極道人魚姫BL(完結済)
4、隠し金
◆◇◆
奴の屋敷に着いたら、奥の座敷に案内された。
障子を隔てた中に、東堂がいる。
緊張して冷や汗が出てきた。
「こちらです、どうぞ」
「ああ……」
拳を握り締めて真壁とキヨシを従え、座敷に踏み入った。
座敷にはベッドが置いてある。
案内人はベッドに歩いて行き、俺らも後に続いたが、ベッドには東堂が寝ている。
奴はガタイが良かったが、やっぱりというか、上半身の部分しか布団が膨らんでない。
「うっ……」
東堂は顔をこっちに向けた。
「東堂……」
真壁が悲痛な表情で名前を呼んだ。
「あ……、真壁さん、それに……お、おやっさん!」
東堂は俺に気づき、意外な位大きな声をあげた。
自然と足が早まり、東堂のすぐわきに行った。
「な、何故……死んだんじゃ」
東堂は目を白黒させて俺を見る。
「ああ、荼毘にふされたのは、ありゃ替え玉だ」
「じゃあ……生きてらしたんですね?」
「ああ、ちょっと色々訳ありでな、暫く雲隠れしてたんだ」
こういう稼業だから、むしろ、なんとでも言える。
「そうっすか……、おやっさん、生きてて良かった」
東堂は嬉しげに言って笑顔をみせる。
「お前……、そんな体にされちまって、俺を恨まねーのか?」
恨み節のひとつやふたつは、食らって当然だ。
「俺は盃を交わした時から、おやっさんのものになったも同然です、おやっさんが行くあてのねー俺を拾ってくれなきゃ、俺は今頃生きちゃいねぇ、組を助ける為なら命は惜しまねーっす」
なのにこいつは……泣かせる事を言いやがる。
「くっ、東堂……!」
思わず抱きしめたが、当たり前に胴体しかねー。
「あっ、ははっ……、すんません、手がねーもんで、抱きしめられねーっす」
それでも、東堂はなんでもない事のように笑って言う。
「すまねー! ほんとにすまねー!」
俺は奴の耳元で、こん限り謝った。
「なにを仰って……そんな事は……、あのー、で、一体どうしてここへ?」
東堂は困ったように聞いてきた。
「お前を引き取りにきた」
俺は奴をそっと離し、待ってましたとばかりに言った。
「えっ、俺を?」
東堂はびっくりしている。
「ああ、詳しくは話せねーが、俺は葉山を助けたんだ、奴はその礼をしてぇって言う、だからよ、お前を返せって言ったんだ」
簡単に訳を話した。
「そっすか……、あのでも……、俺は見てのとおりっす、連れて帰っても負担になるだけっす、ここにいりゃ、とりあえず面倒はみてくれる、こんな体で槙原組に戻ったとこで、なんの力にもならねぇばかりか、おやっさんに迷惑をかける事になる、だから……すげー嬉しいんすけど、おやっさんの元気な姿を見られただけで……十分っす、どうか、俺の事は忘れてください」
俺はてっきり喜ぶと思っていたが、東堂は戸惑いをちらつかせて忘れろと言う。
「お前ってやつは……、いいや、連れて帰る、お前は俺のせいでこうなったんだ、心配するな、俺が一生面倒をみてやる」
葉山の奴が言ってやがったが、そりゃこうなっちまったら、なにをするにも全て誰かの手が必要になる。
けど、東堂がこうなったのは、俺が死んだせいだ。
見なかった事にして忘れるなど、そんな事ができる筈がねー。
もういっぺん、奴を抱き締めた。
「大丈夫だ、俺がついてる」
「おやっさん……」
「東堂、俺も協力する」
「兄貴、俺もっす」
真壁とキヨシも後に続いてくれた。
「そうか、うっ……、ありがてぇ、こんなにありがてぇこたぁねー」
東堂は涙ぐんで言った。
こうして、変わり果てた東堂を連れ帰る事になったが、俺らで車まで運んで乗せた。
後部座席の真ん中に乗せ、俺と真壁の2人が両脇から支える。
東堂はパジャマを着ているが、足は太ももが少し残っている。
上半身は前より筋肉が落ちて痩せてしまったが、寝たきり状態だから当たり前だ。
「槙原組に戻れるんすね……、嘘みたいだ」
キヨシがハンドルを操り、車は目的地に向かって走っているが、東堂が感慨深げにポツリと呟いた。
しかし、連れ帰ると息巻いたはいいが、どこに置いてやるか、考えなきゃならねぇ。
「真壁、どうする、事務所の奥に寝かせるか?」
葉山みてぇに屋敷があるわけじゃねーから、事務所しかねー。
「そうっすね、すぐにベッドを用意します」
「すんません……」
東堂が遠慮がちに頭を下げる。
「馬鹿、気にするな、つか……悔しいが、屋敷っつーわけにゃいかねぇ、当面は事務所になる、わりぃな」
詫びを言いてぇのはこっちだ。
落ち着いたらマンションに移るつもりだが、それまでは事務所になっちまう。
事務所に戻ったら、ひとまず東堂をソファーに座らせた。
キヨシが支えている間に、俺は真壁と一緒に奥の部屋を片付けた。
布団を押し入れから引っ張りだし、床に敷いたが、あいつはあんまり動けねーだろう。
体が痛くねーように、敷布団を2枚重ねにした。
ただ、俺はちょっと心配になった。
「あのよ、真壁、東堂は寝返り打てねぇんじゃねーか?」
「あ、そっすね、っと……多分モゾモゾって程度ならいけるんじゃ」
モゾモゾ動くだけじゃ、床擦れが出来ちまう。
「俺が添い寝するわ」
「あ、俺が代わりましょうか?」
「ああ、あのな、たまには代わってくれ、俺はどうせここに寝るんだ、しばらくは俺がやる」
「そうっすか、わかりました」
俺はソファーで寝たり、好きにしているので、添い寝くらいお易い御用だ。
表の方へ戻ってみると、キヨシが東堂の肩を抱いて支えていた。
「おお、東堂、布団敷いたからよ、奥に連れてくわ」
「あのー」
「おお、なんだ?」
「トイレに……」
東堂は言いにくそうに言った。
「トイレか、わかった、じゃあ……キヨシ、手伝ってくれ」
「はい、わかりました」
キヨシと2人で東堂を抱えあげ、トイレに連れていった。
足がなくても、重さはそれなりにある。
こりゃ車椅子があった方がいい。
トイレに着いたら便座に座らせたが、下を晒さなきゃならねぇ。
「脱がすぜ、キヨシ、支えてろ」
「すみません……」
東堂は恐縮しているが、キヨシに支えさせて俺が下をズラした。
その拍子に、萎えたちんぽがだらんと項垂れたが……見た瞬間、ビビった。
「み、緑〜?」
ちんぽが緑色に着色されている。
「あ、あの、すみませんが、漏れちまうんで出します」
東堂はチョロチョロと小便をし始めたが、俺はつい気になってちんぽを見ていた。
こりゃ、刺青だ。
よく見てみたら、わかった。
「お前、ちんぽに刺青入れられたのか?」
「はい……」
「体じゃなく、そこだけか?」
「はい……」
ド変態の葉山め、緑色んとこは模様が入っていて亀頭まで及び、目のような物がついている。
「龍か……蛇だな」
「はい、蛇です」
東堂は小便し終わって答えた。
「兄貴、小便切りますね」
キヨシが気を利かせて言うと、ちんぽを掴んで軽く振った。
「わりぃな、こんな事……、これよ、糞もなんだぜ、嫌だろ?」
東堂は落ち込んだ顔で聞き返したが、俺はそこんところを聞いてみたくなった。
「なあ東堂、向こうじゃどうしてた、毎回トイレに連れてくのか?」
車椅子も見当たらなかったし、1日に何回も抱えていくのは大変だ。
「いえ、尿瓶っす、大は大用のトレイがあるんで、それで済ませて……、大の男が、ほんとに情けねー」
「そうか、じゃあ、揃えなきゃダメだな、つーか、葉山の野郎、そんな面倒くせぇ真似をする為に、お前の体を切っちまったのか?」
「あの……、葉山組長にはスカトロ趣味もありまして、わざと皆の前で脱糞させたりしました」
あの野郎……どこまで変態なんだ。
「そうか……呆れた奴だが、糞尿好きだから、それで嫌がらねーんだな、で、糞はいいのか? 出るなら遠慮するな」
俺はスカの趣味はねーが、排泄は生理現象だ。
遠慮したり、恥に思っても仕方がねぇ。
念の為、聞いてみた。
「まだ大丈夫っす」
「ならいいが、な、そういうのは生きてる以上誰もがやらなきゃいけねぇ事だ、世話ぁするのが俺だからって、遠慮するんじゃねーぞ」
きっちり言って貰わなきゃ困る。
「はい、おやっさん……、うっ、俺……泣けてきやす、こんなに優しくして貰って」
すると、東堂は泣き出してしまった。
「こら、ちんぽ出しっぱなしで泣く奴があるか、キヨシ、支えてな」
「はい」
キヨシに支えさせて下を元に戻した。
それからキヨシと2人で奥の部屋に運び、真壁も手伝って布団に寝かせてやった。
「こりゃ、あれだ、見とかなきゃマズいな」
東堂はろくに動けねー。
べったり張り付くまでいかなくても、15分か30分おきに1回程度は、必ず様子見するようにしなきゃ不安だ。
ひとまず、キヨシをつける事にしたが、下っ端は他にも数人いる。
交代で東堂をみるようにしようと思ったが、トイレに運ぶ時に2人必要だ。
排泄用トレイや尿瓶がくるまでは、2人体制でみなきゃだめだろう。
他にも車椅子にベッド……用意しなきゃならねぇもんがあるが、俺は隠し金を持っている。
何かの時の為に、秘密の場所にしまっておいた。
それは……事務所の壁の中だ。
壁をくり抜き、断熱材等を取り除いて、その中に札束を入れている。
今、俺の服は真壁が用意しているが、金がありゃ新しく買えるし、東堂の介護用品も揃えられる。
俺はさっそく掘り出す事にした。
「いやー、しかし、見事に埋めてますね、継ぎ目がわからねー」
「おお、無駄に器用だからな」
壁をほじくっていったら、真壁がそばで見ている。
1番外側を取り除いた時に、誰かが外からやってきた。
「ご苦労さまっす!」
下っ端の太郎、25歳だ。
こいつは初めっからうちにいるが、ちょいと頭のネジが緩い。
「おやっさ〜ん、なにしてんですか?」
さっそく俺の方へやってきた。
「なんでもねぇ、壁の修理だ」
こいつに正しい説明は必要ねー。
「あー、そーっすか、あのー、おやっさんが着てたやつを洗濯して持ってきたんす」
民家から盗んだ服を今頃洗濯して持ってきやがった。
「おう、そこらに置いとけ」
手を動かしながら答えた。
「はい、わかりました〜、あのー、でもー、女もんのパンティありました、おやっさんの趣味っすか?」
「なっ……」
そういや、俺は女もんのパンティを穿いていた。
「ぷっ……」
真壁が顔をそらしたが、笑いを堪えてやがる。
あん時、着替える際に真壁に見られちまったんで、それを思い出したんだろう。
「太郎、あれは仕方なくだ、着るもんがなくて、ちょっと借りただけだ」
「そーすか〜、へえ、にしても〜、リボンついたフリフリっすね、可愛いな〜」
太郎は無垢に言ってるんだろうが、真壁の肩がプルプルと小刻みに揺れている。
「くっ、ぷぷっ……」
「あのな、太郎、それお前にやるわ、持って帰れ」
こうなりゃ太郎に丸投げだ。
「え、いいんすか?」
太郎はなぜか喜んでいる。
「ちょっ、太郎……、お前、そういうの好きなのか?」
真壁が太郎の方へ歩いて行った。
「見せてみな」
わざわざパンティを確認してやがる。
「はーい、どうぞ、これっす」
「ぶはっ! ぶひゃひゃ、なあ太郎、おめぇ、これを穿くのか?」
真壁は盛大に吹き出した。
「はい、穿きます、おやっさん使用済みのパンティだし、貴重っす」
「お前……、やめろ、だーっはっはっ!」
太郎の天然っぷりには参るが、真壁もいい加減ここらでやめろって話だ。
「コラァ! 真壁、よさねーか、そんなもんは太郎にやっとけ」
ちょいと喝を入れてやった。
「す、すみません、つい……、申し訳ありませんでした」
真壁は肩を竦め、頭を下げて謝ってくる。
わかりゃいい。
引き続き、黙々と壁をほじくった。
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