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brat(ヤクザ物、ショタ、純愛、中編)BL、完結
その6
◆◆◆

後日、遊園地の件は、社長にきっちり伝わっていた。

俺は『申し訳ねー』と謝ったが、社長は『子供同士の事だ、気にするな、何事も経験がものを言う、うちの子は我儘に育ててしまったもんで、たまには挫折を味わう方がいいんだよ、物事は自分が思うように運ばない、それを身をもって体験したんだ、それはそれで有意義な事だ』そんな風に言ってくれた。

社長ができた人でよかった。

人員派遣の方は、田西が首が回らなくなった奴らを説得し、5人現場へ送る事になっている。
親父は待遇について気にしていた。
カヨちゃんの事があるだけに、非常に切り出しにくかったが、聞かなきゃならない。
その辺を確認した。
社長は『ああ、昔みたいなタコ部屋はやらねぇ、食事は3食出す、風呂やトイレも完備してる』と、そう言った。

安心して、『宜しくお願いします』と言って電話を終えた。

すると、すぐに電話がかかってきた。

画面を見たら、四七築組の刈谷だ。
一体なんの用かと思いながら電話に出た。

『おう、俺だ』

『葛西、おめぇ、遊園地でメリーゴーランドに乗っただろ』

なにかと思えば、いきなりメリーゴーランド。

『えっ……』

どうしてそれを知ってるんだ?

『あのな、目を隠してあるが、髪型や服装からおめぇに間違いねーと思ってよ』

『ありゃ、社長に頼まれてガキのもりをしたんだ、つーか、何故知ってる』

『SNSだよ、Facebookに写真が上がってたんだ、タイトルはよー、(珍百景、ヤクザがメリーゴーランド)だったぜ』

『Facebook……』

あの時の野次馬がSNSにあげやがった。

『暇つぶしにざっと流し見してたら、ヤクザってのが目に入った、で、見てみたら、どっかで見た雰囲気だ、おめぇに間違いねーと思ってよ、やっぱりガチだったんだな、っはは! 事務所で見てたんだが、皆大爆笑だ、めちゃくちゃウケたぜ、つかメリーゴーランド……なははっ!』

刈谷はゲラゲラ大笑いしやがったが、知るか……。
笑いたきゃ笑え。

『しっかしよ、よく平然とあげるよな、もしバレたらって思わねーのか?』

『今どきの奴は話題になりゃなんでもやるからな』

馬鹿なYouTuberとか、あんなのがうじゃうじゃ湧いてる。

『おお、そういや、ガキのもりと言ったが、そっちはがっつりぼかしがかかっててよ、はっきり見えねぇんだ』

『へー、そうなのか』

あの2人はいかにも未成年だし、ガキを晒すのはマズいとでも思ったのか?

『そりゃあれだろ、裕之じゃねーのか?』

『ああ』

『2人いたな』

『そこら辺は話したくねー』

刈谷とは特に親しくもねーし、プライベートな事は話せねぇ。

『ふーん、社長ってあの土建屋か?』

『ああ、そうだ』

『ま、深くは聞かねーが、じゃあよ、おめぇ、あの裕之とよろしくやってるんだよな? 前に話したが、誰かいねぇか?』

まだ言ってやがる。

『いねぇよ、悪い事は言わねー、やめとけ』

俺はほんとは何もしちゃいねぇが、刈谷はがちでガキに手ぇ出すつもりだ。
つまらねー真似はやめた方がいい。

『ったく、ケチだな、自分だけいい思いしやがって』

『いい思いなんかしてねぇ、俺はそっちを目的に会ってるわけじゃねーからな』

『じゃあなにか? ただ会って話をしてるだけだっていうのか? そんな馬鹿な』

あんまりしつけーから、ちょっとだけ教えてやる。

『俺はな、あいつの兄貴になったんだ』

『はあ? なに言ってる』

『裕之は兄弟がいねぇ、だから兄貴になった』

『なんだそりゃ、じゃ、おめぇ……兄ちゃんやってるっていうのか?』

『そうだ』

『いや、兄貴って……、歳が離れすぎだろ』

刈谷も年の事を言う。

『いいだろ、年の離れた兄弟だっている、裕之は可愛い弟だ』

あいつは生意気でムカつくガキだが、尻尾を振って懐く者を無下にはできねー。

『マジか? つーか……おめぇ、メリーゴーランドに乗るわ……、可愛い弟? な、大丈夫か? 薬やってるんじゃねーよな?』

刈谷には信じられないようだ。

『うちは薬はご法度だ、誰がやるか』

『えぇ、じゃ本気で言ってるのか?』

『あのな、もういいだろ、切るぞ』

『あ"ー、ちょい待て、紹介しろ』

『まだ言ってるのか、いねぇ、じゃ、またな』

話しても無駄だったらしい。
面倒だから電話を切った。

「今の……刈谷さんっすか? あ、これ、ここに置いときますね」

今日は事務所に来ているが、田西が珈琲を持ってやってきた。

「ああ、あいつ、しつけーんだよ」

デスクに置かれたマグカップをとって、口に運びながら言った。

「裕之っすか……、紹介しろって言ってるんですね?」

「そうなんだ、無理だって言ってるのによ」

「本当の事を話したら、刈谷さん、裕之に目ぇつけるでしょうし、適当にはぐらかすしかないっすね」

「だな、はあー、めんどくせぇ、つか……ショタコンって、変態じゃねーの」

「ははっ、ま、そうっすね、だけど兄貴、俺……思うんすけど、裕之は兄貴に惚れてるんじゃ?」

「はあ? 馬鹿な事を言うな、あれだ、兄さんだ」

「そうっすかねー、多分……一番最初にニコニコ金融にきた時、裕之は相当びびってたと思います」

「あれがか? 俺に対してハキハキものを言ってたぜ」

「ええ、ただ、勘が働いたんじゃねーかと、兄貴と一言二言言葉を交わしてみて、『この人は大丈夫な人だ』って、あれっすよ、動物的な勘」

「動物って……、ただ嘗められてるだけじゃねーか、はあーあ、ガキに嘗められるようじゃ、俺も落ちたものだな」

「いや、嘗めてるんじゃなくて、大丈夫な人だと思って好感を持った、ほら、俺らみたいな稼業はやたらオラついてるイメージあるっしょ? それが『こんな怖そうな人が意外と優しい』って思った、で、リースバックの件を恩に思って……完全に惚れちまった」

適当に聞き流そうと思っていたが、田西の話は妙に合点がいく。
とは言っても……。

「いや、ちょい待て……、俺は刈谷みてぇなショタコンじゃねーからな」

誤解されたら困る。

「はははっ、ええ、わかってます、ただ、裕之はそう思ってるんじゃねーかと、単にそう思っただけっす、いいじゃないっすか、裕之は俺のファンにもなるって言った、俺は素直に可愛いと思う、通常、そこらのカタギに関わる事はねーが、たまにはそういうのもありっすよ」

「そうだな……」

珈琲を啜りながら答えたが、田西の話を聞いたら、変に意識してしまう。
俺はあいつを救ってやる事はできねー。
このまま兄弟ごっこを続けていいんだろうか?
まだ3年はあるが、その3年が来たら……。
もしも本当に裕之が俺に個人的な感情を抱いてるとしたら、俺はそれを叶えてやる事はできねーし、その上実家を手放す羽目になる。

たまにはカタギの気分を味わいてぇと思って、安易に承諾しちまったのは、失敗だったかもしれねぇ。

もう一度考え直した方がよさそうだ。




◇◇◇


俺は一晩中考えた。

で、やっぱりあいつには会わねぇ方がいいと思った。
話をしなきゃならねーが、学校が終わる夕方まで待つ事にした。

俺はあちこち行く所がある。
定例会に出て、どこぞに祝儀を届けに行き、別のとこにゃ見舞い金を渡しに行った。

田西が同行して一緒にあちこち回ったが、奴は俺より下だから、運転手役を兼ねる事になる。

「兄貴、どうします? おやっさんのとこに行きますか?」

ハンドルを片手で握り直して聞いてきた。

「いや、なんか食いに行こう、奢りだ」

「あ、いいんすか?」

「おお、構わねー、お前のお陰で色々と助かってる」

「そうっすか? へへっ、ありがとうございます」


バタバタしてて、まだ昼を食ってねーし、とりあえず田西と一緒に飯を食いに行く事にした。


ラーメン屋に入ってラーメンを食った。
ついでに餃子もだ。

食いながら考えた。
こいつも裕之と関わってるし、田西には俺の決意を話した方がいい。

ちょうど食い終えて箸を止めた。

「なあ田西」

「はい」

「俺は裕之の兄貴をやめようと思うんだ」

「えっ、どうしてですか?」

わかっちゃいたが、田西は驚いた。

「いや、3年たったら……あの親子は出て行かなきゃならねぇ、それに、お前が言ったように、あいつが俺に惚れてるとしたら……、俺はさすがにキツいわ、債務者から金を回収するのは慣れてるが、こりゃちょっと……良心ってやつが痛む」

「そうっすか……、いや、わかります、ほんとなら関わらねー方がいいでしょうね、けど……ちょいと気になるんすよ、刈谷さんが」

「おお、あいつか」

「ええ……、あれだけしつこく紹介しろと言ってくる位だ、兄貴が裕之から離れたら……ちょっかい出さねーか、心配になります」

そう言われたらそうだ。
確かに、刈谷がなにかやらかすかもしれねぇ。

こりゃ、参った……。

「うーん、じゃあ、どうすりゃいい」

「そうですね、難しいっすけど、やっぱり今のままを続けるしか」

「はあー、そうか……」

せっかく決心したが、刈谷が悪さをしたら困る。

現状維持しかない。

なんだか気が重くなった。

「あのー、兄貴が会うのが嫌なら……俺が代わりに行きましょうか?」

がっくりしていると、田西が意外な事を言ってきた。

「え……」

「俺もファンだって言われたし、強面な奴が好きなら、多分……俺でもいけると思います」

「お、おう……、そうだな」

今んとこは2人きりで会っちゃいねぇが、この先連絡を取り合って会う事になるだろう。
俺だけと会うよりは、田西も参加した方が、気が紛れていいかもしれない。

「じゃあ、兄貴、それを裕之に伝えといてください」

田西は張り切っている。

「おう、わかった、言っとくわ」

元から裕之に電話するつもりだったが、内容はちょいと予定変更だ。


ラーメン屋を出て親父の家に向かう事になったが、その前に裕之に電話した。

『あ、葛西さん!』

裕之は相変わらず嬉しそうだ。

『ああ、学校は終わったか?』

『はい、今帰宅中です』

『おお、自転車ならちゃんと降りて話せ、危ねーからな』

『はい、わかりました、っと……、ちょっと待ってください、自転車とめます』

『ああ』

裕之が自転車から降りて安全を確保するのを待った。

『あっ、すみません……とめました』

『そうか、あのな、実は……田西もお前の兄ちゃんになりてぇって言うんだ、いいか?』

田西はすぐわきの運転席で聞いてるが、率直に伝えた。

『あ、田西さんも……ですか?』

『嫌か?』

『いいえ、嬉しいです、じゃあ、2人兄さんができたって事ですね』

裕之は喜んだ。

『そうだな、じゃ、田西にも電話番号教えるからな』

『はい、どうぞ、へへっ、やった』

思わぬほど喜んでいる。

『ま、そういうこった、また電話するわ』

『はい、わかりました』

『んじゃ、またな』

『はい、失礼します』

電話を切ったら、田西がニヤニヤしている。

「兄貴、OKなんすね?」

「ああ、すげー喜んでた、兄さんが2人できるってな」

「おお、そうっすか、いやー、嬉しいな」

田西もめちゃくちゃ喜んでやがる。

「ま、2人で行ってもいいだろう、そうすりゃ罪悪感が減る、お前に分担されるからな」

本音ではっきりと言ってやった。

「ははっ、ええ、大丈夫っす、俺も負担しますから」

田西は笑顔でさらっと受け流す。
こいつが弟分になってよかった。
失敗ばっかしやらかす奴だと、指が危うくなるが、田西なら安泰だ。

一応片付いたので、おやっさんの屋敷に向かった。


屋敷に到着し、玄関に行ったらカシラの靴があった。

「ご苦労さんです」

部屋住みが出迎える。

「おう、カシラ……来てるのか?」

ついでに聞いたが、若頭の東堂さんは……ちょい苦手だ。

「はい、いらしてます」

「そうか……、田西、もう1回出ようか」

靴を脱がずにくるっと踵を返した。

「しかし……多分気づいてますよ、カシラはガレージをマメにチェックしてますし」

「くっ、そうか……なら仕方ない」

「兄貴……俺がいます」

「おお、そうだな……、じゃ行くか」

田西が共にいれば、ちっとはマシかもしれねー。

2人で親父の座敷に行った。

挨拶して座敷に入ると、親父のそばに東堂さんが座っている。

頭を下げて2人が座る座卓の近くに行き、少し距離をあけて座った。
田西は俺の横にいるが、親父はいいとして……東堂さんが俺をじっと見ている。
嫌ーな雰囲気がプンプン匂ってくる。

「葛西、おめぇー、この野郎、俺がいねぇ時にばっか来やがって、ちっとは顔を出さねぇか!」

思った通り頭ごなしに怒鳴りつけてきた。

「すみません、色々とゴタゴタしたもんで」

この人は毎度うるさく言うのでウンザリだ。

「言い訳か? おい、こっちにきな」

で、また始まった。

「いえ、そんなつもりは……、すみません」

こうやってゴネて……。

「うるせぇ、小一時間ほど説教してやる」

日頃の鬱憤をグチグチネチネチ、八つ当たり的にぶつけてくる。

「おい、よさねーか、葛西はな、真面目にシノギをこなしてる、こいつはよく働いてるんだ、説教なんぞ必要ねー」

おやっさんが注意してくれた。

「はい、すんません」

助かった……。

「で、田西、お前が人員派遣を担当していたが、視察は行ったか?」

親父は人員派遣の事を聞いてきた。

「いえ、まだです」

田西もそう暇じゃねーから、まだ確認はできてないようだ。

「そうか、必ず確かめておけ、あの社長が嘘をつくとは思えねーが、念の為だ」

「はい、わかりました」

「ったく、お前らふらふら遊び歩いてんじゃねーぞ」

東堂さんがぶつくさ言ったが、決して遊んでるわけじゃねー。

「すみません」

しかし、頭をさげるしかない。

「ああ、もう行っていいぞ」

おやっさんが言ってきたが、マジで助かった。

「はい、それじゃあこれで……、失礼します」

挨拶をした後、田西を引き連れて座敷を出た。


「カシラは……相変わらずっすね」

座敷から離れたところで、田西が小声で言ってきた。

「ああ……」

おやっさんは尊敬に値する人間だが、本音を言や、東堂さんみたいな人間が若頭をやってる事自体納得がいかねぇ。

組の連中も、あのカシラにはできるだけ関わらねぇようにしている。
あの人のそばにいたら、『小姑かよ』って突っ込みたくなる。
確かに叱る事は必要だと思うし、他所じゃやたら殴る奴もいるが、重箱の隅をつつくようなつまらねー事で、長々と説教をするのはやり過ぎだ。
昔、まだ俺が今より若かった頃、東堂さんは大手ゼネコン絡みでデカいシノギをとった。
どんなやり方をしたのか、その辺は謎だったが、それをきっかけに若頭に昇進した。
ちょうど若頭のポストが空いていた事もあってそうなったのだが、その後暫くして、幹部が数人組を抜けた。
東堂さんのやり方について行けなかったからだ。
お陰でこっちは幹部に繰り上がったが、俺はこの田西とつるんで、可能な限り東堂さんを避けている。
親父はそこら辺に気づいているが、無理に同席しろとは言わねー。
各自やる事をやっていればヨシというスタンスだが、親父はこれ以上人が離れる事を危惧しているんだろう。







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