アイマイモコ 09 「おはよ!」 「…‥」 「陸、おはよう!」 俺の動きが一瞬止まった。 昨日から態度が一変して、クラスメートたちが俺を名指しで替わるがわる挨拶を交わしてきた。 一体どういうつもりだ? 「陸どうしたの?ボーっとしちゃってさー!」 「……は?」 「何そんなへんな顔しちゃってえ。陸ってマジで面白いな!」 「…‥」 まるで今までの事がウソのように消えていて、俺に対する眼差しは間違いなく好意的な、裏のある顔ではなかった。 だけど、今まであったことはやっぱり現実だったと、考え直せば、俺の心はみんなと違ってそう容易くはない。その行為だって、俺なら簡単に払いのけられる。 「ウザイ」 「………」 「そんなんで俺の気持ちがお前らに傾くと思ったら大間違いだ」 「……」 「どっか行けっ!」 俺がいきり立つと、やっぱり臆病な箱入り息子達は俺にビビって引き下がっていった。 はぁ…、とんだチキン野郎だな。みんなバカばっかりだ。 俺はクラスメートの愚かさに鼻をふん、と鳴らしソイツらの背を黙って見送った。 「あれ〜、みんなの優しい心を踏みにじって良いの?陸」 その声に顔を歪めた。 誰か、なんて分かりきっていた。 俺に視線を向けるソイツは、瑞樹同様に嬉しそうに近付いてくる。 「りーく!」 「何の用だ、高野」 「そんな怖い顔しないでよ〜。俺はさ、陸のこと好きだから」 「…っ、」 「あ、怒った」 薄笑を浮かべる高野 秋。 だけどヤツの瞳が俺を冷たく見下ろしている。こっちが本性だ。 俺を押し倒した時の顔――… 「相手が違うだろ。お前の相手は笹川瑞樹だろ!」 「…陸にヤキモチ妬いてもらおうと思ったんだよ〜。ホントは知ってたくせに」 首を甘えるように傾げる高野。 そんな事をしたって俺は別に動じないけど、コイツが何をしたいんだかさっぱり分からない。 当の本人は俺を見下ろしながら嘲笑うと、今度は俺の机に腰を下ろし長い足を組んだ。 ――あぁ、そうさ。お前が俺を煽っていたのは知ってたよ。知ってたけど、知らない振りをした。 お前の愛を、俺が受け入れるつもりがないから。 絶対にないから。 「あっそ」 「もうビクつかないんだね?」 「…‥は?」 「ちょっと前まで俺の顔を見る度に動揺してたクセにつまんない」 「……」 こいつ…! [*前へ][次へ#] [戻る] |