ、そろそろ寝ましょうか」


そう言ってユキはベッドに入った。狼は夜行性だから正直眠くないけれど、ユキの寝顔を見るといつも幸せな気持ちに満たされて、いつの間にか眠っていることが多かった。
ユキは俺の頭をそっと撫でた。優しい手。どうしてこんなに心が落ち着くんだろう。


「…ベッドには、まだ上がってきてはくれない、ですよね…」


頭に手を置いたまま、ユキは寂しそうに言った。俺が距離を置いてしまうことを、ユキはまだ自分になついていないからだと思っているらしい。でも、それは違う。本当はユキの隣で眠りたい。だけど、それは人間と狼という関係ではいけない気がするのだ。

そして何より…ユキには言えないような感情を抱き始めている。だから、隣では眠らない。眠れない。

そう思っていたのに。
そんな寂しそうな顔をされてしまったら、揺らぐ。


「クモリ…」


ユキの中に確かに潜む寂しさが、音となって俺に伝わる。そんな声で名前を呼ばれたら。嗚呼、本当に、困ってしまう。俺の中の何かが、顔を出してしまいそうになる。

徐々にユキの瞼が閉じていく。その様を、俺はただじっと見つめていた。
長い睫毛に、微かに開いた口。漏れる吐息。頬にかかる、綺麗な髪。
胸がドキドキする。


少しだけ。ほんの少しだけなら、近づいても良いだろうか。俺の中の欲望が騒ぎ出す。

そっとベッドに前足をかけて、ユキの顔に近づく。寝息が俺の鼻にかかってくすぐったい。
微かに開いている唇に我慢が出来なくなる。

そして俺はとうとう、ユキの唇の端を舐めてしまった。
それはひどく甘くて柔らかい、忘れられない感触だった。

気づけば俺は罪悪感をも凌駕する幸福感に包まれていた。








end.








犬や猫が人間を舐めるのは愛情の証。











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