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伝承異譚
−−伝説へのエピローグ−−
−−伝説へのエピローグ−−   



「・・や・・やめ・ろ。」
私は、その冷たいものを振り払った。
残された力を振り絞り、それを押しのけた。
見えないものへの・・。
恐怖がへばりついていた。

それは、部屋の隅に投げ出される形で、いた。
次第に闇の中に浮かび上がってくるシルエット。
闇に目が慣れてくる。

息を呑む刹那

!!!


紛れもない彼なのだ!!
私の愛しい者。

目の前の彼はおびえた小動物のように震えていた・・。
瞳には動揺があった。
唖然とする表情。
まるで、記憶喪失にでもなったかのような・・。
なにをしていたか憶えていないような。


高鳴っていた心臓は次第に平静を取り戻していた。
頭の中で混乱と思考が渦巻いている。
どういうことなんだ。
さっきのものは、彼なのか!




彼の瞳の色が変わる。
蒼白い瞳から漆黒の瞳に。
そして、なにか、意を決したように。
深い哀しみをたたえた紫に変わる・・。

少年の黒髪が逆立つ

燃え立つ炎のように。

黒髪が・・銀に変わる。

耳の形が変化する。

彼の透き通る肌はやがて内面から生えでるように、毛に覆われる。

・・銀の狼・・・・

・・・・化身。

私は声にならない声をあげた。

だが、恐怖はなかった。

彼からは悲しみが見える。
まるでオーラがでているように。

昼間の・・小鳥にパンをあげる彼が重なって見えた。

彼は、いや、狼は、私に一瞥を送ると窓を破って闇の街の中へ消えていった。

哀しみと惜別。
そして、私との決別。
深い深い哀しみをたたえた瞳の彼と私の・・・・・。


窓の下には割れたガラスと彼の血が、散乱していた。
血痕は窓の、
彼の飛び降りた地点から、わずかながら続いていた。




−−−−−−−

今、思うと彼はあの時、初めて認識したのだ。
自分自身を。

彼が今、どこにいるかはわからない。
森に帰っていったのか、
どこか、街の雑踏で暮らして居るのか・・。

これだけはいえる。
彼は再び、私の元に帰って来ることはないだろう。

私はこの絵を描き上げよう。
私の愛を込めて。
いつか、この絵が私からのメッセージになるように。

絵の題名は・・・


「闇の天使に愛を込めて」











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あきゅろす。
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