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brat(ヤクザ物、ショタ、純愛、中編)BL、完結
その7
◆◆◆

裕之との約束に、田西が参戦する事になった。

俺と田西はいつも通りにシノギや付き合いをこなしたが、それから数日経った夕方、裕之から電話がかかってきた。
で、次の土曜日の午前中、3人で会う事になった。

田西の運転で裕之を迎えに行ったが、土曜日だから学校は休みだ。

家の前にやってきたら、裕之はパステルカラーのパーカーを着ていた。
まん丸い面ぁしやがって、小学生でも十分通用しそうだ。

「おお、乗れ」

窓から顔を出して、後ろに乗るように言った。

「はい、あのー、葛西さんも後ろに来てください、俺、ひとりじゃ寂しいです」

裕之はまたわがままを言う。

「お前な、ガキかよ……」

「兄貴、ひとりじゃつまんねーっすよ、隣に乗ってやったらどうっすか? ほら、兄さんなら構わねーでしょう」

けど、田西が乗るようにオススメしてきた。

「お、おお、そりゃまあー、しょうがねーな」

兄さんって言葉にゃ弱い。
一旦降りて裕之と一緒に後ろに乗った。

「えへへっ、兄さん」

「よせよ……」

そんな事を言われて、照れ臭くなる自分が恥ずかしい。

「田西さんも兄さんだし、俺、幸せだー」

裕之はめちゃくちゃ嬉しそうだが、俺は同調できねー。

「あのな……、俺らは善意でやったわけじゃねー、金を回収する為だ」

頼むから美化するのはやめて欲しい。

「分かってる、それでもいい、俺さ、韮組に入る」

ところが、とんでもない事を言い出した。

「はあ? お前、なに言ってる」

「そしたら、2人と会えるし」

そんな安易な事で……それこそガキの考えだ。

「あのよー、そう簡単じゃねー、シノギを稼ぐのは大変なんだぞ、今は法律がうるせぇからな、表向きまっとうな商売をしなきゃ稼げねー、それか……詐欺、賭博、薬……、悪い事をした方が稼げる、だから他所は大抵やってる、うちは細々とやってるからよ、そう甘かねー、それに、シマを荒らす奴がいたら喧嘩だ、ぶん殴って場合によっちゃ手酷くヤキを入れる」

普通の会社とさほど変わらねぇって、そう思ってるんだろう。

「でも、最近はインテリヤクザって言うし」

やっぱりそうだ。

「ああ、そりゃ小難しい事を処理する為に学のある奴を使う組もある、ただな、そうは言っても、それはそれだ、サラリーマンみてぇに、毎日事務所に通って事務仕事……ってわけにゃいかねぇ、学のある奴はそれ用の駒に過ぎねぇ、切った張ったの諍いは……減ったわけじゃなく、目立たねぇとこでやるようになっただけだ、だからよ、暴力団ってのは確かにあたってる、殴ったり殴られたり、そんな事ぁ嫌だろ?」

「俺、頑張ります」

「はあ? なにを頑張るんだ」

「空手か柔道、格闘技を習います」

「いや、あのなー」

はーあ……、なんだか力が抜けてきた。

「はははっ、よかったっすねー、これで人員確保っす」

田西が冗談っぽく笑って言った。

「馬鹿、駄目だろうが」

冗談でも認めちゃ駄目だ。

「俺、本気です」

案の定、やる気になっている。

「あー、わかったわかった、とにかくな、勉強しろ」

「はい、じゃあ、俺、駒でかまわない、インテリヤクザを目指します」

「駄目だ、いーか? そんな事は忘れちまえ、わかったな?」

ちょっとキツめに睨みつけて言った。

「はい」

裕之はやけにすんなり返事をしたが、なんとなく不安になる。

とは言え、今はそれよりも……どこに行くか決めてねー。

「で、目的もなく走っても意味ねーだろ、田西、どこに行く、なんかいい所を言ってみろ」

「そーっすね、んじゃ、裕之、お前はどこに行きてぇ」

結局、裕之頼りかよ……。

「そうですねー、じゃあスーパー銭湯」

「あー、あの御家族連れ御用達なアレか? 爺さん婆さんが行って、芝居とか見るんだよな?」

「そうです」

「そりゃ駄目だ」

「あ、やっぱり嫌ですか?」

「いや、俺は墨が入ってる、あの手の施設は入れねー」

俺は上半身に墨を入れている。

「えっ、墨って……刺青ですか?」

「ああ」

「すげー、本格的だ」

ビビるかと思ったら、目をキラキラさせてやがる。

「本格的って……」

「えー、見てみたいな」

「お前、怖くねーのか?」

「怖いけど……、見たい」

「怖いもの見たさかよ」

「だけど、お風呂はだめなんだ」

「あのな、墨入りでも入れる銭湯ならあるが、ま、昔ながらの銭湯だからよ、ガキが行ってもつまんねーだろ」

モンモン御用達な古臭い銭湯だ。

「あ、そうなんだ、いえ、行きたいっす」

「いーのか?」

「はい、かまいません」

「おい田西、銭湯だとよ」

「はい、羅生門っすね、じゃ、そっちに向かいます」

「やった、うわー、楽しみ」

裕之はバカみたいに喜んでるが、最近のガキはこんな感じなのか?
それとも、裕之が変わってるのか……。


兎に角、最近はめっきり行かなくなった羅生門へ行く事になった。


古めかしい銭湯だ。
番台には婆さんが座ってる。
田西が金を払って中に入った。

「うっわー、レトロ」

裕之は広間を見回して言った。

「だから言ったじゃねーか、古くせぇんだよ」

「いいえ、いいです、凄い珍しい」

嫌なのかと思ったら、逆だったらしい。
ま、だったらいいんだが。

「裕之、スリッパに履きかえろ」

「あ、スリッパなんですね、へえ」

スリッパに履きかえる事すら珍しいようだが……。
でー、次はロッカーだ。

「兄貴、これタオルっす」

田西が番台でバスタオルとフェイスタオルを貰ってきたが……裕之は広間でマッサージチェアを弄っている。

「おお、……こら裕之、こっちに来な」

「はい、すみません」

呼んだら走ってやってきた。

「ロッカーで服を脱ぐんだ」

「あ、はい」

裕之はキョロキョロしっぱなしだが、現代っ子には見慣れぬ光景らしい。

ロッカーに着いたら服を脱いでいった。
スーツを脱いでネクタイを外し、下も全部脱いでいったが、裕之の手前もある。
一応腰にタオルを巻いた方がいいだろう。
俺は特に何も言わなかったが、田西も腰にタオルを巻いた。

「っとー、よいしょっと、へへっ、できた、お揃い……」

裕之は俺らの真似をして腰にタオルを巻き、得意げな顔で俺の方へ向いたが、急にフリーズして固まった。
やっぱりじかに見ちまったら、びびったんだろう。

「へっ、やっぱり怖ぇか?」

墨は胸割りで背中には鯉が描かれている。

「あ……、す、凄い……迫力ある」

裕之は目をまあるくして墨をじっと見る。

「兄貴、行きますか」

田西が言ってきた。

「おお、裕之、こっちだ、ロッカーの鍵は手にはめて持ってな」

「はい……」

浴場に行くように促したら、神妙な面をして頷いた。
やっぱり普通のガキだ。
妙な安心感を覚えながら、俺らが先に立って浴場に向かった。

「うっわー、背中は鯉だ」

すると、裕之が俺の後ろで声を張り上げる。

「どうだ、びびったか? しょうべんちびりそうだろ」

いくらなんでも、ガチの刺青を見りゃびびるだろう。

「あの、物凄く綺麗です」

「えっ」

ありゃ?

「俺、感動しました、本物の刺青を生で見られるなんて……」

どうやら、びびってるわけじゃなかったようだ。

「そうか、いやまあー、褒められるのは悪い気はしねぇ」

拍子抜けしたが、刺青を気に入ったって言うなら……地味に嬉しい。

「はい! 葛西さん、やっぱり凄いです」

なにも凄かねーと思うんだが、裕之は俺を見上げて興奮気味に言う。

「ははっ、兄貴、背中でも流して貰ったらどうっすか?」

田西は面白がってるようだが、またオススメしてきた。

「そりゃまあー」

「はい! やります! 背中流します!」

裕之はめちゃくちゃやる気になっている。
やっぱり変わったガキだと思ったが、こういうとこが……可愛いと思っちまう。


浴場に入ると、洗い場に数人墨入りの奴らがいたが、どっかの下っ端らしく、俺らを見て頭をさげてきた。
そいつらは墨と言ってもタトゥーだ。

俺達はそいつらから離れた所で体を洗っていったが、椅子に座ったら背後に裕之がやってきた。

「背中、洗います」

「おう……」

洗ってくれるというなら、任せよう。

裕之はタオルにボディソープをつけてゴシゴシ洗い始めた。

「すげー、マジですげー、俺、直接触ってるし……」

小声でブツブツ呟いてるが、感動しながら洗ってるようだ。

「ははっ、よっぽど珍しいんだな、な、裕之、兄貴が終わったら俺もやってくれるか?」

田西は自分もやって欲しいらしい。

「はい、勿論です」

裕之は嬉々として返事をする。

ま、たまにはこういうのもいい。

俺は下っ端の時に兄貴の背中を流したが、裕之は弟分じゃなく弟だ。
そう思ったら、自分でも笑える位……まったりとした気分になれる。

「おおっ! お前ら、こんなとこでなにしてる」

だが、突然後ろから嫌ーな声がした。

「なんだ、お前も来たのか」

振り向けば、厳ついガタイをした刈谷が立っている。

「おお、たまにゃ入りてぇ、つーか裕之まで同伴して、この野郎、こんなとこで楽しみやがって」

刈谷はまた勝手な妄想をしているようだが、こいつの頭にはそれしかねーらしい。

「ただ風呂に入ってるだけだ」

「嘘つけ、田西まで一緒じゃねーの、お前ら2人して、悪い奴らだな」

くだらねー事ばっかし言うが、それよりもナニが目障りだ。

「お前な、腰にタオルくらい巻け」

俺らの目の前で堂々と晒してやがる。

「タオルだと? なもんいらねーよ」

そこに自信があるんだろうが、裕之がチラチラ見ている。

「裕之、へへー、どうだ、なかなか立派だろ?」

刈谷は自慢げに言って裕之に見せつける。

「やめねーか、そんなもんを青少年に見せつけるな、害をもたらす、立派なのはわかった、はやいとこ洗うなりなんなりしろ」

歪な形状をしているのはシリコンのせいだが、ガキにそんなもんを見せて自慢するって事は、ガチの変態だとよーくわかった。

「んだよ、俺のナニは害をもたらすのか?」

「ああ」

ナニをひっくるめて、要注意人物だ。

「わかったよー、じゃ、体を洗うとするか」

ようやく向こうへ行った……と思ったら、蛇口2つ分あけたわりと近い所に座りやがった。

体を洗いながら裕之の方をチラチラ見ている。
はやいとこ湯に浸かった方がよさそうだ。

「裕之、俺はもういい、田西の背中を洗ってやりな」

「はい」

裕之に言ったら、田西の方へ行って背中をゴシゴシし始めた。

「いいなー、マジで可愛らしいガキだ」

刈谷は羨んでいるが、絶対よからぬ事を考えている。

「なあ裕之、お前の同級生で誰か紹介しろ、女じゃねー男の子だ」

思った通り、馬鹿な事を裕之に言ってきた。

「あ、っと……」

裕之は困っている。

「おい刈谷、そういうのは無しだ」

身を乗り出して釘を刺した。

「いいじゃねーかよ、ちょっとくらい」

ったく、しつこ過ぎだ。

「あのー、いる事はいますが……」

もう一回言ってやろうと思ったら、裕之が余計な事を言っちまった。

「おー、いるのか、どんなガキだ? お前みてぇな感じか?」

「いいえ、太ってます」

「太ってる? ちょっと位ぽっちゃりしてるのも悪くねー」

「おい、よせって……」

本当に紹介したら厄介だ。

「体重100キロありますが……」

けど、裕之がボソッと言った。

「ぷっ!」

思わず噴いた……。

「100キロー? そりゃ将来相撲取りじゃねーか、さすがに厳しいな、他にはいねぇのか、もうちょいまともなガキだ」

「すみません、ヤクザ屋さんが好きって言うのは、その子くらいしか……」

「そうか、じゃあよ、誰かいたら、そこの2人に伝えてくれ」

「はい、わかりました」

100キロのお陰でひとまず納得したようだが、刈谷の奴、本気で中学生をたらし込むつもりだ。

ちょうど田西も洗い終わった。

「裕之、もういい、湯に浸かろう、こっちに来な」

「はい」

シャワーでざっと体を流し、裕之にも湯を浴びせてやった。

「ほら、お前も洗え」

「はい、えへへっ」

背中を擦ってやったら、喜んでいる。

「くそー、イチャイチャしやがって」

刈谷はぶつくさ言ったが、相手にしない方がいい。
裕之は自分で洗うと言うので、シャワーヘッドを渡した。
洗い終わるのを待って3人で湯に浸かった。

「気持ちいー、絵が描いてある」

裕之は気持ちよさそうに腕を動かして、壁面のタイル絵を眺めている。
描かれているのは赤富士山だ。
富士山に浮世絵風の街道、ちょんまげを結った人々、お伊勢さんも描いてある。

「珍しいだろ?」

「はい、こういう銭湯って、ネットで見た事ありますが、来たのは初めてです」

「そうか、じゃあ、いい体験になったな」

「はい」

「ははっ、いまどきの子供には逆に新鮮なんすね」

田西が言ったが、確かにそうだ。
俺らからすりゃ古くせぇ物も、裕之から見れば目新しい。

古い物を捨てるだけが能じゃねー。
見方を変えりゃ、ただ古臭いって思った物も、良さってやつがある事に気づく。
たまたまとは言え、裕之を連れて来てよかった。

俺もこの銭湯を見直した。







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