BL長編変態ヤクザな話snatch(完結)
3
◇◇◇
テツが姉貴の事を口にして、暫く経ったある夜、姉貴が部屋にやって来た。
「ノック位しろよ」
「別にいいでしょ、それとも…見られたらマズい事でもしてるのかなー？」
「変な事言うなよ…、なんの用だ、用がないなら出てけ」
姉ちゃんはウザい……。
「あんた、学校帰りに何処に行ってるの？昨日怪しげな男の人と一緒にいるの見たんだけど？何してたの？あれはヤバい人に見えた、あんた、まさか…そういう人達と仲良くしてるんじゃないわよね？」
一瞬ドキッとした。
昨日、テツに手伝ってくれと言われて、スーパーに買い出しに行った。
見られたとしたら、買った物を車に積み込んでた時だ。
駐車場が通り沿いにあるから、間違いない。
買い出しは通常下っ端が行くらしいが、明日翔吾の親父さんの誕生日らしく、誕生日会をするようだ。
下っ端には任せられないという事で俺が付き合わされたが、姉ちゃんが言ってるのは、多分その時の事だ。
「気のせいだ、見間違いじゃね……？」
「えー、そうかなー、脇にあった車、黒いアルファード？あれはヤクザとか、ヤバい人がよく乗ってない？だけど…あれって、スーパーで買い物？ね、どういう事……？」
翔吾の事は明かさない方がいい。
姉ちゃんは口が軽い上に意地悪だ。
組長の息子と仲良くしてるとか、そんな事を言ったら……嬉々として父さんと母さんに言う。
で、二人揃って『そんな危ない人達には関わるな！』って、絶対そうなる。
「知らねー、スーパーなんか行くわけねーし」
「えー、でも…、あんたにそっくりだったけどなー」
「どうせ車ん中で彼氏とイチャついてたんだろ？頭がボーッとなって、勘違いしたんだよ」
「イチャついてるって…」
「かっこいいんだろ？アイドルに似てるんだっけ？」
「そりゃあ、まぁー」
「ま、勝手にやってくれ、俺は勉強するから」
「勉強？」
「そ、だから、姉ちゃんのノロケに付き合ってる暇はない」
「へえ、珍しいな、ふむ、まぁ、いっか…」
──ふうー。
姉ちゃんは諦めて部屋から出て行ったが、冷や汗かいた。
これからは気を付けないと、マズいな。
姉貴は今年短大を卒業して、ペットショップで働いてる。
そういえば、ショップは木曜日が店休日だった。
休みで彼氏とドライブデートしてたらしい。
◇◇◇
翌日、今日は学校が休みだ。
翔吾から電話がかかってきて、昼から遊びに行く事になった。
そしたら、食事とか必要な物は用意するから、たまには泊まりにこないかと言う。
だけど、夜に親父さんの誕生祝いをすると言ってたし、なんとなく気が引ける。
もし同席するような事になったら、100％緊張しっぱなしになる。
翔吾には悪いが、折角の休みに窮屈な思いをするのはごめんだ。
やんわりと断ったが、翔吾は俺の気持ちを見抜いてたらしく、親父さんの誕生祝いは組の者が数名集まるし、俺は顔を出す必要はないと言う。
考えてみたら組の人達が祝うのは当たり前の事で、自分が関わる事はなさそうだ。
──それなら行ってもいいか。
母さんには、以前仲良くしてた友達の名を言っとけば、いちいち確認する事はないだろう。
2年まで親しくしてた友達は、みな大学受験で忙しい。
ぷっつりと縁が切れてしまった。
早速母さんに電話をして泊まりに行く事を伝えたら、あっさりオーケーした。
家から学校まで、自転車をダラダラこいで一時間半はかかるから、翔吾の家までだと2時間はかかる。
それに、祝いに参加しなくてもプレゼント位は一応用意した方がいい。
早めに家を出て、プレゼントを買いに行こうと思った。
黒のパンツとロングTシャツを適当に重ね着して、伸びすぎた髪にざっとクシを通したら準備完了。
いざ部屋を出ようとしたら、電話がかかってきた。
テツからだ。
教えろとうるさいから、仕方なく電話番号を教えた。
すると、俺が泊まりに行く事を翔吾から聞いたらしく、今から迎えに行ってやると言う。
正直言うと──有難い。
母さんと姉貴は仕事で留守にしているが、近所の人に見られるのはマズい。
ここは新興住宅地だから近所付き合いはないし、人気も少ないが、万が一という事がある。
一番近い駅前に自転車を止めて、そこで乗せて貰う事にした。
車なら時間はかからないから、のんびり出ても良かったんだけど、プレゼントを探さなきゃならない。
テツなら親父さんの事をよく知ってるし、一緒に選んで貰うと助かる。
やっぱり早めに家を出る事にした。
駅まで自転車で20分位。
自転車置き場に自転車を止めて振り返ったら、駐車場の横に黒いレクサスが止まっている。
──この車は、あの時脱輪してた車だ。
すぐにテツだとわかった。
「わざわざ悪いな…」
車に走り寄って遠慮がちに言ったら、テツが窓を開けて言った。
「おう、乗れ」
助手席に乗ったら、テツは即車を出そうとしたが、言わなきゃならない事がある。
「ちょっと待って、頼みたい事があるんだけど…」
「なんだ？」
「俺は誕生日会には参加しないけど、プレゼントくらい買って行こうと思って」
「お前が親父に？」
「変かな？」
「そんな事ねー、そりゃあ、親父は喜ぶぞ」
「で、今から買いに行きたいんだけど、何がいいか迷ってて、ほら、食べ物は却下だろ、酒だっていいやつ飲んでるだろうし、服とかも無理だ、テツなら親父さんの事よく知ってると思ったんだけど…」
「おおそうか、わかった、そうだな……、それじゃ日常使う物がいいんじゃないか？」
「使う物？」
「ああ、輸入雑貨なんかどうだ？洒落たやつがあるぞ、で、予算は？いくらだ？」
「5万」
「5万？そいつはまた、ガキの癖にやけに羽振りがいいな、ん………あっ！ひょっとしてその金は…俺が渡したやつか？」
「そう…」
「そうか、ま、5万も使うこたぁねー、1万以内でいいだろう」
5万は脱輪を手助けした時に、テツに無理矢理握らされた金だ。
勿論、母さんや姉ちゃんには内緒にしてる。
俺はバイトもしてないし、小遣いなんかすぐ使うから、金なんかあるわけがない…。
その後テツは、輸入雑貨の店に連れて行ってくれた。
こじんまりとした店だけど、ヨーロッパの輸入雑貨が沢山並べてあった。
ただ、1万円以内だと限られてくる。
予算内だと置物ばっかしだったが、ドイツ製の髭剃りが目にとまった。
シルバーの格好いいデザインで、値段もギリギリ1万円以内におさまる。
──それに決めた。
プレゼントを買ったら、翔吾の家に向かったが、その途中で寺島が乗ってきた。
俺は降りて後ろに行こうとしたが、テツは構わないと言うので、そのまま助手席に座っていた。
寺島とは脱輪の件があった後は顔を合わせる事がない。
テツは寺島と何か話していたが、俺にはよく分からない話だった。
しのぎという言葉は知っているが、多分その話だと思う。
なんだかヤバいような気がして、窓の外を眺めて意識を逸らしていた。
翔吾の家に着いたら、住み込みの若い奴が出迎えた。
最近わかったのだが、年はみな15、6才、中卒でここにやって来たらしい。
住み込みは修業みたいなもので、家事をこなしながら、礼儀作法やこの世界のしきたりなどを学ぶようだ。
「兄貴、おかえりなさいやし」
「おう、用意は進んでるか？」
「はい」
「後で見に行く、寺島、お前も若に挨拶しろ」
「わかりました」
テツが若い奴と寺島に話をした後、2人と共に翔吾の部屋に行った。
「若、今日は俺も兄貴についてきました、ご無沙汰して申し訳ありません」
部屋に入ったら、寺島が真っ先に翔吾に挨拶をした。
「寺島、僕に気を使わなくていいから」
「え、そうっすか？じゃ俺はこれで……」
「バカ！」
「イテ……！兄貴ぃ、何も殴らなくても」
「テツ、いいって、僕はヤクザなんかやらないもん、寺島、空いてる座敷でのんびりしてたらいいよ」
「そっすか〜、それじゃあお言葉に甘えて、邪魔しました」
俺は翔吾の傍に立って3人のやり取りを見ていたが、寺島はどこか間が抜けてるように思えた。
「おい……」
「いいってテツ」
「あっ……、若、俺もちょいと外します」
「ん、ああ、どーぞ」
「友也、また後でな」
「あ、ああ……」
寺島が出て行ったらテツも出て行ったが、出て行く前に俺に声を掛けた。
きっとまたふざけるつもりだ……。
格闘技が好きで、直ぐにプロレスや柔道の技をかけようとするから、本当に迷惑だ。
翔吾には手を出せない分、俺で発散しようとしてる。
──絶対そうだ。
しかし、テツと寺島が居なくなって、急に静かになった。
「座って」
「ああ……」
「ん、その紙袋は？何か用意してきたの？」
促されて翔吾の向かい側に歩いて行ったが、翔吾は手にした紙袋に目をとめた。
「あ……いや、これは親父さんに……と思って」
「もしかしてプレゼント？」
「うん、まあ」
「そんな気を使わなくていいのに」
翔吾は申し訳なさそうに目を伏せる。
「いつも翔吾んちにお邪魔してるし、その位当然の事だろ？」
「そんな、こんな所に来てくれて、僕の方が悪いよ」
「まぁいいじゃん、そんな大した物じゃないから、ほんの気持ち、翔吾の親父さんだしな」
「うん、ありがとう友也」
誕生日会をするっていう日にお邪魔して、プレゼント位用意するのは当たり前だと思うが、自分を卑下して申し訳なさそうに言われたら、つくづく気の毒なように思えた。
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