brat(ヤクザ物、ショタ、純愛、中編)BL、完結
その5、メリーゴーランド(笑)
◆◆◆
俺は社長と裕之、双方に連絡をとり、俺自身の予定を急遽あけた。
人員の方は田西に任せる事にした。
社長に裕之がOKしたと言ったら、案の定喜んだ。
具体的な予定は……俺がまず娘を迎えに行き、次に裕之を迎えに行く。
それから2人を乗せて、最寄りの遊園地へ直行する。
遊園地は俺が社長に提案したのだが、ティーンエイジャーときたら遊園地だろう。
社長も二つ返事で『それで頼む』と言っていた。
◇◇◇
いよいよデート当日。
俺は約束通り、社長宅に娘を迎えに行った。
玄関に行ってドアホンを鳴らせば、社長はすぐに出てきて、満面の笑みで迎えてくれた。
「いやあー、悪いね、はははっ、これ、早いけど手間賃渡しとくよ、と、こっちはこいつらに何かと金がいるだろうからな」
早速現金の入った封筒を差し出してくる。
「はい、ありがたいっす、2人の事は任せてください」
頭を下げて封筒を2つ受け取った。
「ああ、君なら安心だ」
社長は俺を信頼してくれている。
金共々、それもまたありがたい事だが……。
それはそうと肝心の娘は？ と思って娘に目を向けると、娘は社長の後ろに隠れている。
「こらカヨ、葛西さんにボディガードをして貰うんだ、挨拶しなさい」
社長に背中を押されて俺の前に出てきた。
「は、はい……、っと……よろしくお願いします」
恥ずかしいのか、それとも怖いのか、緊張した様子で頭を下げる。
「カヨちゃん、こっちこそ宜しくな」
「あ、は、はい……」
声をかけたら、首をすくめて頷いた。
社長の娘だから我儘なんじゃねぇかと思っていたが、見た目はまだまだガキって感じだし、我儘なイメージとは程遠い。
生意気なガキじゃなくてよかった。
「それじゃあ社長、娘さんを連れて行きますんで、帰りもあんまり遅くならねぇように送り届けます」
「ああ、頼む」
社長に頭を下げて車に乗った。
カヨちゃんには後ろに乗って貰ったが、裕之と隣同士がいいだろうと、そう思っての事だ。
車を出して裕之の家に向かったが、カヨちゃんは窓の外を眺めている。
まぁ、俺なんかに話はねぇだろうから、そっとしておいてやろう。
車内はお通夜のように静まり返っていたが、やがて裕之の家に到着した。
さっき電話を入れといたんで、家の前に出て待っていた。
「裕之、後ろに乗れ」
窓を開けて言った。
「あ、あのー、俺、葛西さんの隣がいいです」
すると、なにを思ったか拒否ってきた。
「はあ？ なに言ってる、おっさんの横よりかわい子ちゃんの横がいいに決まってるだろ、ったくー、後ろだ、後ろ」
「はい……」
後ろに乗るように強く言ったら、しょんぼりして後ろに乗り込んだ。
カヨちゃんの事は好きじゃねぇと言ってたが、こりゃ……ガチだな。
遊園地で仲良くしてくれりゃいいが、この後が不安になってくる。
ま、しかし……見合いじゃあるまいし、ガキのお遊びだ。
遊具にでも乗れば、ちっとは砕けてくるだろう。
そう思って、なにげなく2人を観察していたら、カヨちゃんは裕之に話しかけているが、裕之は笑顔なしで淡々と答えている。
怒ってるってほどじゃなく、本当に淡々と……って感じだ。
それでも、カヨちゃんは楽しそうにしてるから、見ているこっちは気の毒に思えてくる。
遊園地に着いたら、入園料を払って中に入った。
俺が先に立って歩いたが、裕之は俺の横についてくる。
カヨちゃんをひとりにしちゃマズいだろう。
「裕之、カヨちゃんと一緒に歩け」
少し屈んで小声で言った。
「でも……」
裕之は馴染みのある俺がいいのかもしれない。
気持ちはわからなくもないが、相手は女の子だ。
裕之に会いたくて、今日やっと会えたっていうのに、無視して俺と歩いたら……社長に対しても申し訳ねぇ。
「お前に会いたくて来たんだ、その気持ちを察してやれ」
さっきよりも、もっと小声で説得した。
「わかりました……」
裕之は浮かない顔で返事をして、カヨちゃんの隣に行った。
やれやれ……たかがガキのもりだと思ったが、案外気を使うものだ。
2人を連れてブラブラ歩いたが、すれ違う奴らがチラチラこっちを見る。
俺と目が合うと、顔を強ばらせて慌てて目をそらす。
まぁー分かっちゃいたが、俺がティーンエイジャー2人を引き連れて歩きゃ、当たり前に目立つ。
親子にしちゃちょいと無理があるだろうし、親戚だとしてもダークスーツを着たこのなりじゃ、どう考えても怪し過ぎる。
ひょっとして、人攫いとか人身売買を疑っちゃいねぇだろうな。
ま、通報するならしたらいい。
俺は真面目に保護者をやってるんだからな。
それよりも……ぼちぼち何かに乗せた方がいいだろう。
ちょうどメリーゴーランドが見えてきた。
「おい裕之、あれに乗れ」
立ち止まって言った。
「え……」
2人は足を止めたが、裕之は固まっている。
「『え』じゃねー、カヨちゃんと乗ってきなって言ってるんだ」
今は空いてるし、すぐに乗れる。
「あのー、葛西さんも一緒に乗って下さい」
だが、裕之は嫌な事を頼んでくる。
「あのなー、あんなのに乗ったら笑いものだ」
生まれてこの方、メリーゴーランドなんてもんにゃ乗った事がねー。
「じゃあ、いいです」
なのに、裕之はカヨちゃんと2人で乗るのを嫌がる。
「裕之、お前なー」
「だって……」
睨みつけたら、泣きそうな面をして俯いた。
カヨちゃんが不安げな顔で見ている。
社長には『遊園地は楽しかった』と、そう言って貰わなきゃマズい。
手間賃貰ったし、仕方ねぇ。
「わかったよ、じゃ、乗ってやる」
3人でメリーゴーランドに乗ったが、さすがに馬に跨るのは、菲組幹部としてのプライドが許さねー。
馬車の部分だ。
メルヘンチックな音楽が流れだし、馬車が回り出した。
しかし……こりゃ予想以上の恥ずかしさだ。
こんな恥ずかしい思いをしたのは何十年ぶりだろうか。
2人は俺の向かい側に座っているが、カヨちゃんは嬉しそうにしている。
ホッとした。
裕之は無表情だが、この際裕之はいい。
カヨちゃんに喜んで貰わなきゃ、俺の苦労が水の泡になる。
若干上下に揺れ動き、ぐるぐる回り続ける。
こりゃまるで、昔の回転ベッドだな……。
そう思ってふと周りに目を向けると、野次馬らしき奴らが、写真を撮ってやがる。
てめぇの連れでもなんでもなく、明らかに俺を写している。
「くっ……」
ムカついた。
ぶん殴ってやりてぇが、俺らが下手な事をやらかしゃ、サツが嬉々として食いついてくる。
それに、デートを台無しにするわけにはいかねぇ。
我慢だ。
ここは堪えるしかねぇ。
試練を乗り越え、ようやくメリーゴーランドが止まった。
「はあー……」
「葛西さん、ありがとう」
馬車から降りたら、裕之が笑顔で言ってきた。
「ああ」
写真を撮ってた奴らは、いつの間にやら姿を消している。
イチャモンつけられるのを警戒して、さっさと逃げたんだろう。
「へへっ、葛西さん、やっぱり優しい」
裕之の奴、ニタニタして馬鹿な事を言ってくる。
「あのなー」
「兄さんでしょ？」
呆れていると、弱点を突いてきた。
「お、おう……、そりゃまぁな……」
確かに約束したし、俺は裕之の兄さんだ。
「裕君、それなに？ 兄さんってどういう意味？」
カヨちゃんが首を傾げて聞いた。
「葛西さんは俺の兄さんになってくれる事になったんだ」
裕之の言う通りだから、俺は特に言う事はない。
「ええ、他人なのに？」
「うん」
「えー、どうして？ だってさ、パパは韮組の人だって言ってた、それなのに……いいの？」
カヨちゃんは組の事を口にする。
「あっ！」
言った後でハッとして口を押さえ、バツが悪そうに俺を見上げた。
「いいんだよ、事実だからな」
カヨちゃんは最初会った時にやけにモジモジしていたが、やっぱりヤクザだからびびってたらしい。
「葛西さんはヤクザだけど、いい人だよ、俺を助けてくれた」
「お、おい……、よせ、そんなんじゃねー」
裕之は大袈裟に言ったが、ありゃ決して助けたわけじゃねー。
「リースバックね、パパから聞いた、あれはいずれ出ていかなきゃならない」
カヨちゃんはよく知ってるらしい。
「そうだけど、すぐに取られるよりはマシだ」
「だけど、助けたっていうのは違うと思う」
さすがは社長の娘だ。
ハッキリとものを言う。
「いいだろ、カヨちゃんには関係ない、どう思おうが、俺の勝手だ」
裕之がズケズケ言うのは初めっからだ。
だけど、カヨちゃんに向かって投げやりにいうのはいただけねー。
「裕君、兄さんとか言って、凄く慕ってるんだね、だから一緒に乗ってって言うんだ」
カヨちゃんは何気に気にしていたようだ。
「ああ、兄さんなんだからいいじゃん、嫌なら別にいいよ」
裕之は不貞腐れて言ったが、これはちょっと雲行きが怪しくなってきた。
「裕之、せっかくのデートなのに、そんな面をするな」
「俺は別に……デートしたくない」
注意してみたが、すっかり臍を曲げている。
「わたし、裕君がいっつも丁寧に接客してくれて、嬉しかった、急にお店が潰れちゃって……、だからパパに聞いたの、で、会いたいって言った、だけど……裕君はあたしの事を好きじゃないみたい」
カヨちゃんは泣きそうな顔で切々と語った。
やべぇ……。
「いや、まだ中一だ、な？ 好きだなんだというのははえー、まずは友達として……」
ここはなんとか、気を取り直して貰いてぇ。
「葛西さん、わたし……帰ります、すみませんが家まで送って貰えます？」
なのに、いきなり帰るときた。
「えっ……、いや、ちょい待て、はやまるな、裕之もちょっと言いすぎたんだ、機嫌なおせ」
屈み込んでカヨちゃんを宥めた。
「俺、悪いとは思ってないから」
だが……裕之がぼそっと言った。
裕之ーっ！ てめぇ、この馬鹿野郎。
「もういい、葛西さんお願いします、帰りたい」
あーあ、もう駄目だ。
「そうか……、わかった、じゃ、出るか」
こうなっちまったら、もう無理だ。
3人で遊園地を後にしたが、こんな事になっちまって、カヨちゃんは社長にこの事を報告するだろう。
ま、仕方がねー。
犬や猫なら簡単にくっつくだろうが、当たり前に2人は人間だ。
いくらガキでも、やっぱこういう事は難しい。
［*前へ］［次へ#］
[戻る]
[小説ﾅﾋﾞ|小説大賞]
無料HPエムペ！
携帯モード]
[
URL送信]
