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伝承異譚
知られざる者
知られざる者




誰も訪れる事のない深い森の中に彼は住んでいました。
彼は、人と会うことなく、むしろ人との接点を持つ事のないように、
ひっそりと暮らしていました。

ある日の事でした。
彼の耳に赤ん坊の声が届いて来ます。
彼の並はずれた聴力はその声をとらえました。
かすかな、
今にも消えゆく魂の声。

彼は悩みます。
もう、何十年も永遠の時を生きて来ました。
でも、その声を聞いた彼は飛び立ちました。
霧に姿を変えて・・。

そう。
彼はバンパイア。
人間に深い絶望を抱くもの。
二度と関わりのないように、
深い森にこの身を沈めていたのに・・。

赤ん坊はひどく、衰弱していました。
彼は赤ん坊を連れ帰りました。

十数年経ちました。
赤ん坊の姿は一人の美しい少女に変わりました。
彼女は彼を慕うようになります。
彼の暗闇の瞳、漆黒の髪に恋心を抱き始める。

だが決して彼は彼女に心を閉ざします。
彼は、愛してはならないと強く、戒めを我が身に与えていました。

彼女は或る日、彼に想いのたけをぶつけます。
抱いて欲しいと。
そして、永遠の愛を誓いたいと。
それは彼女を忌まわしいバンパイヤにすることを意味していました。


彼は彼女を人間の世界へ帰す事を心に誓います。

翌朝の事です。
横たわる彼女を見たのは。
手首に深紅に流れる血・・。
そして、頬つたう涙のあと。
まだ、暖かな少女の身体。

彼は少女を抱き寄せる。
でも、既に消えてしまった魂はもう、戻らない。

彼は今も深い森を寝床にして暮らしている。
姿を隠して・・。








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