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極道人魚姫BL(完結済)
その1
◆◇◆

俺は組長をやっていた。
小さな組だが、ある夜、縄張り争いをする組の奴らと喧嘩になって、つまらねぇ喧嘩で死んじまった。

だが、どういうわけか海にいる。
下半身は魚だ。
こりゃどう見ても人魚だが、男で人魚って……だせぇし、かっこ悪ぃ。

何故こんな事になったのか、そんな事は神様仏様のみぞ知る。
とりあえず、生きてるのはありがてぇ。



海中を泳ぎ回ってのんべんだらりと過ごしていたが、そんなある日、この日は海が酷く荒れていた。
なのに、馬鹿な奴らが小型のクルーズ船を出して、呑気に釣りを始めた。
何を考えてるのか、釣果どころか、無謀にもほどがある。

俺は気になって見ていたが、案の定、船は波に揉まれて転覆した。

だが、俺は奴らを助けるつもりはない。
というのも、このクルーズ船には俺を殺った組の組長が乗っていたからだ。

雑魚共はわらわらと海中に沈んでいったが、その中には、俺を撃って死に至らしめた野郎もいた。
いい気味だ。

爽快な気分で成り行きを見守っていると、やたら目をひく男がいた。
服が脱げて肌が露わになっているが、背中には見事な龍が描かれている。

こいつは組長の葉山だ。
にっくき宿敵が溺れ死ぬなら、願ったり叶ったりだと思って、奴が海中に沈むのを眺めていたが、葉山は運命を受け入れたのか、目を閉じて流れに身を任せている。
鍛えられた肉体も、海には太刀打ちできないらしい。
ふわりと背中がこっちへ向き、龍が生きているかのように俺を睨みつけた。
敵対していた時は、こんな風にじっくりと見た事がないが、死にゆく奴の横顔は、男らしい端正な顔立ちをしていた。

俺は矢も盾もいられなくなり、奴に向かって泳ぎ出した。

こいつは死ぬべき野郎だ。
何故助ける?

そう思ったが、そうせざるを得ない何かを感じ、浮遊する奴の体を捕まえて海面に向かって泳いだ。

岩礁に引き上げたが、ここなら波に攫われる危険はない。
俺は海中から身を乗り出して奴の面を拝んだ。

──美しい。
美形というよりも、凛々しさをはらんだ美しさだが、素直にそう感じた。

こいつがこんなにいけてるとは、今の今まで気がつかなかった。

「うっ……」

葉山は小さく呻いて薄目を開けた。
マズいと思ったが、顔を見られてしまった。

「お前は……、ま、槙原、えっ、何故……」

葉山は俺を見て驚いている。

「ふん、命拾いしたな」

ひとことだけ言って海中に潜った。

どうして助けた……。
俺は自分で自分を責めた。
葉山は俺のシマを奪ってぬくぬくと暮らしているだろう。
なのに、あいつの横顔が目に焼き付いて離れねー。


自分に腹が立って仕方がなかったが、自分でもどうしようもなく、忘れられなくなっちまった。




悶々と過ごしていたら、ある夜、魔女がふらりとやってきた。

俺は海中の洞窟をねぐらにしているが、魔女も同じだ。

「なんの用だ」

「お前さん、恋煩いをしているだろう」

開口一番に恋煩いと言われ、カチンときた。

「うるせぇ、悪趣味にもほどがあるぜ」

魔女は相手の心を探る悪い癖がある。

「ケッケッケッ……、あたしゃ魔女だよ、なんでもお見通しさ」

「ったく……、で、なんの用だ」

「恋煩いに効く薬があるんだ」

またそれを言う。

「だからよ、恋煩いって言うな」

「いいじゃないか、しかも相手は男だ」

言うなって言ってるのに、1番嫌な事を言いやがった。

「黙れ! っのクソババア、ぶん殴るぞ」

「おやおや、口が悪い人魚だこと、ま、ヤクザの親分だったんだし、仕方ないか、それよりね、薬だよ」

魔女は屁ともない面をして、ニヤニヤしながら言ってくる。

「胡散臭ぇな、毒薬じゃねーだろうな」

変な物を渡して、俺を抹殺するつもりかもしれねー。

「バカをお言い、こりゃ人間に戻れる薬だ」

だが、耳を疑うような事を言いだした。

「えっ、人間に?」

「ああ、但し、この薬の事は誰にも喋ったら駄目だ、それから……人間に戻って、お目当ての相手を落とす事ができたら、そのあとは決して別れてはならぬ、相手が他の人間とくっついたりしたら、お前さんは相手を殺さなければ人魚には戻れぬのだ、海の泡となって消える」

薬の効果は嘘じゃねーようだが、副作用がきつい。

「海の泡か……」

俺が人間に戻って、奴の前に行ったとしても、奴は顔をひきつらせて驚くだろう。
落とす以前に、俺はあいつと敵対していたんだ。
まず、初めから上手くいきっこねー。

「なんだ、怖いのか?」

「そりゃ、俺だって泡になりたかねー」

「あんた、その人に片思いしてるんだね」

「ババア、いい加減にしろ」

人の心を読むのも大概にしろ。

「あたしゃ、恋を叶えるキューピットさ、今なら特別に惚れ薬もつけちゃうよ」

「なんだよ、そのテレビショッピングみてぇなノリは」

「なに言ってるんだい、キューピットを信じてごらん、きっといい事がある」

「バカ言うな、魔女は悪魔の下僕だ、俺だってそのくらいは知ってる」

「あら、意外と博識なのね」

「けっ……」

「ね、どうするのさ」

「ちょっと……考えさせてくれ」

魔女のいう事を鵜呑みにしねぇ方がいい。
そんな事はわかってるが、どうするか迷った。

「わかったよ、じゃあ、その気になったらいつでもおいで、待ってるよ、ヒッヒッヒッ……」

魔女は不気味に笑って踵を返した。

「ったく、気色悪ぃババアだ」






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あきゅろす。
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