[携帯モード] [URL送信]

伝承異譚
ーー封印の扉ーー
ーー封印の扉ーー前編





これは、初恋の少女を失った悲しみと、
我が身を固く、封印してしまった、
バンパイヤのお話し。
彼の犯してしまった悲しみは、
どこへ向かうのであろうか・・・。

−−−−−−−−−−−−−


彼は深い眠りよりこの世に戻された。
先程から、耳を刺激する不快音。
甲高い音、そして、唸るような機械音。

我の眠りをさまたげる者は誰!!
眠りの中でしか魂の安息はないというのに。
この混沌としか夢の中にこそ彼の平安はあった。
もう、誰も傷つけることなくと自らを封印した者。
そう、彼はバンパイヤ
この世と相反するもの、相異なる者。
秩序を乱すもの。

「な!!」

突然、パラパラと砂煙が舞い落ちてくる。
石片が降り掛かる。
そして、崩れ落ちようとする壁。
地震のように地から鳴り響く音が彼を包む。

彼の頭上に落ちてこようとする石像。
まさに直撃を受けるだろうとするその一瞬、
時は止まる。
時計の針が止まるように。

静寂・・。

全ての物が止まる。

彼は全身を横に跳ね起きる。

生への執着

死を望みながらも、

生を・・・生きることを望むというのか・・。


轟音と共に彼の回りの全ての物が砂煙と共に、
ただの哀れな残骸となる。

足元に、人間の声がする。
彼は生い茂る木の中に潜んでいた。
崩れ落ちる城からの脱出。
狼となった彼は誰にも気づかれることなく駆け抜けてきた・・。

そして、今、人間達を見下ろしている。

「やれやれ、
やっと片付いたぜ、ここにゴルフ場を作るんだってな。」
「よくやるよな、おえらいさん方も。いい気なもんだぜ。」

彼はゆっくりと回りを見渡す。
眼前に広がるものは、あの豊かな命溢れる森ではなく、
無惨にも切り落とされた木々であった。

風が彼の艶やかな銀の毛並みを輝かせていた・・・。久し振りの外界の風だった。



「さてと、あとこの木を切れば終わりだ。そしたら、呑みにでも行こうぜ!」



−−封印の扉−− 後編

(−−開け放たれたもの−−)




長い眠りだった。
木の上にいる私は生を感じている。
ここちよい風が私を刺激する。
眼下に居る人間たちには、強い憤りを感じているが、
もはや、私にはどうでもいい事。

この身が滅する事が出来ないと言うことならば、
生きていくしか、あるまい。

今、彼の瞳に、一人の人間が映っていた。
まだ、年若い男。
何もしゃべらず、黙々と働いている。
真剣な面もちで、額に汗を流し、
一心に働いている。





私は、戻ろう。
自然の懐の中に。
森を、
深い森を探せばいい事なのだから。
ただ、それだけの事だ。
そこで、静かに暮らせばいい。

其処に生きる、動物たちと・・・。

木の上で葉が弧を描くように舞う。
一瞬、ざわざわと音をたてる。
狼だった身体は霧に姿を変え、
深い森のある方へ消えていった。

さらに、何十年後、彼は赤子を拾う。
安息を得るだろう。
たとえ、つかの間であっても、
彼にとっては至福の時。

人間の一生なんて、彼にとっては、
つかの間の・・・

ほんの一瞬なのかも知れない。



[前へ][次へ]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!