アイマイモコ 07 「はぁー、陸どこ行ったんだろ。それとも帰ったのかな?」 瑞樹は陸を探すために走った。 教室、廊下、昇降口――。 さっきまで人で溢れかえっていたこの場所には、帰宅部はおろか、部活動の終える生徒までいる時間になっていた。それでも、下駄箱に入ったままの陸の靴に瑞樹は淡い期待をした。 「上履きを履いたまま帰っちゃったのかなー…‥――ん?」 瑞樹がそう漏らすと、廊下に人影が見えた。一瞬、陸かと思い近付いてみると実際は違った。 けど目前に立っていたその影は、偶然ではあったが以前にも正門で顔見知った男だった。 「…‥」 「っ、あんた‥確か、前に陸と一緒にいたヤツだよな?」 「…――」 校舎に染まったオレンジ色が二人を徐々に包んでいく…。 互いに警戒をすることもなく、二人は向き合う形で話しは進んだ。 「――河野内 瞬だ。俺も前にあんたと宮沢が一緒に居るとこを見たような気がする」 「俺は‥笹川瑞樹。陸の元恋人」 「…へぇー。今は違うの?」 「あぁ。でも俺の方は復縁を望んでるけど…」 「‥……」 暖かい家族…―― それが俺の望みだった。 瑞樹の家に行った時、俺は云いようのない幸福感に溢れてた。 瑞樹の家族はいつも俺を暖かく笑って迎えてくれ、時間になればみんなで食卓を囲んで喋りながらご飯を食べる。 俺にはその環境が羨ましかった。 だから、あんな冷え切った家に帰るのが大嫌いだった。 少なくとも、母親が死ぬまでは三人で仲良く楽しかったよな。 『お母さん、何で僕達にはお父さんがいないの?』 『…‥お父さんはお仕事が忙しい人なのよ。だから、陸が良い子にしてたら帰ってくるかもね』 『そうなんだ〜!』 けど、父親が…アイツが戻ってくることはなかった。 それを寂しそうに待ってる母親の横顔が子供ながらに切なかった。 狭くて安いアパートで慎ましく三人暮らしをしていた俺達。だけど母親はそんな望みのない男にも関わらず、どんな時でも自分を“宮沢”とは名乗らずに“河野内”と言っていた優しい人だった。 それが母親の、本当の最後の意地だとも知らずに―― 「――宮沢とは?」 「中学が一緒だったんだ。初めは、陸が親切に声を掛けてくれた。俺は人見知りするから態度が悪かったけど…」 「…‥」 「でも、それでも陸はずっと笑いかけてくれたんだ。俺は、それから徐々にアイツに何でも打ち明けられるようになった…」 「笑いかける?…アイツが?」 「……え?」 父親の居ない寂しさを埋めてあげようと、俺は懸命に親孝行をしてあげようと思った。けどそれも叶わなかったよ。 俺は、母さんの意地にも気付いてあげられなかったし最期を看取ってもあげられなかったね。 ――ごめんね、母さん。 [*前へ][次へ#] [戻る] |