アイマイモコ
16
「瑞樹〜？」
「あれ？秋…どうしてまだ残ってるんだよ？」
「先生に呼ばれた」
「そっかぁ…」
「ねぇ帰ろうよ？」
「おう」
まるでシナリオ通りの会話だ。
秋はどうだか分からないが、俺にはそう感じてならなかった。
でも良かった。元の秋に戻ったみたいだな。この頃少し様子がおかしかったからちょっと心配だったんだけど、この分だと大丈夫そうだな。
「どうしたの？」
「いや、何でもない…――」
「―…‥」
ちょうど屋上から降りてきた陸は、目の前を通り過ぎていく秋と瑞樹を、ただ黙ってみていた。
――高野は何を考えてるんだ。
「…‥」
「――あの人ですよね？宮沢先輩に濡れ衣着せたのはっ！」
「っ、速水…」
中等部の、速水奈々だった。
後ろに来ていた速水奈々の気配に、不本意ながらも少し驚きを隠せずにいた陸。
「何でお前がここにっ…」
「あたしは、あの人に宮沢先輩のせいじゃないって事を証明させたいだけなんですっ」
「だから余計なことを…」
「っ、宮沢先輩はソレで良くても、見ちゃった私はどうすれば良いんですか！あのまま見逃せって言うんですか？」
「そうは言ってないっ！」
「…‥え？」
勢いにまかせて、つい強い口調でそう言ってから陸はしまったぁ、という顔をした。
「…悪りぃ、言い過ぎた」
「いいえ、私こそすいません。先輩の方が大変なのに…」
「別に。嫌われるのは慣れてるし。 あ、そういえば、こないだ俺のクラスに来たらしいけど何の用だったんだ？」
「その事です。クラスの人に言うのは迷ったんですけど…‥でも良かったぁ‥あの人伝えてくれたんですね？」
「……」
後日、速水奈々が来たことを陸に伝えたのは瑞樹だった。
「あの人、今年転入してきた笹川先輩ですよね？ウチの中等部ですごく人気あるんです！」
「…そう」
「みんな言ってますよ。優しそうとか、カッコイイとか。 宮沢先輩はクラスメートとして、笹川先輩のことどう思いますか？やっぱり良い人ですか？それとも嫌な人ですか？」
突然の彼女からの質問に、一瞬目が見開いた陸は逸らしていた目を彼女に合わせて言った。
「…さぁな。俺には分かんない。お前自身が見て、優しそうだなと思うんだったらそれで良いんじゃないか？」
「…え？」
「人に惑わされたら、見えるものも何も見えなくなる。俺は今までそれをイヤってほど味わってきた。だからお前は、そんな汚い大人には…なるなよっ」
「宮沢…先輩？」
「自分を忘れないでくれ…」
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