伝承異譚
扉の向こう側
扉の向こう側・・。
深い、誰も近づくことのない森の中、
彼は、森と共に生きていました。
自分の寝床である廃屋になった城に。
そして、広い庭の片隅の楡の木の下に少女の墓。
激情に捕らわれた彼は、幾十人もの命を殺めてしまった。
狩ってしまった・・・とも言うのでしょうか。
彼はバンパイヤだから・・・・。
彼は自分自身を酷くさいなまれていました。
人間として生きて来たのです。
そして、これからも生きていくはずだったのです。
それなのに、同胞とまで思ってきた人間たちを・・・・。
血に塗れた両腕。
冷ややかだった彼女の唇。
すべてが彼にとっての悪夢−−。
自分自身を抹消してしまいたいほどの憔悴ぶりでした。
気も狂わんばかりの彼の受けた苦しみ。
−−だけど、彼は死ぬ事は出来ない。
死の天使さえ、彼を見放してしまったのです。
いったい彼に、どれほどの傷とどれほどの罪を負わすのでしょう。
そして、いかばかりの償いが彼に出来るというのでしょう・・。
彼は眠る。
死のような眠りこそが彼にはふさわしい。
永遠と言えるほどの眠りを我に。
扉を固く閉じます。
もう、誰も、誰さえも、訪れて来ぬように・・。
固く、・・・・・固く。
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