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BL長編変態ヤクザな話snatch(完結)
Snatch32tempted
◇◇◇

───竜治に会う為に家を出た。

いつもテツが迎えに来ていた場所に、竜治の車が止まっている。

「あの……どうも…」

「おう、ほら、早く乗れ」

挨拶して車に乗ったら、竜治は直ぐに車を出したが、どこへ行くつもりなのか……聞く気にならなかった。

「さーて、どうしたもんか……、飯は?」

「食べたくないので……」

「ふう、そうか……、矢吹にフラレて……そんなにショックか?」

「別にそんなんじゃ…」

「バレバレだぞ、いいじゃねーか、たかが18で意地を張るこたぁねー、認めちまいな、俺はおめぇより17も年上だ、おめぇが泣き言をいって泣いたとしても……、そんなもん、なんとも思わねーよ、聞いてやると言っただろ?」

「はい……、俺……今まで色々あったけど、テツがいたから耐えられた、だけど……、もうどうでもいい」

「投げやりになっちまったか、でもよー、若頭はおめぇを離しちゃくれねぇだろ、おやっさんと一緒じゃたちが悪いな、今日はおやっさん留守だったが、居る時はおめぇ……おやっさんとも寝る事になるぜ、無茶苦茶だな、矢吹も馬鹿じゃねー、勝ち目がねーと分かって、自分なりにケジメをつけたんだろう」

「それはわかってます、でも……それでも良かった、構わねぇ、テツと繋がっていられるなら、それで良かったのに……、テツの前で翔吾に抱かれ……それであんな事をいきなり言うとか、ひでぇ……最低だ!」

「おめぇ、矢吹の前でやられたのか?」

「はい……」

「そりゃあ…また、随分酷な真似をしたもんだな、あの若頭、女みてぇな面ぁしてガタイもひょろひょろな癖に……、意外だな、ま、おやっさんの血をひいてるからな」

「俺は翔吾と友達をやめるつもりはない、だから……あくまでも友達のつもりで付き合います……、それ以外ん時は自分を殺します、こっから先、どうなろうが……そんなもん、知りません」

「友也、ちょっと待て、こっち向け」

「……はい」

「そいつは俺が許さねー、自暴自棄になるな、確かにつれぇだろうが、頭を冷やして考えろ、そもそも矢吹はおめぇを無理矢理やっちまったんだぜ、あいつは遊び慣れてる、で、おめぇを上手くものにしたんだろうが、おめぇにはおめぇの生き様がある、夢中になってそこら辺を一緒くたにするな、若い時はつまらねーものについ夢中になるが、楽しい事も……つれぇ事も、ほんの一瞬だ、あっという間に年食って、昔の事を笑って語れるようになる、おめぇはまだまだこれからだ」

「そうなんでしょうか……」

「ああ、そうだ、俺が矢吹の代わりに力になってやる、現に俺は……おめぇとおめぇの姉ちゃんを助けたんだぜ、へへー、こんなに心強ぇ奴ぁ他にはいねぇだろ?」

竜治は恩を着せるような事を言ったが、それは冗談めかして言った事だとわかる。
言葉尻で悪戯っぽくニヤリと笑うのを見たら、重苦しい気持ちが少し楽になった。

「飯、食ってねんだろ?」

「はい」

「食え、肉だ、肉を食え」

すると、竜治は突如肉を食えと言い出した。

「え…、肉ですか?」

「おう、そうだ、肉を食や力がわいてくる」

しかも、テツと同じ事を言った。

「あ……」

「それでいいな?」

「あの、はい…」

たまたまだと思ったが、なんだか妙に嬉しくなって……首を縦に振っていた。

連れて行ってくれたのは、前にテツが連れて行ってくれた店と似たような店だった。
完全個室で色んな肉料理が食べられる店だ。

竜治は食事は済ませたと言ったが、俺に付き合って軽めに食事をした。


店を出たら『明日学校が休みなら、このまま泊まらないか?』と言う。
もちろんラブホだ。
無理強いしてきたわけじゃないが、今家に帰っても、また気分が落ち込みそうな気がした。

OKして家に電話を入れたら、母さんが電話に出た。
友達んちに泊まると言ったら『舞も今日はお友達の家に泊まるって行ってたけど、あんたまで、まったくー、揃いも揃って……』と文句を言っていたが、どうやら姉貴は火野さんのマンションに泊まるらしい。

一方、俺は竜治と……。

複雑怪奇な気持ちになったが、姉貴の事はこの際考えないようにした。

そう言えばテツが、『おめぇと一晩中朝まで一緒に過ごしてぇ』と……確かそんな事を言っていたが、結局、それは叶わなかった。





いざラブホに入ったら、ふと竜治の事が気になってきた。

奥さんや子供は……家に帰らなくていいんだろうか……。

「今日はゆっくり出来るな」

だが、竜治は腕を背もたれにかけてどっかりとソファーに座り、タバコに火をつけて笑顔で話しかけてくる。
ガキの俺が口を挟むような事じゃないように思えた。

「はい…」

「こっちに座れ」

呼ばれて竜治の隣に座ったら、肩を抱いてきた。

「タバコはいらねぇ」

竜治はタバコを灰皿で揉み消して、俺の肩を抱いたまま片手でネクタイを緩め、器用に外して首から引き抜いた。

「ふう、へへっ……、おめぇとこうして過ごしたかったんだ」

ぐいっと引き寄せられ、倒れ込むように胸板に寄りかかったら、竜治は手で頭の後ろを押えつけ、横顔に唇を当ててくる。

「う………」

擽ったくて小さな声が漏れた。

「いいな、おめぇ……わりかしキリッとした眉をしてるだろ、その眉が歪むのが……妙にそそる、美形といやそうだが、男らしさを残した美形だ」

「そんなんじゃ……ないです、翔吾の方が……美形だと思う」

「ああ、確かに美形だが、若頭は柔和な顔立ちだ、おめぇはなかなか根性座ったとこがあるが、そういうのが顔に出てる」

竜治は耳や首にキスしながら俺の事を褒めたが、肌を撫で回す唇と髭のチクチクした感触はヤバイ。

「あ、あの……、シャワー浴びてきます」

早くも腰から背中の辺りがぞくぞくし始め、照れ臭さが入り交じって堪らなくなった。

「一緒に行こう、ここで脱いじまおう」

竜治は一緒に行くと言って潔く服を脱ぎ捨て、俺も裸になって脱いだ服をソファーへ置いた。

「タトゥーはどうだ、治ったか?後ろに向いてみろ」

「はい」

「もう大丈夫だな、こんなもんを刻みつけといて、女と付き合えっていうのはあれだな……、ま、消そうとおもや消す事は出来るが」

タトゥーを見たいと言うから、後ろに向いて尻を見せたが、消す事が出来るのはなんとなく知っている。

「あの、やり方は知りませんが、そういうのが出来るのは知ってます」

「そうか、やり方はレーザーを使ったり、切り取ったりするんだが、どのみち傷跡が残るな」

「そうですか…」

「とりてぇか?」

「い、いえ……今のところは」

「そのネックレスをつけて行ったのか?」

消したいかと聞かれて動揺したが、そういえば……またネックレスの事を忘れていた。

「はい…、あの、外します」

「いいじゃねーか、つけときゃいい、そいつはいい代物だ、手切れ金代わりだとおもや割り切れる」

竜治はつけたままで構わないと言ったが、『手切れ金』という言葉が胸にグサッときた。

「よし、行くぞ」

目を伏せていたら肩を抱かれ、そのまま浴室へ向かった。


竜治は先に浴室に入り、俺はトイレで体の中を綺麗にした後で浴室に行ったが、中に入ると、竜治は浴槽に湯を溜めながらシャワーを浴びていた。

「おう、来たか、こっちへ来な、洗ってやる」

手招きされて傍へ行ったら、竜治は俺の体に湯を浴びせてきたが、いつも洗って貰ってばかりでは悪い。
ざっと洗って貰い、きりのいいところで声をかけた。

「あの、背中流します」

「ん、そうか?へへっ、じゃやってくれ」

竜治は口元を緩めて椅子に座ったが、ラブホ定番のあの椅子だ。
洗う物がないから、外からフェイスタオルを1枚持ってきた。
浴槽の湯が溢れそうになっていたので湯を止め、タオルを泡立てて竜治の背後にしゃがみ込んだ。

迫力のある毘沙門天を目の前で見たら、泡をつけていいものか戸惑ったが、思い切って肩の辺りからタオルを当てていった。
ゴシゴシと背中を洗っていくと、刺青は白い泡に覆われていき、竜治は機嫌良さそうにひとりで喋っていた。

「へへっ、下っ端に洗わせるよりは100倍もいい、いや、それ以上だ」

俺は丁寧に肩から腕、腋の下へタオルを当てて一通り擦り、泡だらけになったところで終了した。

「あのー背中は終わりましたが、これでいいですか?」

「へへー、まだだ」

確かめるように聞いたら、竜治は後ろに手を回して手首を掴んできた。

「わっ…」

いきなり掴まれてびっくりしたが、竜治は俺の手を下腹に当てがった。

「前も洗え、タオルじゃなく、両手を使って洗うんだ」

「はい」

床に膝をついて背後から両手を回したら、割れた腹筋が手のひらに触れた。

「体も使え、おめぇは知らねーだろうが、ソープの阿波踊り、あれに近いか?へへっ、体を擦り付けろ、ナニも使うんだぞ」

竜治は俺にソープ嬢の真似事をやらせたいらしいが……実は知っていたりする。
朱莉とは本格的にやったわけじゃないが、なんとなくわかる。
手のひらで体を擦りながら、体を竜治の背中に擦り付けていったが、厚みのある逞しい体をヌルヌルやるのは……妙に興奮する。
チンコを使えと言われていたから、チンコを背中に押し当てて擦った。
色とりどりの肌を摩擦するうちに気分が昂ってきた。

「おめぇのはカチカチだな、こいつもだ」

竜治は俺の手を掴んでナニを握らせ、シリコン入りの竿が手の中でビクンと脈打った。
それに応えるように俺のが跳ね、衝動的に乳首を摘み上げた。

「ここ……、いいですか?」

「ははっ、ああ構わねぇ、続けな」

一応確認したら、竜治はあっさり承諾した。
片手で凹凸のある竿を扱きながら、乳首を指先で弄ったが、満更でもなさそうに身を任せている。
竿に飽き足らず、大きな玉をやわやわと撫で回していたら、竜治は俺の手を掴んで中断させた。

「よし、そのくらいで一旦しまいだ」

シャワーでさっと体を洗い流した後、一緒に湯船に浸かった。

「ほら、きな」

「あ…」

「遠慮するな、抱いてやる」

後ろ向きに抱かれ、子供が抱っこされるような体勢で座らされた。

「なんか……子供みたいで…恥ずかしいです」

「俺はな、ガキの扱いにゃ慣れてるんだ」

「あっ……」

「気持ちよくしてやる」

竜治は手を前に回してチンコを掴み、ゆるゆると扱き始めた。

「うっ……」

首を下からねっとりと舐め上げられ、頭がぼーっと逆上せてきた。
ケツの割れ目に竜治の竿がはまり込み、割れ目をグリグリ擦りあげている。

「あ……、ハァ、ハァ…」

「初めての相手に夢中になるのはわかるが、俺も悪くはねーだろ?」

ドスのきいた声が脳幹まで響き、音響が起爆剤となってイキそうになった。

「っ…、イク、あっ……!」

突き抜けるような快感が走り、目が眩んで体が硬直したが、竜治は最後まで絞り出すように手を動かしてくる。

「全部出しな」

「お湯……、汚して……」

「な事気にするな、そら、今度はこっちだ」

力が抜けて竜治に背中を預けたら、抱きかかえられてくるっと前に向かされ、足を開いて太い腰を挟み込んだ。

「次は……俺を気持ちよくさせてくれ」

焦れたように言って顔を傾け、貪るように唇を吸ってきた。
肩を抱いたら、大きな手で尻臀をぎゅっと掴んでくる。

「ふっ……!」

息と一緒に鼻から声が漏れ、顔がかーっと熱くなった。
竜治の竿が下腹に当たって揺れ動き、コツンコツンぶつかっている。
たまらなくなって竿を握ったら、竜治はキスをやめて耳元に顔を寄せてきた。

「このまま入れるぞ」

「じゃあ……、ローション……とってきます」

また気絶するかもしれないが、既に歯止めがきかなくなっていた。

「その必要はねー、ここにある」

すると竜治は背中の方へ手をやり、浴槽の中からローションを取り出した。

「え……いつの間に」

「へへっ、準備がいいだろう?ほら、外だ」

唖然としたが、悪戯っぽく笑って湯から出るように促す。

壁に両手をついて尻を突き出したら、竜治はしゃがみ込んで大胆に尻臀を開いた。

「あっ……」

「スケベな尻だ」

だが、触れてきたのはローションではなく、ヌルッとした温かな感触だ。
すぐに舌だと分かったが、肉厚な舌がヌルっとアナルを舐め、体がビクンと震えた。

「襞がひくついてるぜ、入れて欲しいか?」

「ハァ、あっ……あの」

欲しかったが、言えなかった。

「恥ずかしいか、じゃ言わせてやる」

竜治はアナルにローションを垂らし、指先を挿し込んできた。

「あ、う、くっ……」

襞の内側は敏感な箇所だ。
そこを摩擦されたら、前立腺がじわりと疼き出す。

「こいつが欲しいだろ?」

昂る体を持て余し、壁に指を立てて息を吐き出したら、亀頭がアナルに触れてきた。

「っ……」

期待して身構えたが、竜治は意地悪く先っぽだけ出し入れする。

「どうだ、耐えられねーだろう、さあ、言ってみな」

ぬちゃぬちゃと音を立てて出し入れされたら、我慢できなくなった。

「い、入れて……欲しい」

「よーし、言ったな、気ぃ失うなよ」

竜治はぐっと深く押し入れ、焦らされたせいで強い快感を感じた。

「はぐっ……!あうっ……!」

「ゆっくり突いてやる…、今日は時間があるからな」

体中が震えて意識が散漫になっていったが、竜治は止まったまま乳首を摘み上げてくる。

「うくっ、ふっ、ハァハァ」

「ヤラシイ汁いっぱい垂らしやがって」

いった後のドライイキ……あの状態に陥っていた。

「ハァハァ、あ、ああ、また……、おかしく……なる」

腹の中から淫らな快感が湧き出し、半勃ちのチンコがダラダラと淫液を垂らす。

「おい……、そんなに締めたらいっちまうだろ、仕方ねーな、そろそろ種付けしてやるか」

竜治は両側から腰を掴み、竿を往復させ始めた。

「んくっ…!あっ、あっ、あっ……」

けれど、ゆっくりとした一定のリズムで突いてくる。
シリコンが前立腺に当たる度に電気が走り、膝がガクガク震えたが、意識を持っていかれる事はなかった。

「よし、イクぞ」

そのままぐっと奥を突いて止まり、怒張した竿が脈打つのを感じた。

「あ……あ……」

精液が飛び散って腹の中が満たされていく。

「おっと、……危ねー」

膝がガクンと折れ曲がって倒れそうになったが、竜治に抱きとめられて床に倒れずに済んだ。




1回目を終えた後、軽くシャワーを浴びてローブを羽織り、部屋に戻った。

「来な」

「はい」

一緒にベッドに寝転んだら、竜治は腕枕をしてくれた。

「気ぃ失わずに、なんとかもったな」

「初めてです、俺、シリコン弱いみたいで…」

「あははっ、そうか……、ん?という事は矢吹も入れてるのか?」

「いえ、親父さんが……」

「おお、そういや昔ハワイでクルージングした時に、背中に生首入ってるのを見たな、へえ、ナニもシリコン入りか、ちなみに……どんなやつだ?」

「リングです」

「おお、リングか、ありゃ効くぞ、おめぇ気絶したのか?」

「はい」

「はははっ、そうか、まあーけど、さっきは上手くいった、進歩だな、気ぃ失わせるのも悪くはねーが、後がつまらねー」


テレビをつけてのんびりと過ごした。
AVではなく、普通の映画だ。
よく分からないが、古い映画で西部劇だった。

ガンマンが銃を打っ放すのを漠然と見ていたら、未練がましく、テツとこんな風に過ごしたかった……と、そんな言葉が勝手に頭の中に浮かんできた。

内ポケットからイチジク浣腸を颯爽と取り出したり、いかがわしい物を携帯し、わざとピンポンを押して喜び、食わせてやると言って無理矢理弁当を食べさせ、裸エプロンをやろうと言ったり……。

直ぐに忘れるには強烈過ぎる。


昼間あんな事があって疲れていたせいか、テレビを見ているうちに眠ってしまい、寝ながら抱かれた。
朧気な意識の中でうつ伏せにされ、押し入ってくるイチモツに呻き声を漏らしたが、背中に被さる重みを感じるうちに嬌声をあげていた。

「眠ってりゃいいぞ、勝手にやる」

「む、無理です……」

勝手にやると言われても無理な話だが、竜治は1回目と同じように一定のリズムで突いてくる。

「へへっ、じゃ、耳だ」

「わっ……あ」

お陰で気を失う事はなかったが、ヌメる舌を耳の穴に突っ込まれたら堪らない。
逃げようとしたら、頭を押さえられてもっと舐められた。

「あうっ、も……、か……勘弁っ、ハァハァ」



結局、浴室で1回、ベッドで夜中に3回、寝起きに1回と計5回交わり、午前中の9時頃にホテルを出た。



朝だし、その辺でも構わないだろうという事で、目についたカフェに立ち寄って朝食をとる事になった。

俺はパンケーキにミックスジュース、竜治はサンドイッチに珈琲だ。

「疲れたか?」

「いえ、大丈夫です」

正直言うと疲れていたが、なんとなく悪いような気がして取り繕った。

「そうか、ま、今日はゆっくり休め」

「はい」

「またこんな風に会えるか?」

「あ……、多分」

もしテツなら即座に頷いていたが、何故か戸惑っていた。

「そうか、じきに夏休みだろ?」

「はい、あと1週間したら休みに入ります」

「なら、またそん時に一泊できるな」

「はい」

「よし、決まりだ、楽しみだな」

泊まりで会う約束をしたら、竜治はニヤリと笑った。


「ん、友也……?」

黙々とパンケーキを口に運んでいると、聞き覚えのある声がして背筋が凍りついた。

───姉貴だ。

よりによって同じカフェに来なくても……。
冷や汗もので声がした方をチラッと見たら、姉貴がこっちに歩いてきたが、火野さんも一緒にいる。

「あっ、あの時はありがとうございました」

姉貴は竜治に気づいて頭を下げたが、俺はパンケーキにフォークを突き刺して…フリーズしていた。

「大した事じゃねー、気にするな」

「あ、はい、本当に助かりました」

竜治が手短に言うと、姉貴はもう一度竜治に向かって頭を下げたが、その後で俺を見た。

───嫌な緊張感に包まれた。

何か言われると思って覚悟していたが、竜治に遠慮しているのか、姉貴はなにも言ってこない。

気まずい空気が漂ったが、俺は前を見据えて動けなかった。

「こんなとこで朝飯か?」

「おお、ま、そんなとこだ」

すると火野さんが竜治に話しかけ、竜治は何食わぬ顔で答えたが、俺は2人のやり取りを見ながら……姉貴の刺すような視線を感じていた。

「友也、徹夜で手伝いか?」

───と、火野さんが俺に聞いてきた。

どうやら俺の状況を察して、助け舟を出してくれるらしい。

「はい、そうです」

藁にもすがる思いではっきりと答えた。

「そうか、そいつはたんまりバイト代貰わなきゃな、はははっ、じゃ木下また、ああ…挨拶はいらねぇからな」

火野さんは冗談を言ってお茶を濁し、間を置かずに竜治へ言った。

「おう、またな」

竜治が返事を返すのを見て、なんとか誤魔化せたと思って顔を上げたら、姉貴が疑うような目で俺を見ている。

「舞さん、こっちだ」

「あっ…、はい」

慌てて目を逸らしたが、火野さんが姉貴を呼んで離れた席へ連れて行った。


「姉ちゃんとはよく会うな」

「あ…、まぁ…」

「ま、火野が上手く言ってくれるだろう」

「はい…」


竜治は慰めるような事を言ってくれたが、あの感じは……絶対に疑ってる。
家で顔を会わせた時に姉貴がどう出るか、あとは火野さんにかかっている。



◇◇◇

俺は姉貴より先に帰宅したが、姉貴は帰って来なかった。

寝不足気味で眠くて堪らず、ベッドに入って寝た。

電話の音で目が覚め、寝惚けたまま電話に出たら火野さんからだった。
姉貴は昼から仕事だったらしく、仕事場に送って行ったと言う。

取り敢えずホッとした。

『そうですか…』

『まあー、舞さんには上手く言っておいた、疑われる事はないだろう、それよりおめぇ……、木下と泊まったのか?』

『はい…』

『俺は……、木下との事は認めちゃいるが、本当の事をいや、おめぇを金で買った木下が、おめぇとあんまり親しくするのは賛成できねー、ただな、おめぇの事や舞さんの件がある、だから認めたんだ』

『はい…』

『矢吹の兄貴はどうした、若や親父の事は知ってるが、だからと言って切れたわけじゃねーよな?』

『テツの方から別れを告げてきました』

『兄貴がハッキリいったのか?』

『はい、だから俺は竜治さんの誘いに乗ったんです』

『そうなのか?兄貴がおめぇに別れを……、そいつは変だな』

『もういいんです、俺、割り切っていきますから』

『ちょっと待ちな、兄貴は理由もなく突き放すような男じゃねー、きっとなにかわけがある』

『いつも気にかけてくれて…、ありがたく思ってます、でも俺は大丈夫です、姉貴の事を引き続き宜しく御願いします』

『友也、待て、木下に深入りするな』

『深入りするつもりはないです、ただ、断わる理由も無い、それだけです』



火野さんは竜治の事をよく思ってないようだ。
堅物の火野さんなら、当たり前と言えば当たり前の事かもしれないが、あれは成り行きで仕方がない事だ。
竜治が2度目に俺を買わなければ、俺は三上に痛い目に合わされるところだった。

それに、火野さんには話しづらい事でも、竜治には話せる。


翔吾からは何の連絡もなかったが、日が暮れかけた頃に竜治から電話がかかってきた。
姉貴の事を聞いてきたが、火野さんが上手く誤魔化してくれたと伝えた。

30分ほどたわいもない話をして電話を切ったが、その後で……テツから貰ったネックレスを首から外した。






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