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brat(ヤクザ物、ショタ、純愛、中編)BL、完結
その9
◆◆◆

裕之がやらかしたせいで、心配事が増えた。

なのに裕之の奴、話をしたら『若頭に会えるんだ』って、めちゃくちゃ喜んだ。

「はあー、気が重い」

「カシラもなに考えてるのか、本当にただ会うだけっすかね、わざわざ時間とるわけだし……」

今日は田西と事務所巡りだ。
車に乗り込んだら、田西はハンドルを握って言ってきた。

「約束はした」

「そうっすか……、あの、俺も一緒じゃ駄目っすかね?」

そりゃ田西が一緒の方が心強い。

「カシラに言ってみるわ」

「そうっすか? はい、お願いします、俺も心配なんで」

カシラがOKするかわからないが、兎に角、言ってみる事にした。


それから、次の事務所へ行った。
ここは前に裕之がやってきた事務所だ。

「あ、兄貴、ご苦労さんっす、あのー、兄貴に来客が……」

ドアを開けて中に入ると、事務所番が出迎えたが、いきなり怪しげな事を言った。

「ん?」

まさかと思ってソファーを見てみたら、いた! 振り向いてにっこりと微笑んでやがる。

「コラァー、裕之、お前な……」

づかづかと歩いて行って隣に座った。

「えへへ、あ、田西さんも、こんにちはー」

呑気に田西に挨拶をしたが、お前のせいでどんだけ心労がかかってるか。

「こら、お前、組に入るのは駄目だって言ったじゃねーか、おお、そういや、まだ誰か聞いてねー、部屋住みの知り合いはなんて名だ?」

「はい、っとー、松本雅美です」

「松本……、ああ、いたな、地味な奴だ」

やることはちゃんとやるが、やたら影の薄い奴で、居るのかいねぇのか分からねー。

「友達の兄ちゃんだったよな?」

「はい」

今更グチグチ言っても後の祭りだ。

「あいつに頼んでカシラに言ったのか、あのな、カシラに会っても……あんまし近くに寄るな」

それよりも、注意しといた方がいいだろう。

「どうしてですか?」

裕之は無垢に聞いてきたが……。

「いや……、それはその……やっぱりよ、若頭っつったらやべぇからな」

そこは言えるわけがねぇ。

「あ、そっかー、偉い人だし、あんまり近づいちゃ駄目なんですね?」

都合よく解釈してくれた。

「お、おお……そうだ」

そういう事にしておこう。

「ぷっ……」

田西が横へ向いて笑いを堪えてやがる。
俺は真剣なんだ。
だったらお前が代わりに言えってツッコミたいが、裕之の前じゃ話せねー。

「わかりました、気をつけます」

「ああ」

不安は消えねーが、一応言っときゃ少しは安心だ。

「葛西さん、腕を借りていいですか?」

と、いきなり聞いてきたが……。

「あぁ? なんだ」

腕って……なんの事かわからねー。

「こうです」

裕之は両手で腕に絡みついてきた。

「あ……」

頭を俺の腕にぴとっとくっつけている。

「ぷぷっ……」

「くっ……」

田西と事務所番が、同じタイミングでくるっと向こうへ向いたが、間違いなく笑ってやがる。
自分でも笑える話だが、俺はこんな風にされた事がない。
過去に付き合った女は、こういう事をするタイプじゃなかった。
全部姉御肌でキツい女ばっかしだったし、裕之にこんな事をされたら……恥ずかしくて顔が熱くなってくる。

「裕之、お前……なにしてんだよ、赤ん坊じゃあるめぇし、ひとりで座れ」

「だって、兄さんでしょ?」

「お、おう……」

「たまには兄さんに甘えたい」

「あ……、兄さんか、そうか……」

それを言われたら、拒否れねー。

「ぷぷっ……」

「や、やべぇ……」

背中を向ける2人は、声を殺して笑っているが、事務所番まで笑うとは……けしからん。

「おい、事務所番、お前……気が利かねぇ奴だな、さっさと茶でも入れて来い」

「は、はい……すみません、すぐ用意します」

注意したら頭を下げてすっ飛んで行ったが、もうひとりまだ笑ってる奴がいる。

そういう事なら……考えがある。

「おい田西、こっちに来な、裕之の隣に座れ」

「は、はい」

「裕之、兄さんはもう一人いるよな? 俺だけじゃ不公平だ、田西にもやってやれ」

「わかりましたー」

裕之は満面の笑みで田西にぴとっとくっついた。

「なはは……、裕之、今度は俺か?」

「はい、兄さんなんで」

「そうか……、へへっ、悪くねー」

くそ……田西の奴、喜んでやがる。

ま、別にかまわねーが、何気なく時計を見たらちょうど午後2時だ。

「裕之、学校は試験か?」

ちょっと気になった。

「はい、ほら、電話で話したじゃないですか」

「そうか? おお……」

カシラの事で頭がいっぱいだったせいで、まともに聞いてなかった。

「田西さん」

「ん?」

「若頭と会ったら、何を話せばいいんですか?」

裕之も、やっぱり少しは緊張するんだろう。

「向こうがなにか聞いてくるだろ、返事をしてりゃいい」

田西が言った通りだが、俺はカシラがなにかするんじゃないか、それが一番気になっている。
もう後悔するのは嫌だ。
小学生を抱いた後の、あの後味の悪さ……ありゃ最悪だった。
ガキがハイになって淫売のように振る舞う。
裕之にそれと似通った真似をさせるのは、何としてでも阻止しなければならない。

「どうも、遅くなりやした」

事務所番がジュースと菓子を持ってきた。

「おう裕之、食え」

「はい」

裕之に菓子をすすめたら、皿からひとつ取って包みを開ける。

「なあ裕之、お前、あめぇもん好きか?」

それを見て田西が聞いた。

「はい、好きです」

「じゃあよ、帰りがけになんか買ってやるわ、ケーキとかよ」

なにかと思や、そんな事を考えてやがった。

「えっ、ほんとに?」

「ああ、兄さんなら当然だろ」

「やった、嬉しい! ありがとう兄さん」

裕之はすげー喜んでまた田西にくっついた。
何故かイラッときた。

「おい田西、俺がいるんだからな」

「はい、すみません……」

「裕之、俺が買ってやる」

「あ、ほんとに?」

「ああ」

「へへっ、鯉の兄さん、ありがとう」

「あ、鯉って……、そうか、はははっ」

「裕之、よかったな、兄貴の刺青、気に入ったか?」

田西はもう余計な事は言わず、墨について質問する。

「はい、超かっけー、あの時、タトゥー入れた人がいたけど、葛西さんのは本物です」

「おー、わかってるじゃねーか、最近はああいうタトゥーを入れる奴が増えたが、本来の刺青っていうのとはちょっと違う、タトゥーは気軽に遊び感覚で入れるが、和彫りってやつはカタギから離れてヤクザとして生きていく、その意気込みを示してる」

「へえ、そうなんだ、意気込みか……なんかすげー、俺も墨入れたい」

感心するのはいいが、また馬鹿な事を言う。

「お前はな、ピカチューにしろ」

裕之にはぴったしだ。

「えー、やだよ、葛西さんみたいなカッコイイのがいい」

「じゃ、バイキンマンだ」

「もー、酷い、俺はガキじゃねーもん」

不満げに言ったが、ほっぺたを膨らませて不貞腐れる面は、ガキそのものだ。

「あははっ、ピカチューか、兄貴、でも俺、ネットで見ました、ピカチュー」

田西は笑ったが、ピカチューを入れた奴がガチでいるらしい。

「ほんとに入れてるのか?」

「マジっす、いい大人でしたよ、あんなの入れて……どうなんすかね? パッと見た時に『えっ?』って2度見しますよねー」

「だな、なんなんだろうな、自分とこのガキの為とかか? よくわかんねーが、俺もネットなら見た事あるぜ」

ピカチューは見た事ねーが、他ならある。

「あ、どんなのっすか?」

「失敗作だ、おたふくみてぇな面ぁした毘沙門天に、七三分けの般若、ありゃ最悪だな、彫り師をケチって安い奴にやらせたのか、下手くそにも程がある」

「そうっすか、転写してなぞるから……転写の時点で既に駄目って事っすかね、しかし、それならクレームつけるか、やめると思うんすけど」

「だよな、ま、彫り師は腕が確かな奴を選ばねーと、そう簡単にゃ消せねーからな、おたふく面の毘沙門天じゃ、ご利益もあてにはならねぇな」


俺と田西は墨の話題で盛り上がったが、裕之は菓子をボリボリ食ってジュースを飲みながら、目をキョロキョロさせて俺達を見ていた。







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