BL長編snatch(完結)ヤクザと高校生 Snatch84Thank you for loving me all the time. ◇◇◇ 寺島に見送られ、久しぶりにテツの横に乗った。 シートに思いっきり体を預けたら、心地よくて深いため息が漏れた。 目を閉じて軽やかに前進する感触を体感していると、手の甲をぎゅっと握られ、びっくりして隣を見たら……テツは前に向いたまま、無表情に手を握っている。 「あっ……ハハッ」 マジな顔をされたら、どうリアクションしていいか分からず、笑って誤魔化したが……。 テツは無言でハンドルを握り、掴んだ手を離そうとはしなかった。 そのままの状態でひとことも言葉を交わさず、マンションの駐車場に着いた。 車から降りてマンションの入り口へ向かったら、入り口の前に姉貴と火野さんが立っていた。 「友也……、あんた、なに勝手な事やってるの!」 姉貴は俺の前に走って来ると、開口一番に噛み付いてきた。 「っと……、姉ちゃん、ごめん」 「急に居なくなって……あたし」 だけど、俺を睨みつける表情は見る間に崩れていった。 「あんたって……ほんとバカなんだから!心配したじゃない……うっ」 「舞さん……、ほら、こっちへ」 火野さんがやって来て姉貴の肩を抱いた。 「うっ……うん……」 姉貴は手で涙を拭いながら後ろへ下がった。 「兄貴、お疲れのところ、邪魔してすみません」 火野さんは一言詫びてテツに頭を下げた。 「いや、構わねー」 テツは特に気に留めるでもなく、さらっと答えた。 「で、友也、あれから痛めつけられたりしなかったか?」 火野さんは心配そうに聞いてきた。 「はい、大丈夫です……」 「そうか、俺はこの件に関しちゃ……偉そうな事を言える立場じゃねー、だからよ、今はとにかく……おめぇが無事でよかった」 俺が答えると、ため息混じりに言って片手で肩を掴み、軽くポンポンと2度叩いて手を引いた。 「心配かけてすみません、姉ちゃんも、ごめん」 火野さんと姉貴に向かって頭を下げた。 「うん……、あんたの顔を見たら……安心した」 姉貴はようやく笑顔を見せたが、泣いて赤らんだ顔をしている。 「よし、それじゃ舞さん、取り敢えず顔を見たんだ、今はこれでいいな?」 それを見た火野さんは、キリをつけるように言った。 「はい……」 「それじゃ兄貴、俺らはちょいと用があって、このまま出てきます、ゆっくり休んでください」 『んん?』って思った。 「ああ、わかった」 「それじゃ失礼します、舞さん行こう」 火野さんはテツに挨拶すると、姉貴の背中を押して車の方へ行くように促した。 「はい、友也、また後で話しよ」 「うん、わかった」 姉貴は安心したのか、明るく言ってきたが、返事を返しながら思った。 まず、2人してマンションの入り口で待っていたのは、姉貴が火野さんに言ったんだろう。 それと、火野さんが用だと言ったのは、多分嘘だ。 姉貴がいるから……というのもあるが、間違いなく、俺達に気を使って部屋を空けたに違いない。 ◇ 部屋に戻ってきたら、気がはやってテツより先に上がった。 嗅ぎなれた匂いが、やたら懐かしく感じる。 「やっぱりここがいい、な、テツ……」 振り向こうとしたら、ぐいっと引っ張られて抱き締められた。 「わ、ちょっ……、びっくりしたー」 「友也……、俺がどんだけ心配したと思うんだ」 さっきまで普通だったから、案外割り切ってるのか?と思っていたが……違っていたようだ。 「ごめん……」 「俺ぁ駄目だと言ったよな?ったく、それを勝手に行きやがって」 半端なくマジな顔をしている。 「あの……、ごめん」 なんとなく、暗雲立ち込めるような……重苦しい気分になってくる。 「若のスーツに俺のシャツ、そんなものを着てハクをつけるつもりだったのか?」 服の事を言われたら、ここを出た時の光景が蘇ってきた。 「違う……」 出来れば……触れて欲しくない。 「じゃ、なんだ」 だけど、無理みたいだ。 「怖かった……、だからこれを着て行った」 「怖ぇ癖に行くんじゃねーよ」 「そんなわけにゃいかねー、柳田さんの事もあったけど……、あんたと一緒に居たかった、ずっとここで暮らしてぇ、だから……見て見ぬふりなんかできなかった」 組長の屋敷で、みんなの相手をしただけだ。 シャブは打たれたが、こっぴどく痛めつけられたわけじゃない。 全然大した事じゃないし、簡単な事だ。 自分自身に……そう思い込ませている。 「はあー、相変わらずバカだな、おめぇは……、俺はよー、ムカついた……ムカついて堪らなかった、けどよー、おめぇのお陰で浮島の奴らは俺らに協力した、でー、諍いも、仇も全部片付いたってーわけだ、めでたしめでたし、万々歳か?けっ……!なのによ、ちっともすっきりしねー、クソムカつく、てめぇ自身に腹が立つんだ」 でも、テツは納得がいかないようだ。 「ごめん……」 テツからしてみれば当たり前の事だが、俺はただ謝るしかない。 「ったくよー、息子にして安心してたらこれだ、なあ、何人に抱かれた」 なのにテツは、俺が忘れようとしている事を聞いてくる。 「え…」 「なにをされた」 頼むからそっとしておいて欲しい。 「それは……」 「あいつらやたら薬を使うからな、シャブ打たれたんじゃねーのか?」 「ごめん……、話したくない」 「くっ……、今すぐ用意しろ、抱いてやる」 テツは苛立って言い放ったが、顔には痣や傷がついている。 「えっ、いきなり?でも、竜治さんと喧嘩して、ほら、ここ痣になってるし、少し休んだ方がいいよ」 「そんなもん、かすり傷だ、はやくしろ!」 シャワーでも浴びて治療した方がいいと思ったが、怒って怒鳴りつけてくる。 「わかった……」 言う通りに従う事にした。 準備をする為に洗面脱衣場に行った。 スーツはクリーニングに出した方がいい。 テツのシャツは洗濯機に入れた。 体をキレイにしてバスローブを羽織ろうかと思ったが、やっぱりやめて腰タオルにした。 バスローブは前から洗面台の棚の中に置いてあるが、そんなのを羽織ってベッドに行くのはキモイ。 腰タオル姿でベッドに行くと、テツは上着を脱いでベッドの縁に座り、タバコを吹かしていた。 暗いワインレッドの開襟シャツが、よく似合っている。 「来たか、こっちへこい」 俺に言って、ヘッドボードの灰皿を取ってタバコを揉み消し、灰皿をベッドの下に無造作に置いた。 「わっ!」 傍に行ったら腕を引っ張られ、尻餅をついて体が軽くバウンドした。 「やべぇぞ、溜まってっからよー、ちょい待て、俺もマッパになってやる」 さっきまでカッコイイと思ってたのに、ムードのかけらもない事を言う。 目の前で潔く全裸になると、脱いだ服を派手に放り投げ、フル勃起したチンコを堂々と晒す。 「見ろ、おめぇのせいで勃ちっぱなしだ」 仁王立ちして自慢げに突き出されたら、ムードどころか……吹き出してしまう。 「ぷはっ……!ちょっ……勘弁してくれ、あははっ!」 「笑ってる暇はねーぞ」 腹を抱えて笑っていると、いきなり押し倒してきた。 「わ……」 胴体をひょいと抱え上げられ、ベッドの真ん中に投げ出された。 「オルァ!ローションぶっ込んでやる」 タオルを毟りとられ、ローションをアナルの中に注入され、ひんやりとした感触を感じた。 「入れっぞ、足ぃ上げな」 「あ、うん……」 やりやすいように足を上げたら、膝をついてチンコを握り、勢いをつけて思いきり突っ込んできた。 「っぐっ……うあっ!」 反り返った肉茎が腸壁を抉り上げ、鋭い刺激に体が硬直した。 「うう"ーっ!」 テツはそのまま上に被さってきた。 「な、田上組長と若頭の日向にゃぜってー抱かれてるよな、白状しろ」 また嫌な事を聞いてくる。 「っ、い、言いたくねー」 「言え、言わねーとこうだ!」 言うまいと思ったが、フル勃起したチンコが前立腺をゴリッと擦る。 「んんーっ!あぁっ!」 「寝たんだな?」 久々にやられたらキツイ……やっぱ無理だ。 「そ、そりゃ……ハァハァ、でも……組長はやってない」 仕方なく話す事にした。 「あぁ"?やってねー?どういう事だ、抱かれたんじゃねーのか」 「組長と姐さんとで3Pした」 「なにぃ?姐さんと」 「組長に足舐めとディープスロートをやらされて、姐さんにも体を弄られたけど、俺は吊るされたまんま放置されて……俺の目の前で組長と姐さんがやり始めた」 「はあ〜?なんだそりゃ」 「俺は気を失ったけど、結局組長にはやられてない」 「わけが分からねぇが、つまりおめぇに見せる事で興奮してるって事か?」 「いや、ちょっと違う、これは姐さんから口止めされてるから、誰にも言わないで欲しいんだけど……」 「口止め?」 「うん、姐さんは俺を逃がしてくれた、だから約束は守りたい」 「そうなのか?いやまあ……味方になってくれたとしたら……、恩はある、わかったよ、誰にも言わねぇ、なんだ?」 「姐さんは組長に優しく頼まれると、ドSな女王様になる、で、組長は姐さんに責められて感じまくってた」 「えっ、マジか?あの田上組長は……女王様になった姐さんに責められて……喘いでるって事か?」 「そう……姐さんはちゃんとボンテージも着てた」 「ちょっ……、おいおい、なははっ!マジかよ、っはははははは!あんな偉そうに気取ってんのにか?あーっはっはっ!あの組長はマゾだったのかよ、女王様だと?なっはっは!笑えるぜ」 テツには相当ウケたようだが、チンコは突っ込んだままだ。 「あのー、で、まだやるの?」 「あたりめぇだ、けど……ディープスロートは分かるが、足舐めって……ガチで足を舐めさせられたのか?」 「うん、組長は結局ずっとそれしかやらせなかった、でも……足舐めはマジで嫌だった、汚ぇまんま舐めさせるんだ、最悪だよ」 「そんな事を……、ったくよー、抱かずにドSに振る舞うだけで、姐さんにゃドMか……ややこしいがド変態にゃ違いねー」 「よそじゃどんな風に振舞ってるのかわからねーけど、俺にはそうだった」 「はあー、そうか……、で、若頭の日向はどうなんだ」 若頭との事はあまり話したくない。 「抱かれた……」 「何をされた」 だけど、納得しそうにないから、支障のないところだけ話す事にした。 「尿道責め……」 「カテーテルか?」 「そう、痛いし、嫌だった」 「俺は森先生にやられたが……ありゃ確かに痛てぇな」 「他は?」 「あとは普通……」 「普通なわけねーだろ、絶対に乱交やってるだろ」 余計な事は話したくないが、人身御供な状態だったわけだし、全て否定するには無理がある。 「それは……多少は……」 「乱交込みで、全部で何人だ」 「言えねー、そんなの聞いても……意味ねーだろ」 ふらっとやってきた奴もいたから、人数まで把握出来てないが、具体的な事は言わない方がいい。 「よっしゃ、だったら……こうだ!」 「ちょっ、待っ……、うあっ!ま、待って!あっ!あっ!やばい、やばいー!」 だが、やっぱり無理だった。 「あのな、これを最後の質問にしてやる、何人だ?」 「ハァハァ、あ、あの……」 最後の質問なら、言っても構わないだろう。 「言え」 「正確には……覚えてねー、多分10人以上……」 「っ、くっ……」 けれど、テツは悔しげに口をひき結んだ。 「テツ……俺、謝るから」 「くっそー、俺のモノを……さんざオモチャにしやがって!」 理由や結果がどうであれ、俺がやった事でテツを傷付けたなら……俺の責任だ。 「ごめん!ほんとにごめん!」 「分かった、もういい!つか、竜治……あの野郎!あいつのせいでおめぇは……、そこまでしててめぇのモノにするか?俺には理解できねー!で、おめぇにネックレスなんか渡してよー、しかし……何故2重にかけてたんだ?それこそ俺のを引きちぎりそうだが……」 「ちぎろうとしたけど、ネックレスを押さえてやめてくれって頼んだ、そしたら諦めた」 「ふんっ……、何をしようがおめぇを他の奴らに好きにさせて、それで自分に靡かせようったって、無理に決まってるだろ、やる事が強引過ぎるんだよ、まあー、まだ殴り足りねーが、バチが当たっていい気味だ、嫁に頭が上がらねーとは、意外だな、くっくっ」 話が竜治の事に移ってしまったが、奥さんにバイだった事がバレたから、もう2度とこんな事は起こらないだろう。 田上組長宅で起こった出来事は、これっきり封印したい。 「じゃあ、もう……これで納得してくれる?」 「そうだな、考えたら腹が立つが……、おめぇには助けられてばっかしだ、だからよー、責めて八つ当たりするのはお門違いってやつだ、まだ後片付けがどうなるかわからねーが、ま、親父が上手くカタをつけるだろう、俺は生きてる限りおめぇと一緒にいるからな、へっ、ストーカー並に離さねぇぞ、それでもいいか?」 テツはわかってくれた。 「うん……、いいに決まってる」 嬉しくなって思いきり背中を抱き締めたら、テツは顔を近づけてきた。 「続きをやるぞ」 「うん」 顔を傾けて唇を受け取めると、繋がった箇所がじわりと熱くなった。 それからは真面目に続きをやったが、真面目にやったせいで、テツは呆気なくイキ果てた。 だけど、最高に満たされた気持ちになる。 テツはマジギレしたら怖いが、面白くて、変に世話焼きで、黙っていればイケメンだ。 2回交わってひとまず終わりにした。 一緒にシャワーを浴びて、着慣れたラフな服を着た。 ソファーに座り、ペットボトルを片手にテツに寄りかかったら、当然のように肩を抱いてくる。 「近いうちに温泉、連れてってやる」 「あっ、そっか……そういや言ってたな」 色々あったから、温泉旅行の話などすっかり忘れていた。 「ゴタゴタして遅くなっちまったが、山奥の鄙びた宿だ、今どきの小洒落た雰囲気じゃねーが、そこでいいか?」 けど、当たり前に……滅茶苦茶楽しみだ。 「うん、なんでもいい、泊まり?」 「ああ、親父に頼んで3日貰う、おう、アレだ……、新婚旅行って事にしようぜ、なははっ、馬鹿だな〜、あははっ」 「ちょっ……、なにそれ、はははっ」 テツはふざけて新婚旅行と言い、俺も笑って流したが、ほんとは満更でもなかった。 「しかしよー……やっぱりおめぇがいると違うな」 笑っていると、肩を引き寄せて言ってきた。 「ん、何が違うんだ?」 「このマンションに来たのは……おめぇと暮らす為だ、だからよー、ひとり用にゃ出来てねぇんだ、俺が生まれて初めて得た……正真正銘本物の家族だからな、家族であり、パートナーだ、パートナーは傍に居なきゃならねぇ、こりゃマジな話だ」 「うん……」 不意打ちで真剣に語るから……感動して泣きそうになったが、テツのスマホがけたたましく着信音を鳴らした。 水を差されてがっかりしたが、テツは電話を切った後で『ちょっと出てくる、すぐに戻るからおとなしく待ってろ』と言って、上着を羽織って部屋を出て行った。 いいムードだったから、ひとりにされてやたら寂しくなったが、ふとセイコの事を思い出した。 2ヶ月くらい手入れせずに放置していたし、どうなったか気になり、ダンボールから引っ張り出して床の上に寝かせた。 服は最後に着せたセーラー服のままだ。 ぱっと見なにも変化はなかったが、服を脱がせてひっくり返してみたら、背中やケツの一部がガビガビに固くなっている。 「あーあ……、ったく、しょうがないなー」 ベビーオイルとパウダーを用意して手入れした。 すると、暫くしてピンポンが鳴った。 テツには出なくていいと言われているが、やっぱり気になる。 玄関に行ってドアを開けたら、イブキとケビンだった。 「やあ、無事帰還、おめでとう」 ケビンが笑顔でハグしてきた。 「うん……ありがとう」 「友也、本当によかったよ〜、俺達のアドバイス、聞いてくれたんだな?」 「うん、そう……、あ、とにかく上がって……」 「ああ、じゃ、お邪魔するよ」 イブキは来た事があるが、ケビンは部屋に上がるのは初めてだ。 物珍しそうに歩き回っているが、俺はイブキをソファーに座るように促して、キッチンで飲み物を用意した。 「これは……人形だね、シリコンか、ベビーオイルにパウダーがあるって事は、手入れしてた?」 ケビンはベッドの方へ行ったから、セイコに気づくとは思っていたが、もう見られてもなんとも思わなくなった。 「ああ、そう」 「ふーん、よく出来てるなー、生で見るのは初めてだ」 「それさー、10数万したらしい」 ケビンに答えながら、ソファーに座るイブキへ珈琲を出したが、ケビンは多分イブキの横に座るから、ケビンが座るところへティカップを置いた。 「インスタントだけど、どうぞ」 「ありがと〜、人形ってなに?」 イブキの向かい側に座ると、イブキは興味なさそうに聞いてきた。 「ラブドール」 「ふーん、趣味?」 「テツがすぐふざけるから……、ああいうのを買ってくるんだ」 「ははっ、人形に10数万かけるとか、きっと同業じゃ滅多にいないよ、面白いね、兄貴」 ケビンが戻ってきて、さっき俺がカップを置いたところに座った。 「うん、まあー」 だけど、俺はセイコの事より、姐さんとの事が気になっていた。 「なあケビン、姐さんと、マジで付き合ってるんだな?」 「ああ、見つかるとやばいから、そんなには会えないけどね」 「大丈夫なのか?もし見つかったら……多分指1本じゃ済まないぞ」 もし組長にバレたら……指を失うのは勿論だが、霧島組と浮島組の両方から制裁を受ける事になるだろうし、間違いなく破門、絶縁になりそうだ。 とんでもなく……恐ろしい。 「わかってる、だから極秘に会う、その辺は上手くやるよ、姐さんも浮気は初めてじゃないみたいだし」 「えぇっ、そうなのか?」 「ああ、詳しくは聞かなかったが、そうらしい」 「へえ、よくやるよなー……」 加奈子はドSだけに、予想以上にアグレッシブだった……。 その後は3人でたわいもない話しをしていたが、1時間ほど経ってケビンが、『そろそろ行かなきゃならない』と言いだし、また会う事を約束して2人を玄関まで見送った。 ティカップを片付けて、セイコの手入れを済ませたら、タイミングよくテツが戻ってきた。 「ほら、忘れ物だ」 セイコをダンボールにしまい込み、立ち上がってソファーの方へ行ったら、テツはカバンを差し出してくる。 「あ……、って事は、親父さんが?」 何となくわかっていたが、親父さんは田上組長に会いに行ったらしい。 「おお、おめぇの事は親父がきっちり話しをつけた、ま、竜治は何らかのバツを受けるだろうが、自業自得だ、ただな、話し合いは思わぬほど上手くいったみてぇだ」 俺はカバンの中身を確かめながらテツの話を聞いていた。 中には財布とスマホ、それに親父さんから貰った時計がちゃんと入っている。 「そうなんだ、上手くいったって……どんな風に?」 安心して聞き返した。 「上手くいったのはな、ミノルがいたからだ、若頭の日向が、ミノルの事をえらく気に入ってたらしいな」 「うん……」 例えミノル絡みでも、若頭の話は地雷だ。 「けど、ミノルはやっぱり山本なんだろ?」 「そうみたい」 「まあー、あの日向って若頭はちょいとくせもんだからなー、けどよー、気に入られてるなら別に構わねぇよな、ハッキリ言って見た目だけなら日向が上だ、ミノルの好みなんぞ知るわけがねーが、ま、蓼食う虫も好き好きって言うからな」 テツも山本の事に関しては、似通った印象を持ってるらしい。 「ぷっ……」 「なんだ、おめぇもそう思ってんのか?」 「まあー」 「だよなぁ、でー、ミノルはあの屋敷に住むらしいぜ」 「あ、そうなんだ……」 そうなるとは思ってはいたが、三上がどう思うのか……そこは微妙だ。 「おお、そういや水野が居てな、あいつ、カオリと付き合ってるらしいな?」 テツはソファーに座ったので俺も隣に座ったが、水野はカオリとの事を話したようだ。 「そう」 「ははーん、カオリがおめぇに会いに行った時だろ」 「うん、水野さんがナンパした」 「あいつー、ちゃっかり声かけやがって、にしても……、カオリはまぁー……確かに美人だけどよ、あいつより年上だぞ、あいつ年上好きだったんだな……、おめぇと一緒じゃねーか」 「俺は別に……」 意識してるわけじゃなく、たまたまそうなる。 「嘘つくな、おめぇ、朱莉に惚れてただろ、ひょっとして……カオリにも惚れてたんじゃねーか?」 今更だし、ちょっとくらいバラしても大丈夫だろう。 「そりゃー、少しは……」 「やっぱりそうか、この野郎……カオリとやっちまったんじゃねーのか?」 けど、テツはまた疑ってくる。 「あのー、俺はすげー真面目なんで、女の人とそんな風にやったりしません」 女の人は未だに朱莉さんしか知らないが、軽いノリでそんな事をしたくない。 「カオリはソープ嬢だぞ、で、おめぇはそこで働いてたんだ、やろうとおもや、その辺でいくらでもできるだろ、なあ、おい、白状しろ!」 「ちょっと……、犬や猫じゃあるまいし、やらねーよ」 「馬場はやってたぜ」 マネージャーと同列にされちゃ堪らない。 「あのー、マネージャーなんかと一緒にしないでください」 「ほおー、あいつの事、嫌いなのか?」 「うん、嫌いだ、ケチだし、嬢達に無茶なスケジュール組んで押し付けるし、新人には手ぇ出すし」 「なにぃ?あいつ、まだ嬢に手ぇ出してんのか」 テツは急に顔色を変え、失敗したと思った。 「いや、面接の段階だから、嬢ってわけじゃ……」 「そうか……、面接にきた女を食ってんだな、よし」 慌てて言い訳したが、やたら意気込んでいる。 「いや、待って、ヤキを入れるとか……、やめてくれ、俺がチクったみてぇで嫌だよ」 「おめぇ、また花車で働くつもりか?」 だけど、マネージャーよりも、まずはその話をしなきゃいけなかった。 「うん」 「『うん』じゃねー、やめとけ、そこのコンビニ、まだ張り紙してたぜ、行ってこい」 テツはまだコンビニに拘ってるらしい。 「やだよー、バイト代安いもん」 「あのな、コンビニなら歩いてすぐだ、花車だと迎えがいる、そういつまでも迎えはつけられねーぞ」 「じゃあさ、夜勤の時は泊まるよ、店に」 「バカ言うな、ぜってー駄目だ」 「じゃあ、免許取る」 貯金があるから、免許をとって車を買えばいい。 「ったくよー、おめぇも頑固だなー」 グダグダ言い合ってるうちにすっかり日が暮れていた。 腹が減って話し合いは中断となり、焼肉を食いに行く事になった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |