極道人魚姫BL(完結済) 14、銃 ◆◇◆ プー太郎と2人きりになった時、俺は聞いてみた。 「なあプー太郎、お前は東堂との事を浮気って言ったよな? だったら葉山とくっつけって事じゃねーのか? なのに、葉山に不満げな態度をとってたよな、それってどういう事だ? それとも……そこら辺の事情は知らねぇとか?」 「本来の目的があいつなのは知ってる、ママとの約束は守らなきゃならない、あんたが浮気したら……あんたは海に戻される」 「えっ? じゃあ……また人魚になるのか?」 「そうだ、あたしはママから見張るように言われた」 「やっぱりそうか……、いや、だったらやばくねーか? 俺は既に東堂と」 「ああ、やばいな、あたしがチクれば……って話」 「何故チクらねー」 「あんたはあたしのパパだ、あたしは様子をみる事にした、そしたら……あんたは東堂を甲斐甲斐しく世話して、あたしの面倒もみるって言った、あたし……ママに言えないよ、だって、あたしの体には半分あんたの血が流れてる、あの葉山、何故パパがあんな奴に惚れたのか、それはわからない、だけど……あの男が力のある男なのはわかる、あんたは組を守る為に付き合ってる、あと……復讐もだ」 「お前……全部分かってんじゃねーか、すげーな、ハキハキ喋りやがってよー」 「パパ……」 「ん?」 「好き」 「えっ……」 「あたし、パパが好きだから、ママには言わない」 「おお、そうか? いや〜、そうしてくれたらありがてぇな、だってよ、やっぱり戻ってきたら、人間界がいいわ」 プー太郎の奴、全部見抜いてやがった。 それに、俺の事を好きだと言って抱きついてきた。 今、トイレん中だが、こいつが味方についてくれりゃ、助かるなんてもんじゃねー。 プー太郎を腕に抱いた状態で、オムツの汚物を流し、頬ずりしてやった。 ただ、ひとつ気になるのは……おねぇ口調だと言うとこだが、ま、そのくらいは見て見ぬふりをしよう。 にしても……。 プー太郎が見逃してくれるって言うなら、東堂を抱いてやれる。 「なあ、じゃあよー、俺な、東堂を抱いてやりてぇんだ、あいつ、一心会で嫌ってほど弄ばれて、欲求を持て余すような体になっちまった、俺は奴を抱いてやらなきゃ……、だってよ、俺の責任だからな」 プー太郎のリアクションを確かめたい。 「責任感で抱くのか?」 「正直言ったら……それもある、でもな、俺、あいつの世話をするうちに、なんか情が移っちまって、あいつ、やたら『すんません』って頭を下げるが、すげー嬉しそうな面ぁするんだ、あんな体になって……そんな風に笑顔を見せる、そんな東堂がいじらしくて……可愛く思えるんだ」 嘘偽りねー本当の気持ちだ。 「ふーん、それで葉山から東堂へ気持ちが移ったのか」 「ああ、わりぃが、そんときゃ目ぇ瞑っててくれ」 「わかったよ、あたしも早く大きくなりたい、パパとやれるもん」 プー太郎はわかってくれたが、おかしな事を口にする。 「えっ? いや……、それは駄目だろう」 「ふっ、魔女に禁忌な事なんてないのさ」 「でもな、親子だぞ」 「ああ、あたしは男だ、孕む心配はない」 「そりゃまあーそうだが……、あのな、お前は人間界にいるんだ、だから人間界の掟に従え」 「ふふっ……、うん、どうせ当分は無理だよ」 なんだか知らねぇが、親子愛を越えちまったらしい。 どう捉えりゃいいか悩むが、どのみち遥か先だ。 今は、今ある課題をクリアしなきゃならねー。 トイレから出て、ゴミ箱のペダルを踏んでオムツをゴミ箱に入れ、部屋に戻った。 「親父さーん、ご飯できました〜」 今日は朝から太郎が来ている。 じきに昼がくるので、昼飯を作っていたのだ。 ちゃぶ台には煮物、焼き魚、味噌汁、酢の物と、和風なおかずが並んでいる。 「おお、美味そうだな」 「プー太郎、抱っこしてますから、食べてください」 「ああ、じゃ、頼むわ」 太郎にプー太郎を渡したが、俺は先に東堂を食わせてやりたい。 座ってばかりじゃ疲れるので、今は布団に寝かせている。 葉山が話してたエアーマットだが、奴が帰った後で下っ端が運んできた。 だから、寝ていても前よりは楽になったらしく、夜もよく眠れるようだ。 座椅子はちゃぶ台の前に置いてあるし、東堂のそばに行って声をかけた。 「東堂、飯を食おう」 東堂は俺の方へ顔を向ける。 「はい、すんません」 そのままの姿勢で遠慮がちに頷いた。 「よし、起こすからな」 布団をはぐり、体を抱き起こしてしっかりと腕に抱き、落とさねーように力を入れて抱き上げた。 「っと……、待ちなよ、今下ろしてやるからな」 東堂を座椅子に座らせてやった。 と、その時ピンポンが鳴ったが、続けざまにドアを激しく叩く音がした。 「ん? なんだよ、うるせぇな」 「あ、俺が出ます」 太郎が玄関に行った。 ドアが開き、開いたと同時に誰かが入ってきた。 「っ、はあ、はあ、お、おやっさん!」 辻井だったが、やけに慌てた様子で息を切らしている。 只事じゃねーような気がして、奴のところに歩いて行った。 「加藤が撃たれました!」 辻井は狼狽えた様子で口走った。 「なに?」 一心会とは上手くやってると思っていたが、まさかまだ俺らを狙う奴がいたのか? とにかく、どうなったのか心配だ。 「で、怪我はどうなんだ?」 「はい、致命傷は避けられました、肩を撃ち抜かれて弾が貫通してます、近距離でやりやがったんで」 命に別状がなくてよかった。 「そうか……、やったのは一心会の奴らか?」 「やったのはチンピラっす、けど俺は……逃げた奴の面を覚えてます」 やった奴には逃げられたようだが、顔を知ってるとなりゃ誰がやったか見当がつきそうだ。 「どこかで見たのか?」 「はい、以前幹部会で集まった時に、帰り際、武藤組の幹部が外で誰かと話をしてた、その誰かってのが、加藤を撃ったチンピラっす」 「武藤組の……」 武藤組と言や、こないだの集まりん時にキャバ嬢をはべらせてた、ハゲ頭のエロジジイが組長だ。 しかし、何故武藤組がうちを狙うのかわからねー。 「あの……、これは俺が親しくしてるチンピラが言ってた事なんすけど、おやっさんはお戻りになられた後から、一心会の葉山さんと懇意に御付き合いされてますよね、こんな事言ったら怒られるかもしれませんが、うちのようなちぃせぇ組は何かと目をつけられがちです、ただ、おやっさんは一心会に消された事になってました、つまり……うちは一心会の獲物だったんすよ、それで誰も手を出さなかった、ところが……死んだ筈のおやっさんが戻ってきて、いがみ合う筈の葉山さんと親しくしてる、となりゃ……状況は変わる、後ろ盾に一心会がつきゃ、うちは潰れるどころか、勢力を拡大する可能性が出てくる、一心会以外の連中にとっちゃ番狂わせもいいとこで、うちは目の上のたんこぶ、今のうちに後顧の憂いを断とうと、そう考えるのが普通っす、俺はそいつから、うちの事を悪く言う奴らがいると聞きました、それに……俺が思うに、やっかみもあると思います」 俺が復帰して、恨むべき葉山と親しく付き合ってる。 確かに……周りの奴らにとっては、相当な番狂わせだ。 武藤の親父をはじめ、親睦会の時は皆素知らぬふりをしていたが、藤岡の大親分は除いたとしても、俺は周り中から睨まれてたって事か。 「そうか……、ま、しょうがねーな」 葉山との事は順調に運んでると思っていたが、めんどくせぇ事をやらかしてくれる。 「辻井、で、病院は梅津先生だよな?」 「はい、しばらく入院になります」 「そうか、金は心配するな、俺が先生に連絡する」 俺らの稼業はかかりつけ医というのが必ずいるが、うちは梅津先生という町医者に世話になっている。 「はい」 「で、お前ら、防弾チョッキつけろ、昔配ったやつがあるだろ?」 一心会に狙われていた時に子分に配ったやつがある。 念の為、着用した方がいい。 「はい、わかりました、あの、おやっさんも危ねーと思うんで、俺か……他の幹部をつけます」 「いや、いい、真壁を呼ぶわ」 幹部はシノギで忙しい。 真壁もシノギがあるが、奴はデカい取り引きがある時以外は暇だ。 俺と若頭がセットでいる方がかえって安全だろう。 「あ、はい、わかりました、それじゃ、他の奴らにも言っときます」 「ああ」 「それじゃ、失礼しやす」 辻井は挨拶して出て行ったが、さて、どうするか……。 俺には守らなきゃならねーもんがある。 東堂にプー太郎。 こういった揉め事が起こった時、妻子持ちは大変だ。 中には嫁を金づるにして、紐みてぇな暮らしをする奴もいるが、そんな奴らばっかしじゃねー。 外じゃ遊んでも、嫁やガキは大事にするって奴らの方が多い。 俺の場合は東堂とプー太郎が家族だが、諍いが起きた時は、俺だけじゃなく家族も狙われる。 いっそ葉山に話をして、奴の手を借りりゃ楽にかたがつく。 但し、俺は虎の威を借る狐として、今まで以上にバカにされるだろう。 こんな小さな組でも、親父としての面目を潰されるのは腹が立つ。 とは言っても、俺や真壁が四六時中ここにいるとは限らねー。 100パーセント守りきる自信はない。 この際、つまらねープライドを捨てて、2人を守る事を優先するのが得策だろう。 東堂の世話は太郎に任せ、スマホを持って部屋を出た。 葉山とはどうせまたすぐに会うが、加藤が撃たれたし、一分一秒でも早い方がいい。 玄関のドアのわきに立って葉山に電話をかけたら、奴は数コールして電話に出た。 『俺だ、槙原だ』 『なにぃ〜? 槙原ぁ〜、この野郎、わざわざ電話かよ、嬉しいじゃねーか』 葉山は単純に喜んでやがる。 『ああ、あのな、わりぃが、あんまり嬉しい話じゃねーんだ』 わりぃが、俺はそんな気分じゃない。 『なんだ、なにかあったのか?』 『うちの幹部が撃たれた』 『あぁ"? 撃たれただと、何故お前んとこが狙われる』 葉山はそこら辺はわかってねーようだ。 『俺がお前と親しくしてるからだ』 『はあ? それがなんだ、敵対してたのが、仲良くやってるんだぜ、いい事じゃねーか』 その上、自分の立場ってやつをわかってねぇ。 『お前は一心会のボスだ、藤岡親分のナンバーツーと言っても過言じゃねー、そのお前と仲良くするって事は、俺にとっては大きな後ろ盾となる、だからよ、簡単に言や……やっかみだ』 『ぬあにぃ〜っ! やっかみだと〜、俺がお前と抱き合ってなにが悪い、ふざけんな、キスしたって誰にも文句は言わせねーぞ』 興奮気味に喚いたが……ちょいズレてる。 『いや……、落ち着け、そうじゃなくて、お前はそれだけ影響力がある人間だと言う事だ、それでな、情けねぇ話だが……お前に頼みたい、俺には東堂にプー太郎がいる、こんな状態で狙われるのは不利だ、で、藤岡親分には内緒で、これ以上騒ぎがデカくならねーようにして貰いてぇんだ』 話が親分に行くと、更に面倒な事になる。 あの親分は闘犬好きでちょくちょく観に行くが、武闘派だから血なまぐさい話が好きだ。 俺の力量を試す為に、逆にけしかけてくるかもしれねー。 『あの親分か、そうだな、確かに……言わねー方がいいだろう、ああわかった、で、やったのはどこだ?』 『撃ったのはチンピラだ、ただ、うちの辻井がそのチンピラが武藤組の幹部と話してるとこを見た、辻井は良からぬ噂を聞いたらしいし、おそらく間違いねー』 『武藤か……、あのハゲ親父、女の尻を追いかけ回してると思ったら、お前んとこにちょっかい出してたのか、やっぱりよ、女にばっか現を抜かす奴ぁ、馬鹿だな、女もヤリマンがいるが、パコパコやる事しか頭にねー奴らは阿呆って事だ、その点、俺らは偉いな』 俺らがやってる事が正解かどうか、そんな事ぁわからねーが、俺は返事を貰いたい。 『で、頼めるか?』 『おお、構わねーが、ただとはいかねぇぞ、報酬代わりに……お前を抱かせろ』 あっさり引き受けると思っていたら、嫌な事を言いだした。 『えっ……』 『いいじゃねーか、な、交代してやろうぜ、それならいいだろ? 藤岡のじーさんにバレねーようにするのは、それなりに大変なんだ』 『そうだな……』 こいつの力を借りるしか他に手がねーし、背に腹はかえられねー。 『俺はお前の為なら、武藤なんかぶっ潰してやる、そのくらい……惚れてるんだ』 葉山は過激な事を言ったが、俺はそこまで望んじゃいない。 ただ、心意気はよくわかった。 『わかった、武藤は潰さなくていい、ただ、今回は助かったからいいが、俺は仲間を失いたくねぇ、奴らが暴走しねぇようにストップをかけて貰いてぇんだ』 『子分じゃなく、仲間って言うのか?』 『ああ、そうだ、俺にとっちゃ子供みてぇなもんだが、信頼できる仲間だ』 『ふーん、そうか、そういやお前……東堂をマメに世話してるが、あいつ、抱いてくれって言っただろ』 葉山は話を東堂へ振ってきた。 『そりゃ……別にいいだろ』 『言いたくねーか、そんだけ子分を可愛がってるとすりゃ、ダルマになった奴を見たら、なんとも言えねぇ気持ちになるだろうな』 俺の心情を察しちゃいるようだが、他人事のように言う。 『あいつは手足がなくても、前向きに生きてる、俺はできるだけ手助けしてやりてぇ』 お前がやったんじゃねーか! って、つい責めたくなったが、今になって葉山を罵ったところで、東堂の手足が戻るわけじゃねー。 現実を受け止めて、ひたすら歩いて行くだけだ。 『おお、そうか……、話はわかった、武藤には釘を刺しておく、明日午後1時、ラディッツで会おう、1503号室、12階だ』 『ああ、わかった、つまらねー事を頼んで、わりぃな』 『水くせぇ事を言うな、俺らは兄弟も同然だ、舎弟じゃねーぞ、実の兄弟だ』 『ああ』 葉山は明日会う事を楽しみにしているらしく、機嫌よく電話を切った。 これで、無駄に心配をする必要はなくなるだろう。 [*前へ][次へ#] [戻る] |