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伝承異譚
孤独の狼(番外編)
孤独の狼・・。 




深い森に生きる者
彼はバンパイア
森の仲間にエナジーを分けて貰い、永遠を生きる者
その彼がまだ人間社会に生きていた頃のお話し・・

まだ、彼は少年でした。
まだバンパイアに成り立てで淋しさを埋めるため、町中で暮らしていたのでした。
彼の仕事は靴みがき。
お金を頂くときに触れた指先から、生気を少しばかり頂いていました。
彼はこの生活に満足していました。
誰も傷つける事なく平和に暮らしていたから。
ところが運命の日が訪れたのです。
その日は突然とやってきました。

ガラガラ!
暴走した馬車が突っ込んで来ました。
彼の目の前に今にも踏み付けられんとする少女。
とっさに彼は両腕で少女を抱え込んで石畳を転がり、彼女を救う事が出来ました。

「つっ・・」
彼の指先に痛みが走りました。
少女は思わず彼の指を口に含みます。
しばし、茫然としていた彼だったが、はたと事の重大さに気付きます。
彼の血を含んだのです。
何もあるはずはありませんでした。
しかし彼にとって初恋でした。
その恋心が彼を盲目にしていました。


幾日かの彼女との逢瀬が続いた日の事です。
彼女は魔女刈りに捕まりました。
理由は、傷がすぐに癒える事からの嫌疑でした。
たとえ、怪我をしても翌日には傷痕が消えてしまうのです。
回りで気が付かないはずはありませんでした。
彼女には軽い治癒能力が備わっていたのでした。

処刑の前夜でした。
彼は夜の闇の中を走ります。
初めて、霧に姿を変えて。
彼女の捕われている牢獄に向かいました。
彼は看守から鍵を奪い、彼女を抱き抱えます。
だけど、彼女との逃亡には限界がありました。
彼はまだ若いバンパイア。
あっという間に四方に追い付かれました。
身体が激しく消耗していました。

「魔女の仲間を呼び寄せたぞ!!」
兵士の一人が歓喜の声をあげます。

そして、彼に槍が向けられまさに突かれる断末の刹那、
少女は彼の前に盾となります。
ゆっくりと崩れ落ちる彼女の身体。
息は・・無りません。
彼女の身体から、一切の生気は、抜け落ちていました。

彼は一声、咆哮をあげました。
悲しみと怒りに満ちた魂の叫び。
彼は狼に姿を変え、兵士たちの喉元を狙います。
・・数十人いた兵士たちは誰一人として生きてる者はありませんでした。
我に帰った少年は人間の姿に戻りました。
そして、おびただしい死体の中の彼女を見付け、
冷たくなった彼女にくちづけをする。


そしてふたたび狼に姿を変えると、少女の骸を背中に乗せ、闇の中へ消えて行きました。
もう、人間社会には戻るまいと、心に誓って・・。









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あきゅろす。
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