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伝承異譚
−−発端−−
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ずっとずっと、昔の話し。
深い森に息を潜め、息づいているもの。
動物たちからエナジーを貰いながら生きている。
そう、彼はバンパイヤ

これは、まだ彼が人間だった頃のお話


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深い森を背景に城が建っていました。
何代も続く名主がこの城の持ち主でした。
そして、そこに住んでいたのは跡継ぎに恵まれない、年老いた伯爵でした。

暖かな春風の吹く頃、
若い奥方に赤子が授かりました。
伯爵のよろこびようといったらありません。
城は打って変わったように、明るい笑いに包まれるようになりました。



寒さの厳しい冬でした。
暖炉の前で伯爵は赤子を上に放り上げてあやしています。
「おお!笑った、笑った!」

「ほらほら、そんなに振り上げたら危ないわよ。」

「いや〜、こいつは強くなるぞ、
何より度胸がある。」

赤子はきゃっきやっと愛らしく声を立てます。
まさに目に入れても痛くないと言うほどのかわいがりようでした。

数年、経った頃です。
赤子は成長し、端正な顔立ちと愛らしい笑顔を備え持つ子供になりました。
城はますます、栄え、賑やかなものに。
奉公人もずいぶん、増えていきました。

この幸せはずっと続くように思われていました。



蒸し暑い夏のことです。

「おや、どうしたのだ!?」
伯爵は、心配そうに尋ねます。

「ごめんなさい。引っかかれたの・・。」
と少年は痛そうに指を抑えながら答えます。
森に遊びに行っては行けないと、
危ないからと言われていた少年は、
怒られると思い、傷を隠していたのです。

「見せてごらん。」

「何に引っかかれたのだ?」

「白くて、綺麗な小猿がいたの。・・・ずっと森の奥に・・。」

少年の透き通るような白い指先は、既に赤黒く変色しており、
ただのひっかき傷ではないとすぐに見て取れました。
医者を呼び、薬を処方して貰い、
治るかのように思われました。

だが、傷跡は広がり、両手の指先も数日経つうちに、にわかに紫に、
足の先端部分も変色していきました。
そして、秋になり冬が近づく頃、
全身にも、まるで毒でも回るように広がっていきました。
やがては、歯茎からの出血、そして、鼻血の出血、耳からも・・・。
身体中の粘膜という粘膜からの出血は止まりません。
既に少年の顔には死の色が浮かんでいました。
医者からは、諦めるようにと・・。

伯爵は、魔女とも、賢者とも、呼ばれる老女の話しを思い出します。
以前、旅人から聞いて話。
どんな病気も治せると・・。
すぐに伯爵は旅立ちました。
風の強い吹雪の中を。
誰にも場所は告げずに、
すぐ、戻るとだけ告げて・・・。

−−数日後、伯爵はやっと帰って来ました。
赤い液体の入った
小さな小瓶を持って・・。

伯爵は迷います。
この小瓶は、副作用があるという・・。
もし、身体にあわなければ、
即座に命を落としてしまうと告げられていました。
でも、もはや、一刻の猶予もありません。
少年の息は、絶え絶えにとてもか細いもので、
生きているのが不思議なくらいの有様なのです。

婦人の見守る中、
かすかに開いた少年の唇に、
一滴、一滴、注ぎました。

少年は、僅かにひきつったかと思うと、
呼吸は止まり、
心音は消えてしまいました。

伯爵は大急ぎで息子を抱き、名前を呼びます。
でも、返事があるわけもなく・・、

伯爵は、大声をあげ、泣きました。
母親は、泣く力もなく・・。

数分経った頃です。
伯爵の抱く我が子から、かすかな寝息が漏れてきました。

やがて、それはしっかりした呼吸に変わっていきます。
驚いた伯爵は少年を見つめます。
先程まで、死の影を落としていた紫色の顔は、うっすらとピンクに、
色を失った唇は花びらのように艶やかに。

「おお!!
神はお見捨てにはならなかった。」

彼の喜びはいかほどだったのか。
最愛の者を死の淵から呼び出す事が出来たのです。

でも、


これが全ての始まりだったのです・・。



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