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ばさ、ばさっ。

「いけっ! ……あ、惜しいっ……そこだ! そこだよ!!」

小さな円の中に、カービィとマリオが激しく踊っている。ちょうど試合はカービィに傾き始めた様子で、忙しいカメラワークが続いていた。

観客はスタジアムにいるだけとは限らないものである。例えばそう、ここで試合を水盆に映して一人興じている彼などがそんなところだ。

彼のファッションはすこぶる変わっている。古代のヨーロッパを思わせる白い布の服、金のサンダル、そして頭に付けられた月桂樹の冠。もし地上であれば馬鹿にされかねないとんだ古典派だ。もしここが、我々の感性で動く世界ならば。

そして、彼にはもう一つ変わった所があった。
背中から突き出した、白鳥のように白い翼。それが興奮を表すようにばたばたと羽ばたいている。

そんな間にも試合は動く。サイズの割に、クリーンヒットしたマリオトルネードは充分な迫力である。

「うわっ、すごーい! 頑張れマリオさん……!」

ここは天空界にあるエンジェランド――いわゆる天使と呼ばれる有翼の民が暮らす所。

天使について多くの事は分かっていない。例えば寿命や成長についてがそうだ。深海に潜むシーラカンスと同じように、天空に住まう彼らの生活をとらえるのは難しい。
よってこのピットという天使についても、本当の年齢などは分からないのだ。見た目は少年とも呼べるし、やや中性的な風貌だが、過去には天空界と敵対していた冥府との戦争で実績を残しているのである。

もし天使が本当に聖書に見るような冷酷なものばかりだと思っている者なら、彼の持つ愛嬌に放心させられてしまう事だろう。しかし、それに見合わず彼は優秀な兵士でもあるのだ。

ばさ、ばさ。

マリオの掌底が決まる、まさにその時であった。
瞬間、ピットの顔は真っ白な笑みに満たされ、我慢出来ないとばかりに腕がガッツポーズを形作り、誰に話しているわけでもなく言葉が溢れ出した。

「やったぁっ……いいなぁ……! 僕も、一度でいいからマリオさんに会ってみたいな……」

呟きはしんとした宮殿の空気の中で幾ばくもなく無力化されたが、募るばかりの彼の好奇心と憧れは抑えきれなさそうだ。
最近、人の世に心を痛めるばかりで仕事のやりがいを失っていた天使。

彼にもまた、ファイターとして活躍するその時が迫っていた。

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