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BL長編変態ヤクザな話snatch(完結)
Snatch39bond
◇◇◇

テツが撃たれて8日目の朝、火野さんから寺島に連絡が入った。
夜、病院に立ち寄るとの事だ。
火野さんは親父さんと一緒に見舞いに来た後、テツの意識が回復した事を報告したら、その夜に訪れていた。
電話の途中で、寺島を通して何か必要な物がないか聞いてきたが、寺島が揃えてくれるから特にはなかった。



ベッドの周りには椅子が5つも置いてある。
テツが復活した後から、霧島組の人達がちょくちょく見舞いにくるようになった。
ゴザや布団は、朝起きたら隣の物置部屋に放り込んでるからいいが、その都度椅子を持って来なきゃならなくなり、出したり戻したりするのが面倒になっていつの間にか5つに増えていた。


昼食を済ませ、寺島と並んでベッドの脇に座ると、テツは不満げに天井を睨みつけている。
入院生活が長引くと、覇気が失われていくようだったが、命が助かったんだから、その位は我慢しなきゃ仕方がない。


……と、不意に誰かがドアをノックした。

「どうぞ、入ってください」

また見舞いだと思っていると、寺島がドアに向かって入るように声をかけた。

やって来た人は、無言でドアを開けて入ってきたが、振り返ってその姿を見た瞬間……全身が凍りついた。

───竜治だ。

「これはこれは……浮島さんとこの兄貴、わざわざ見舞いに?」

寺島はすっと立ち上がり、牽制するように言って竜治の前に歩いて行った。

「ああ、ま、そんなとこだ」

竜治は軽く流し、寺島を避けて俺とテツの方へやって来た。
調べてやって来たとしか思えないが、何故こんな大胆な真似をするのかわからず、激しく動揺した。

「竜治……おめぇとはそんな仲じゃねぇよな?てめぇやっぱり」

「まあ待ちな、矢吹、おめぇはなにか勘違いをしてるようだ、俺が三上と付き合ってたからか?」

「ああ、そうだ」

「確かに、奴と関わっちゃいたが、だからといって、俺は奴みてぇに気に入ったもんを痛めつけるような真似はしねぇ」

「ってこたぁ、あいつに友也を紹介されたんだな?」

テツは起き上がり、竜治を睨みつけて聞いた。

「ああ」

竜治は落ち着き払った様子で、三上に紹介された事を認めた。

「ちっ!よくもぬけぬけと面ぁ出せるな!あぁ"?ゴラァ!」

テツはカッとなってベッドから降りようとしたが、俺は固まったまま動けず、寺島が慌てて止めた。

「兄貴!動いちゃだめです!」

「相変わらず威勢がいいな、俺は話をつけにきた、殴り合いをするつもりはねぇ、今回の件……、聞いたぜ、災難だったな、しかし無事で良かった、命あっての物種だからな」

「ふん……、で、話とはなんだ、言っとくが、友也は渡さねーぞ」

「正直に話そう、腹を割ってな、俺が友也と知り合ったのは……三上から買ったからだ」

「くっ…!」

「ほんの遊びのつもりだった、だが……気に入っちまった、初めて会った後、俺は三上がお前への腹いせに……友也にひでぇ真似をするんじゃねぇかと、心配になってきた、そしたら案の定……奴は友也を乱交パーティに参加させようとしてた、俺はやめろと言ったが、三上は聞く耳持たねぇ、それでひとまず……俺が再び買った、但し、2度目は……友也から事情を聞き出して三上と手を切らせる為だ、友也はなかなか話さなかった、それに……俺にそんな事をして貰うわけにゃいかねぇと、そう言った、だから俺は……俺と付き合う事を条件に出して、友也の口を割らせた」

「って事ぁ、おめぇは友也を……」

竜治は全てを話し、テツは真実を知ってしまったが、急にさっきまでの勢いを無くしていた。
どうやら竜治に対する誤解は解けたようだが、わざわざやって来てそんな事をバラすという事は、竜治は俺との事を本気で考えているようだ。

「そういうこった、奴と付き合ってると言っても、三上とは表面上の繋がりに過ぎねぇ、むしろ付き合ってる分、おめぇよりゃネタを持ってる、奴を脅して手をひかせた、友也はおめぇを庇ってひたすら耐えていた、たかだか18のガキが……、健気じゃねぇか、泣かせるぜ、俺が……そんな友也を気に入らねぇ筈がねぇ」

「そうか……、助けて貰った事は……礼を言う、だが、友也は渡さねー」

「どうしてもダメか?」

「ああ」

「矢吹おめぇ、おやっさんと若頭に奪われたんだろ?だったら構わねぇ筈だ、俺はおめぇとは違って、おめぇんとこの親父にとやかく言われる筋合いはねぇ、もしケチをつけるとすりゃ、それこそうちの親父と話をする羽目になる、いくらなんでもそんな恥さらしな真似はできねー筈だ」

俺は組同士のいざこざになる事を危惧していたが、ちょっと違っていたようだ。

「あの……」

だとしても、もう迷わない。

「ん、なんだ」

「親父さんは……テツとの事を許してくれると思います、お見舞いに来た時にそう言ってたので…」

「親父が?なにか言ったのか」

「ああ、うん……、矢吹に会いに……屋敷に来いって」

「そう……なのか?親父……」

「翔吾は驚いて親父さんのあとを追いかけてったけど、親父さんが認めてくれたら……、翔吾はもう口出し出来ない」

「な、友也、そりゃわかるが、認めただなんだと、そんなくだらねー事ぁ捨てちまいな、どうせまたゴタゴタに巻き込まれるぜ、俺が面倒みてやる、俺んとこに来い」

確かに翔吾がすんなり納得するとは思えず、再びゴタゴタする可能性は高いが、それも覚悟の上だ。

「あの……あなたには感謝してます、けど、俺はテツが死ぬかもって思った時、テツがいなきゃ冗談抜きでヤバイって……そう思った、だから俺はこの先……テツに従います」

「友也……おめぇそんなに」

「すみません!」

だから、ただ謝るしかない。

「へっ、わりぃな、こいつは俺にぞっこんなんだよ」

「……ったくよー、これじゃ、間抜けもいいとこじゃねぇか」

「竜治、おめぇの顔を潰すわけにゃいかねぇ、友也を助けてくれたんだ、おめぇにゃ礼をやる」

「なんだ」

「まだ新顔だが、おめぇの好きそうな奴がひとりいる、そいつを差し出す、その代わり友也から手を引け」

「身代わりか……」

「ま、そういう事になる、年は20歳、名は金城颯、アイドル崩れの天然だ、見た目は悪くねぇ、どうだ、会ってみる気はねぇか?多分新品だ、好きなように調教できるぜ」

「テツ……いいのか?」

「ああ、竜治がどういう奴かよく分かったからな、ぞんざいに扱うわけじゃねぇんだ、かまやしねぇ、で、どうする?」

テツは竜治の顔を立てる為と礼を兼ねて、俺の身代わりにイブキを差し出すつもりらしい。

「分かった、ひとまずいっぺん会わせろ」

竜治はテツの出した条件を呑んだ。

「交渉成立だ、約束は守れよ」

「ああ、分かった、ま、そいつのこたぁ一旦置いといて、どのみち友也からは手をひく、どうのこうの言っても…おめぇが1番らしいからな」

「あの…、竜治さん」

イブキの事は引っかかるが、これで竜治と会えなくなると思ったら、一抹の寂しさがよぎった。

「なんだ」

一夜の宿どころか、辛かった時の拠り所になってくれた。

「美味しい物を沢山ご馳走してくれた事、温泉に連れて行ってくれた事、いつもメールをくれて……凄く励まされました、ありがとう……って、そんな言葉だけじゃすまない事はわかってます、でも、今まで……、本当にありがとうございました!」

目の前に行って深々と頭を下げた。

「よせよ、そんな事されたら未練が残っちまう、おめぇは本当に可愛い奴だな、矢吹……大事にしてやれよ」

「ああ」

「それじゃ友也、元気でやれよ、もし矢吹がおめぇを捨てたら、いつでも連絡しろ」

「おい」

「はははっ、冗談だ、それじゃあな」

竜治は冗談とも本気ともつかない事を言って、俺の肩をポンポンと軽く2度叩いて部屋から出て行った。



「寺島、おめぇからイブキに伝えろ」

ヘナヘナと力が抜けて椅子に座ったら、テツはベッドに横になって寺島に命じた。

「俺がですか?けど……その……どういや」

「『浮島組の兄さんがおめぇに話があるらしい、会って来い』と、そう言え」

「え……、それだと、イブキ、びびるんじゃねぇですか?」

「大丈夫だ、あいつなら喜んで行くだろう、ちょいと感覚がズレてるからな」

「ああ……まぁ……、そうっすね、けど……木下の兄貴はそのー……、いくらあいつがぬけてるからって、なんか騙してるようで気がひけます」

「ふっ……、あいつがいた事務所の社長はバイだ」

「えっ、じゃあ……」

「イブキを連れてきたのは親父だ、親父は社長と懇意にしてる、いつだったか……親父はイブキとその社長について色々と話してたが……、それはあくまでも親父が言った事で……、俺はただ小耳に挟んだだけだ、だからよー、俺はイブキの事なんざ知らねぇ、そいつはほんとの事だ」

「そうっすかー、だったら安心だ……、けど兄貴も……なかなかやりますね」

「ああいう時は嘘も方便、竜治は表向きさらっと流してたが、奴があの手の美形好きなのは百も承知だ、新品だといや、ぜってぇ食いつく」

「いやあー、勉強になります」


俺はイブキに悪いと思って、黙って2人の話を聞いていたが……イブキが新品じゃないと分かり、密かに胸を撫で下ろしていた。





夜になって火野さんがやって来たが、ケーキを見舞いに持ってきてくれた。

「お前な……、顔に釣り合わねぇもん出すな」

「疲れをとるにゃあめぇもんがいいと思ったんで、友也、あとで食いな」

「はい、ありがとうございます」

「で、どうなんだ、姉ちゃんとは上手くいってるのか?」

「婚約指輪を渡しました」

「なにぃ?友也、おめぇ知ってたのか」

「ああ、うん…」

「ったくよー、姉ちゃんにゃ俺が先に目ぇつけてたんだ、それをまんまとてめぇのものにしやがって…」

「兄貴、そんな事言ったら、また友也を木下の兄貴に奪われちまいますぜ」

「分かってるよ……、ま、めでてぇ話だ、よかったじゃねぇか、これを逃したらあとはねぇからな、いい女だ、大事にしてやれ」

「ええ、分かってます、いっぺん失敗してますから……、あんときゃ俺もまだ若かった、で、ついカッとなったり……そんな事もありましたが、あれから俺も年を食った、それにこんだけ年が離れてりゃ、なんというか……腹が立たねぇ」

「まあー、前の嫁は……俺はちらっと見ただけだが、はっきり言って……、ありゃアバズレだ、とはいえ、カタギと付き合いてぇと思ったとこで……俺らのような稼業じゃまず無理だからな、どうしても水商売の女になる、失敗したのはおめぇのせいじゃねぇよ、おめぇはヤクザにしちゃ堅物だから退屈したんだろう、けど姉ちゃんは違う、おめぇが無茶をやらかさねぇ限り、上手くやれるだろう」

「はい、正直いや、俺は舞さんと出会う前は……いつやめても構わねーと、そんな風に思ってました、けど、もう腹を括りました、これからは……舞さんという大切な物を守らなきゃならねぇ、だからこれまで以上に気合を入れてやってくつもりです」

「くうーーーっ、くせぇ!泣かせるほどくせぇ!なのに……おめぇなら頷ける、よかったな火野」

「へい、ありがとうございます」



姉貴の事で話が盛り上がって、幸せムードでいっぱいだが、こんだけ話がまとまってしまったら……無理にでも姉貴にうんと言わさなきゃ……もう後に引けなくなった。

───重圧感半端ねぇ。






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