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伝承異譚
−−秘密−−
−−秘密−−


幾日かたったある日の事です。
少年は、以前よりも生き生きと生気に満ち溢れていました。
そう、生を取り戻す以前より。
そして、不思議なことに、彼の回りには、
いつも動物たちが集まるようになりました。


ただ、少年は、時々貧血を起こすようになりました。
すると、きまって彼は、ふらふらと森に入って行きます。
そして、一匹の子鹿に近づいくと、
「ごめんね。」
彼は手を子鹿の頭に触れます。
指先はしなやかに子鹿をなでます。

すると彼は、みるみるうちに生気を帯び、
生き生きと蘇るのです。
生気の溢れた匂い立つ薔薇のように・・。
彼は、こうすることで生を保つ事が出来ました。

何度も、こういったことが続きました。
次第に奉公人の間にも噂が立ち始めます。
あの子は、何かおかしいと・・・。

伯爵は、次第に奉公人を減らしていきました。
大事な息子を守る為に。
これが「副作用」なのかも知れないと
心に警鐘を鳴らしていました。
忍び寄る悪夢の始まりだと・・。

伯爵は、再び、例の薬をくれた女に会いに行きました。
この心の暗闇を消したかった。
私の愛する息子がもはや人間と違う者になってしまったとは思いたくなかった。

女は、変わっていました。
老女だったはずのこの女は、若い匂い立つような女になって。

「そう。
あれを受け入れる事ができたのね。」
女は満足そうな笑みを口元に浮かべ、
さらに言葉を続けます。

「あの薬の事を聞きたいというのね。
・・・。
いいわ。
そんなに訊きたいなら教えてあげる。
あれは、私。
私の中を流れるもの。
そして、永遠・・・。

この世を見定めるもの・・・。
悪魔であり、天使であるものに変えたの。
ふ・・・・そんな顔をするものではないわ。

貴方の息子さんは選ばれたの。
永遠を手に入れたのよ。
まあ、それが不幸ともいえなくはないけど。
多くのものは効かなかった。
死を迎えた奴らばかりだったわ。

ま・・あなたには、理解不能ね。
私には楽しみが出来たというもの。
いつか、貴方の息子さんに逢えるわ。

この退屈な時間は永遠なのだから。
あはははははは・・。」

伯爵が剣を振るう前に、女は霧になり、
かき消えていた・・・・。


さらに、数年後。
彼の成長はとても緩やかなものに変わっていきました。
同じ年頃の子が青年になっても、
彼は、いつまでも、少年のよう。
彼だけが時に取り残されていくようでした。
いつしか、奉公人はたったひとりだけに。
城のにぎわいはなくなり、
少年の友だちは森の動物たちだけになりました。

数年、数十年と、時は経っていきました。
年老いた伯爵は既にこの世になく、
母も後を追うように亡くなりました。
少年の秘密を抱いたまま・・。



少年はたった一人になりました。
この頃には人々たちとの交流もすっかり途絶えてしまっていました。



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あきゅろす。
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