BL長編変態ヤクザな話snatch(完結)
OUTLAW5
◇◇◇
翔吾の家に泊まった翌日。
微睡みの中にいたら、テツの声がした。
「若、起きてください！」
「う……」
目を開けたらテツが傍に立っていたが、俺を通り越して翔吾を真っ直ぐに見ている。
「ん……、うるさいなー、なに……？」
「こないだ話したじゃないですか、叔父貴のところへ挨拶に行くから、若も一緒にと……、直ぐに着替えてください」
「やだ……、行かないから」
「若……今日行く所は親父が懇意にしてる大切な相手だ、いつまでも駄々をこねてるわけにゃまいりませんぜ、跡目を継ぐ立場にあるあなたが行かなければ、親父の面目が立たねー」
俺は寝ぼけ眼で2人のやり取りを見ていたが、どうやら組絡みの話らしい。
この家に初めて来た時、テツが翔吾の事を若と呼んだが、あの時俺は『え、殿様……？』と思ったりしたが、翔吾が組長の息子だと知った時にわかった。
翔吾は立場上若頭になるからだ。
「だから、継ぎたくないって言ってるだろ、そんなのテツが継げばいいじゃん、親父のお気に入りなんだし」
翔吾は今日出かける予定があるとか、そんな事はひと言も話さなかった。
初めから行く気はなかったんだろうけど、テツは予め翔吾に話していたようだ。
「親父は若に期待してる、俺はあくまでも補佐だ」
テツは困っているようだ。
もし行くなら、俺は適当に帰るから構わないんだけど、翔吾は俺の横でふくれっ面をしている。
「ふーん、でも僕は知ってるよ、親父は自分と特別な仲になった相手を……僕の世話役につけてるって」
黙って成り行きを見守るしかなかったが、翔吾が気になる事を言った。
親父さんとテツが特別な仲って──どういう意味だ……？
「そりゃ……、そんな事は関係ねー、俺はこれから先もずっと……霧島組が栄える事を願ってるだけでさー、だから頼みます、どうか一緒に来てください」
テツは一瞬言葉に詰まった。
妙に引っかかるが、あの強面の親父さんとテツが……。
確かに、テツは組の中ではイケメンだと思う。
強面で男臭い風貌ではあるが、芋団子をつくねたような強面ではない。
だけど──まさかそんな筈はない。
多分…何か世話になったとか、そういう意味だろう。
「友也が待っててくれるなら、行ってもいいよ」
納得して頷いたら、翔吾がいきなり話を振ってきた。
「えっ、いや、俺……？」
組の事に関わりたくはないが、テツは俺を睨みつけてくる。
「友也、若が戻るまで待ってるよな……？」
脅しだろ……。
だけど、ここで俺が嫌だと言って、翔吾が行かないと言い張ったら……俺が悪いって事になりそうだ。
「あ……っ、うん、まあ、別に用はないから、いいよ、ここで待ってる」
「やった、じゃ、行く」
OKしたら、翔吾は嬉しそうに笑って親父さんと挨拶に行く事を承諾した。
「よし、部屋住みの奴らに飯の世話をするように言っとく、他に用がありゃ遠慮なくあいつらに言え、それじゃあ友也、若が戻って来るまで、ここで待ってろ、いいな？」
テツはほっとしたように表情を緩め、言葉尻でまた俺を睨みつけてきた。
「わ……分かった」
選択の余地は、初めからなかったらしい──。
「若…、さ、では着替えてください」
「わかったよ、じゃ外で待ってて、もう車は用意してあるんでしょ？」
「はい、親父は先に見送られて車に乗ってますが、ここで待たせて貰います」
「疑り深いなー、まあいいけど……、はあーあ、スーツは堅苦しくってやなんだよねー」
「では紋付袴にしますか……？着付けは手伝います」
「いいよ、袴とか、もっと面倒じゃん、時代劇じゃあるまいし、いらない」
翔吾は渋々ベッドから降りると、クローゼットからスーツを出して着替え始めた。
俺は遠目に見ていたが、緩いパーマのかかったツイストヘアに、黒いスーツが意外なほどよく似合ってる。
強面な顔をしているわけではなく、ガタイがいいわけでもないが、何となくオーラが違う。
やっぱり若頭なんだと……そう思った。
起き上がり、ベッドの縁に座って見ていたが、翔吾は着替えが済んだら目の前にやって来た。
「似合ってるな、そのスーツ」
「うん、まぁー友也に言われるのはいい、許せる、じゃ、行って来るから、寄り道せずに真っ直ぐ帰ってくるからね」
「うん、わかった」
翔吾がテツと共に出かけた後、静まり返った部屋にひとり取り残された。
ベッドの枕元に置かれた時計に目をやれば、午前１０時。
顔を洗いに行く事にした。
歯ブラシもタオルも、翔吾が用意してくれている。
廊下に出たら、部屋住みの若い奴が掃除をしていた。
モップを手に床を磨いてるらしい。
俺が近くに行くと、無言で頭を下げる。
部屋住みの奴らは皆こんな感じだが、俺は敢えて話しかけないようにしてる。
大広間の前を通りかかったら、障子越しにガタガタ音が聞こえてきた。
夕べの片付けがまだ終わってないんだろうと思い、突き当たりの洗面所を目指して歩いていたが、不意に奇妙な声が聞こえ、広間の端っこで足を止めていた。
障子を見つめて耳を澄ましたら、ガタガタっという音も聞こえてくるが、苦しげな掠れた声が入り交じっている。
障子の端が少しだけ開いていたので、こっそり中を覗き込んでみた。
──えっ……？
部屋住みの若い奴が宴会用のテーブルにうつ伏せになり、ズボンや下着をズラして尻を丸出しにしている。
そいつの後ろにもうひとりいるが、こっちは留守番を任されてる組の者だ。
俺と同い年位に見えるが、短髪でスウェット姿、チンピラみたいな風貌をしている。
そいつは膝をついてうつ伏せの奴の真後ろに座っているが、そいつもスウェットやパンツをズラして下半身を晒し、うつ伏せの奴の腰を掴んで勢いよく腰を振っていた。
興奮気味に腰を動かしてるせいで、テーブルが揺れて傍に並べてあるテーブルにぶつかって、それでガタガタ音を立てているのだが……、ちらっとそいつのチンコが見えた。
前の奴はチンコで突かれた時に、苦しげな声を漏らしている。
────あっ……これって…。
息を呑んでゆっくり後退りした。
昨夜、坊主頭が俺を誘ってきた。
それに……翔吾はキスをして……。
今朝はテツと親父さんが特別な仲だと言った。
もしかして……この世界では、そういう事が普通だったりするのか？
────怖い。
無性に怖くなってきた。
翔吾の笑顔を思い出したら……胸が痛んだが、ここから出て自分の家に帰りたかった。
────ごめん。
タクシーで家に戻ってきた。
鍵を開けて中に入ったら、階段を駆け上がって自分の部屋に入り、ドアに鍵をかけて窓のカーテンを閉めた。
今朝は翔吾とあんなに親しくしてたのに、広間で見た光景が頭に浮かんできて、あの屋敷の事を思い出しただけで怖くなる。
堪らずベッドに潜り込んで布団を被った。
「翔吾……ごめん、俺……無理だ、家であんな事やるとか……有り得ない」
飯も食わずにベッドの中に居た。
途中で眠ってしまったらしく、ドアを叩く音と耳障りな声で叩き起こされた。
「友也……！なに鍵なんか閉めてるの、開けなさいよ！」
姉ちゃんだ……。
会いたくない。
「いいだろ、ほっといてくれ！」
「晩御飯食べに来なさいって、母さんが、出て来なさいよ！」
「食いたくねー、腹が減ったらあとで適当に食うから」
「なに……？友達のとこで何かあったの……？」
「ねー！何でもねー！ひとりになりたい時だってあるだろ、いちいちうるさいんだよ、姉ちゃんは……！」
「ふうー、あ、そ……、わかった」
姉ちゃんは諦めて立ち去ったが、姉ちゃんのせいですっかり目が覚めた。
──と、電話が気になった。
着信音は元々小さくしてあるから、眠ってる間に電話がかかってきても聞こえない。
ドキドキしながらスマホを手に取って、画面を見た。
履歴が入ってた。
10数件も……。
開くのが怖かったが、恐る恐る履歴をチェックしてみたら、翔吾とテツ……両方の履歴が入っていた。
テツはいいとしても、翔吾は学校で顔を合わせる。
「どうしよう……」
きっと怒ってる。
このまま学校に行ったら、恐ろしく気まずいに決まってる。
顔を合わせた時に、どんな顔をしたらいいのか分からない。
それなら、今電話をして正直に話した方がいいんじゃないか……。
そう思ったが、迷った。
迷ったまま、月曜の朝を迎えてしまったが、ろくに眠れなかった。
自転車を駅に置きっぱなしにしていた為、早めに家を出て駅まで歩いて行ったが、自転車に乗って学校を目指して漕ぎ始めたら……ずっしりと気持ちが重くなってきた。
こんなにビクビクしながら登校するのは初めてだ。
学校について教室に入るまで翔吾には会わなかったが、覚悟を決めて教室に行ったら、翔吾が机に向かって座ってるのが見えた。
翔吾はすぐにこっちを見たが、目を合わせないようにして自分の席についた。
カバンから教科書を出していると、後ろから足音が聞こえて来た。
「友也、帰っちゃったんだね、どうして…？何か急用が出来たとか…？」
声をかけられてビクっとしたが、翔吾は怒ってなかった。
「約束を破った事は謝る、けど、俺は…もう翔吾の家には行けない」
「なにそれ」
「学校で話すだけならいい、でも…今までみたいな個人的な付き合いは無理だ」
「友也、そんな…友達だって言ったじゃん」
悪いとは思ったが、もうあの家には行きたくない。
「翔吾の事を嫌いになったわけじゃなくて、俺、見たんだ、翔吾が行った後で……広間で留守番係の奴が下っ端とやってるのを」
「そっか、あいつらがやってるのを見たんだ」
「そう…、あんなの……怖すぎるだろ」
「そうだよね、そんなの見たら逃げ出すのが普通だ、でも…あいつらが友也に危害を加える事はない、僕も友也の気持ちは分かってる、友也をそっち側に引きずり込もうだとか、そんな事は考えてない、それでも駄目……？」
「ごめん……」
「そっか……、僕はああいうのを小さい時から目にしてきたからね、2歳の時に母さんが死んで、親父は子分を世話係として僕に付けたけど、はっきり言って……自分が手をつけたお気に入りの相手、僕は親父がそういう事をしてるのを見た事もある」
翔吾の家ではありがちな事らしいが、俺には相当異常な事に思える。
「翔吾は……そういうの見て……ビビらないわけ……？」
「初めて見た時はまだ3歳位だったし、何をやってるのかわからなかった、3歳じゃ、ショックだとか…そんな感情湧いてこないよ」
「そうなんだ、そりゃ……初めからそういう家なら……、なんか気の毒には思う、思うけど、俺はかなりショックだった」
「そっかー学校だけか……、じゃあ、もう付き合えない？」
「ごめん……」
──謝るしかなかった。
翔吾の事をゲイだとか、そんな風に差別するつもりは無いって、そう思ったし、今でも差別意識はない……つもりだ。
だけど実際にあんなのを目にしたら、これ以上関わるのはヤバいように思えてくる。
手なんか繋いで……結局俺はいい奴を演じただけの偽善者だった。
最低な奴だと、自分でそう思う。
翔吾のせいじゃないのも分かってる。
それでも無理だと思うのは、あれをなんでもない事のように言う翔吾は……、俺とは感覚が違い過ぎるように感じるからだ。
「うん、分かった」
翔吾は俺を責める事はなく、すんなり頷いた。
その後で、俺が置き去りにした誕生日プレゼントを親父さんに渡したと言った。
親父さんは物凄く喜んで食事にでも連れて行ってやると、そう言ったらしいが、翔吾は俺の気持ちを理解してくれてるので、そういうのは要らないと断ってくれたようだ。
親父さんにも、何となく申し訳なく思ったが、重苦しい気持ちを引きずったまま、翔吾に別れを告げた。
学校では話をすると言ったが、翔吾はそれ以来、ぷっつりと話しかけて来なくなり、俺も敢えて話しかける事はしなかった。
［*前へ］
[戻る]
[小説ﾅﾋﾞ|小説大賞]
無料HPエムペ！
携帯モード]
[
URL送信]
