極道人魚姫BL(完結済) 12、にわか理髪師 矛盾が発生してない事を祈りつつ^^;萌えでひたすら次に進みます。 プロットなど一切なく大まかなイメージで書き出し、キャラクター達がそれぞれに動き出したら、物語が進んで行く、というパターンです。 キャラ任せなので、申し訳なく思うのですが、矛盾が生じる確率あり。 ◆◇◆ 東堂の散髪をしてやろうと思ってバリカンを買ってきたが、バタバタと過ごすうちにマンションへ移る事になった。 俺も東堂も私物は着替え程度だが、東堂は車椅子や介護用品がある。 下っ端にトラックで運ばせた。 マンションは他人名義で契約しているが、ここは経営者が夜逃げした賃貸物件で、真壁が安値で買い取ったマンションだ。 うちの物も同然だし、気楽に住める。 5階建てでエレベーターはあるが、出入りのしやすさを考えて、1階に住む事にした。 東堂を連れて外出する事はないと思うが、もしも具合を悪くしたら、病院へ連れて行かなきゃならねぇ。 病気や事故はいつ起きるかわからねーし、念の為だ。 事務所はバリアフリーじゃねーから、段差は抱えなきゃならなかったが、ここはバリアフリーだから助かる。 世話係にはここに通って貰う事になるが、俺はこのマンションが気に入った。 プー太郎が現れたのは青天の霹靂だったが、魔女のお陰でこうして過ごせるんだから、そう思えばなんて事はない。 見張られてるのも、気にするほどの事はないだろう。 いくら生意気な赤ん坊でも、赤ん坊には違いねーんだから。 引越して翌日、東堂の散髪をする事にした。 フローリングだから、今度ラグでも買ってきて敷こう。 「ぶー、ぶー」 プー太郎は放し飼いにしている。 床に座り、ぬいぐるみを握って遊び中だ。 昼過ぎにキヨシがくる事になってるし、それまでに散髪を済ませたい。 東堂を肘掛付きの座椅子に座らせ、散髪用ケープを首に巻いて固定した。 と、不意に電話が鳴った。 スマホをポケットから出して見ると、滝川からだ。 何故滝川が俺に用があるのか疑問に思ったが、電話に出た。 『槙原のおやっさん……』 『ああ、そうだ、なにか用か?』 『うちの親父に……墨を入れましたね?』 どうやら気づいたらしい。 『ああ、それがなんだ』 けど、葉山は元から龍を背負っている。 大した事じゃねー。 『槙原昭弘と……フルネームで入ってます、どうしてくれるんすか、サウナに行った時に見たんですが、慌ててタオルで隠しました、一心会のボスがあなたの名前を刻みつけるとか、誰かに知られたら事ですから』 しかし、滝川は気に入らないようだ。 『じゃ、お前がフォローしてやれ』 たかがそんなもん、東堂とは比較にもなりゃしねぇ。 『それと……乳首にピアスも』 『ああ、だからなんだ』 『それも人に見られたらかっこ悪ぃ、外すように言ったんすけど、親父は嫌だと言い張る、俺はそれも隠したかった、けど、胸にタオルを巻くわけにゃいかねぇし、結局、他の子分にも見られちまった』 つまり……葉山の体裁を気にして、わざわざ電話をよこしたと、そういう事らしい。 『おい滝川、おめぇも東堂で楽しんだんだよな? 東堂はなんにもできねー体にされちまった、お宅らが楽しむ為に……、で、お前はたったそんだけの事で俺に難癖つけてるが、葉山はどうなんだ? 奴はムカついてるのか?』 こいつは葉山の側近をやってるが、葉山の事をそこまで庇おうとするのは、奴に私情を抱いてるのかもしれねー。 『いえ……、親父はこれでいいと言ってます』 そりゃそうだろう。 『本人が納得済みなのに、お前が文句を言う筋合いはねーよな? それともなにか、俺とやり合いてぇとでも言うのか?』 『い、いえ……』 滝川は急にトーンダウンした。 『うちとお宅が仲良くやっていけりゃ、その方がいいんじゃねーのか?』 『はい……』 『ふっ、そんなに心配なら、常にそばにいて、墨がバレねーようにするんだな』 抜かりなく、奴の腰にタオルを巻き付けてやればいい。 『わかりました……』 『ったく……、俺は忙しい、もう切るぞ』 滝川は力なく答え、俺は一方的に電話を切った。 「おお、わりぃ、待たせたな」 スマホをしまい込んで東堂の背後に回り込んだ。 「おやっさん、今の電話……一心会っすか?」 聞こえちまったらしい。 「ああ、滝川だ」 「墨とピアスの事で、なにか文句を言ってきたんすか?」 「ああ、奴は気に入らねーんだろ」 「そうっすか……、そりゃそうでしょうね、で、あの、やり合うとか言ってましたが、まさかそんな話に?」 「いーや、ありゃ脅しだ、しつけーからよ」 「そっすか……よかった」 「東堂、俺の組はちいせぇ、もし一心会とまともにやり合ったら、ひとたまりもねーだろうよ、お前に余計な心配かけてわりぃな、けどよ、葉山が俺に惚れてるうちは争いになるこたぁねー」 葉山が俺らをぶっ潰そうと思や、赤子の手をひねるよりチョロい。 だからこそ、その代償は高くついちまった。 東堂の姿が全てを物語っている。 「おやっさん」 「ん?」 「いえ、俺は……こんな体で長生きしても、誰かのお荷物にしかならねぇ、だからかまやしません、ただ、あの……葉山のおやっさんとはまたお会いになるんですよね?」 「東堂、つまらねぇ事を言うな、葉山とは……また会う」 俺の力不足が原因だが、せめて東堂には精一杯生きて貰いてぇ。 「はい、すみません……、あのー、こんな事聞いたら怒られるかもしれませんが、おやっさんは……葉山のおやっさんに惚れてるんですか?」 東堂はひとこと詫びて、一番聞かれたくねー事を聞いてきた。 「なわけあるか……」 俺は嘘をついた。 「そっすか……」 東堂はそれ以上聞かなかった。 「んじゃ、髪やるわ」 「はい、お願いします」 バリカンを持ったが、アタッチメントをつけて長さを決めなきゃならねぇ。 3ミリに6ミリ……。 迷ったが、3ミリでいく事にした。 「目に入りそうになったら、目ぇ瞑れよ」 「はい」 注意をして後頭部から刈っていった。 「おおー」 切れ味抜群で、サクサク散髪できる。 こりゃおもしれぇ。 だが……。 気分よく半分ほど刈り終えた時に気づいた。 予想より坊主になっちまってる。 やべぇ、6ミリにしときゃよかった。 「ばぶぅー!」 プー太郎が足に縋りついてきた。 「こらプー太郎、今はだめだ」 このケープは、刈った毛が落ちねーようになっている。 髪の毛がプー太郎につく心配はねーが、足に抱きつかれたら邪魔だ。 「うーん、うーん!」 なのに、よりによって力みだした。 「おやっさん、後ろ見えないんすけど、プー太郎が唸ってますね」 「ああ……、こいつ、うんこしてるわ」 俺に掴まったら、もれなくうんこするのかよ。 もわ〜っと、例の匂いが上がってきやがった。 「東堂、わりぃ……、ちょい中断だ」 「はい、わかります、プー太郎、やっちまいましたね」 東堂も匂いで分かったらしい。 予想以上に坊主頭になった東堂から離れ、プー太郎を抱いて隅でオムツ替えだ。 オムツ替えのやり方は太郎から教わった。 オムツ替えセットも、ちゃんと袋に入れてある。 汚れたケツを拭いて、新しいオムツをプー太郎にあてがう。 「ふっ、ヒヒッ……、あんた、浮気してるだろ」 服を元に戻し終えた時に、プー太郎が小声でボソッと呟いた。 「バカ……、喋んな」 冷や汗をかきながら俺も小声で言った。 「ばぶぅー、パッパ」 すると赤ん坊に戻ったが、パパもマズい。 「だから……しーっ!」 例えカタコトでも、1歳も来てねぇのに喋るのは変だ。 「ぶーっ!」 プー太郎は怒ったらしく、四つん這いになってスタスタと離れて行った。 不貞腐れるのは勝手だが、ちゃんと守って貰わなきゃ困る。 俺はオムツのブツをトイレに流しに行き、使用済みオムツをゴミ箱に入れたが……。 さっきは冷や汗をかいて焦っちまったが、プー太郎の奴、やっぱり俺を監視している。 浮気って言ったが、浮気と決めつけられるのは納得がいかねぇ。 そりゃ、本当なら葉山をモノにして、あとは好きなだけ奴を弄びゃいいんだろうが、人間界に戻ってみたら……とんでもない事になっていた。 しかも、やったのは葉山だ。 もしプー太郎が魔女と繋がってるとしたら、魔女にも俺の心中を察して貰いてぇ。 ま、兎に角、今は東堂に真実を明かすのが先だ。 「東堂……」 背後に立って声をかけた。 「あ、はい」 「あのよー、ちょっと短くし過ぎちまった」 「え、あ、そうなんすか?」 腕がありゃ、頭を触ってるとこだろうが、東堂には確かめる術がない。 「そうなんだ、坊主頭になっちまってる、わりぃな」 下手くそで申し訳ねー。 「いえ……、構いません、どうせすぐ伸びるし、俺は外には出ませんから」 「そうか、次にやるときゃちゃんとやる」 「はい、へへっ」 「なんだ? 可笑しいか」 「いえ、おやっさんに散髪して貰えるなんて、昔なら絶対なかったっす」 「おお……、まぁーそうだな」 東堂は嬉しいようだが、俺は返事を返す事しか出来なかった。 五体満足なら俺が散髪するなんて、こんな機会はまずねー。 ダルマにされたからだが、嬉しげな東堂を見たら……なんか胸が痛んだ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |