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brat(ヤクザ物、ショタ、純愛、中編)BL、完結
その3
◆◆◆

あの親父はリースバックに応じた。

うちの奴、平井に電話を入れてざっと事情を話し、あとの事は任せた。
あの辺りは一等地だ。
これで借金は帳消しになり、あの親子も家に住み続ける事ができる。

3年だけだが……。

「兄貴、上手くやりましたね」

田西は嬉しげに言ったが、ま、微妙な気持ちだ。

「ああ、まあな」

「あのガキ、兄貴につきまとってましたが、もう現れないでしょう」

「そりゃ、学校があるだろ」

「部屋住みに知り合いがいたんすね、誰っすかね」

「さあな、あんまり関わりたくねぇ」

あのガキが喜んでいたとしても、俺はこれ以上触れたくねぇ。

「そっすか……、で、今日はまた集まりっすね」

「ああ、パーティだとよ、こないだ集まったばっかしで、めんどくせぇな」

今日は鳴門組の幹部と親睦会だ。

「中華っすね」

「だな、金は向こう持ちだからよ、北京ダックでも食うか」

「ははっ、いいっすね」

まだ時間が早い。

田西を連れて事務所に寄った。

ドアを開けて中に入ったら、応接セットのソファーに誰か座っている。
客か? と思ったが……このちぃせぇ背中には見覚えがある。

「あっ、葛西さん!」

嬉しげに振り向いたのは裕之だ……。
また現れやがった。
裕之は立ち上がって俺のそばに駆けて来た。

「こないだはありがとうございました」

ペコりと頭を下げたが、わざわざ礼を言いに来たのか?

「そんなこたぁいい、学校はどうした」

ここ最近やたら俺の前に現れるが、学校がある筈だ。

「試験で早く帰れるんです」

「おお、試験か……」

学校の事はよく分からねぇ。
自分は真面目に通ってなかったし、とっくの昔に忘れた。

「あの、これ、タクシー代お返しします」

裕之は金を差し出す。

「いらねぇよ、ありゃやったんだ」

金を出してやると決めた時点で、やったも同然だ。

「そんな……悪いです、家と土地を売ったお金でニコニコ金融以外の借金も返す事が出来ました、父さんは今新しい仕事をしてます、だからお金は今のところ大丈夫なんです、どうか受け取ってください!」

裕之は金を差し出したまま、深く頭を下げる。

「兄貴、受け取ってやったらどうっすか?」

田西が見かねて言ってきた。

「ああ、わかった、じゃ、貰っとくわ」

「よかった〜、えへへっ」

金を受け取ったら、裕之ははにかんでニッコリと笑った。
小学生みてぇな面をしてるが、丸顔でぽっちゃりとしていて可愛い……素直にそう感じた。

「兄貴、まだ時間ありますし、少し居させてやったらどうっすかね、わざわざ来たんだし」

田西が言ってきた。

「そうだな、こんなとこにくるのはあんましよくねぇが……、来ちまったんだ、仕方ねぇ」

ここはうちの組事務所だ。
ガキが遊びにくる所じゃないが、少しばかり相手をしてやるか。
受け取った金をポケットに突っ込んだ。

「裕之、座れ」

「はい!」

ソファーに座るように促したら、裕之は嬉々として元通りに座った。

俺と田西が向かい側に座ると、事務所番がこっちにやってきた。

「どうもご苦労さまです、いやー、本当に知り合いだったんすね、兄貴に会わせろって言ってきて、帰れって門前払いしようとしたら、ギャーギャーうるせぇもんで、仕方なく中に入れたんす」

事務所番は困惑気味に話したが、裕之の奴、無理矢理押しかけてきたらしい。
事務所の前で騒がれちゃ、周りに通報される可能性がある。
ましてや、こんな見るからにガキだと尚更マズい。
とりあえず中に……ってなったんだろう。

「裕之って言ったな、お前、根性据わってるじゃねぇか」

田西は感心したように言う。

「いや、駄目だろ、ヤクザの事務所なんかに来ちゃ駄目だ」

健全なガキのくる場所じゃない。

「俺、どうしても葛西さんに会いたくて」

裕之は俺に会いたいからと言ったが、一応言っといた方がいいだろう。

「な、裕之、お前はまだ中学一年生だ、そもそも、ニコニコ金融なんかについて来ちまったのがよくなかったんだが、俺やこの田西、ここにいる兄ちゃんも全員ヤクザだ」

「あ、お話中にすみません……、飲み物と菓子を持ってきます」

事務所番は頭を下げて言うと、炊事場の方へ歩いて行った。
話が途切れてしまったが、続ける事にする。

「で、お前はこんな場所に来ちゃならねぇし、俺に会うのもこれで終わりにしろ」

「でも俺……葛西さんの事、好きです、あの、ファンになりました」

裕之はとんでもねぇ勘違いをしている。

「ふっ……、くっくっ」

田西は笑いを堪えているが、俺は笑えなかった。

「あのな、借金の事で恩を感じてるとしたら、それはおお間違いだ、俺らは金を回収しなきゃならねぇ、お前を助ける為にアドバイスしたわけじゃねぇ、それが証拠に……3年って期限がついてるだろ」

善意でそう導いたわけじゃない。
誤解されちゃ困る。

「仕事なのはわかってます、でも……俺、なんとなくわかった、葛西さんは他のヤクザとは違うって、葛西さんには優しさがある」

なのに裕之は、俺の事をさもわかっているかのように言う。

「あのな〜、お前、こないだ居酒屋にきたが、あれを見りゃわかるだろ、お前を買うと言った奴がいたが、皆柄の悪い面をしてる、俺だって奴らと同じなんだよ、お前のような世間知らずのガキは、奴らにとっちゃカモもいいとこだ、俺につきまとっていたら、ああいう奴らに出くわす、危ねー真似をするな」

「ほら、俺の心配をしてくれる、やっぱり優しい」

「いや、そりゃ……そうじゃねぇ」

心配するのは、裕之が見るからにガキだからだ。

「兄貴、いいじゃないっすか、ファンがいるヤクザなんて、そうザラにはいませんよ、カタギに鼻つまみものにされるよりは、好かれた方がよっぽどいい」

田西がお節介を焼いてくる。

「あの、ありがとうございます! 改めてお名前聞いていいですか?」

もう分かっちゃいるが、裕之は怖いもの知らずだ。
田西に向かってハキハキと問いかける。

「俺は田西だ、へっ、裕之、俺もファンになってくれるか?」

田西……何を期待しているんだ。

「はい、勿論です、田西さんですね、わかりました、俺、おふたりの大ファンです」

裕之はめちゃくちゃ嬉しそうに宣言した。

「いや、あのな〜」

これって、いいのか?
ガキにこんな甘い顔をしていいんだろうか。

「あ、すんません、ジュースとお菓子持ってきました」

事務所番がトレイにグラスと菓子皿を乗っけて運んできた。

「すみません」

生意気だが、気遣いはできるらしい。
裕之は事務所番に向かって頭を下げる。

事務所番は俺から順にグラスを置いて行き、菓子皿を真ん中に置いて頭を下げて立ち去った。

「ヤクザ屋さんって……、親切なんだ」

裕之は目をキラキラさせて言ったが、それは違う。

「親切っつーか、礼儀作法を教わるからな、お前は俺の客だ、だから丁寧に対応する」

意味もなくサービスしてるわけじゃねぇ。

「そっかー、へへっ、俺、葛西さんのお客さんなんだ」

それでもやたら嬉しそうだ。
珍しい場所にきて優しく対応されたんで、テンションあがったんだろう。

「お前、ひとりっ子か?」

田西が思いついたように聞いた。

「はい」

「ふーん、それで退屈なんだな?」

「あ、そうかも……、葛西さんと出会って、こんな人が兄さんだったらいいな〜って思ったし」

俺は菓子をボリボリ食って2人の話を聞いていたが、裕之は俺の事について語った。

「兄さんにしちゃ、ちょいと歳が離れすぎてるがな」

田西は歳の事を言ったが、まだそこまでジジイじゃねぇ。

「田西……、いいじゃねぇか、兄さん、悪くねぇ」

俺も兄弟はいねぇ。
いや、正確にはいたが、姉貴は高校中退して行方不明だ。
男兄弟に憧れたりしたし、気持ちはわかる。

「え、そっすか? 意外だな〜」

「な、裕之、その〜、兄さんってのはいいな、そういう事なら会ってやってもいいぞ」

リースバックの事が引っかかっていたが、兄貴のように慕うって言うなら、少し位構わねーだろう。

「あっ、嘘、ほんとにいいんですか?」

裕之は驚いて目を見開き、テーブルに手をついて身を乗り出した。

「ああ、いつもってわけにゃいかねぇが、連絡してこい、電話番号教えてやる、都合があえば飯くらい奢ってやる」

飛びつくように聞いてくるから、つい調子に乗って言っちまった。

「やった〜、嘘みたいだ、嬉しい、マジですげー嬉しい」

裕之はガキみたいに喜んだが、いつもキッチリ敬語を使うし、生意気な口をきくから、なんとなく大人びたマセガキだと刷り込まれていた。
その仕草が本来なんだと……改めて思った。

「よかったな、兄貴がOKしてくれるなんて、滅多にないぞ」

「はい」

「あのな、俺らはこの後行かなきゃならねぇ、お前、バスで来たのか?」

「そうです」

「しょーがねぇ、田西、早めに出て送ってやろう」

ついでだし、家まで送ってやる事にした。

「はい、わかりました」

「あ、ありがとうございます!」

裕之は益々大喜びしたが、きっちり頭を下げて礼を言った。



それから少しして事務所を出た。

車に乗り込もうとした時に、1台の車が事務所前に入ってきた。

窓が開いて顔を覗かせたのは、四七築組の刈谷だった。
田西はすかさず頭を下げた。

「おう、偶然だな」

同じ傘下の組だからたまに立ち寄る事があるが、刈谷は俺のわきに立つ裕之を見た。
嫌な予感がプンプンする。

「ああ」

「その坊主、上手い事手なずけたんだな」

「まあな」

あの時、裕之を連れて帰った事になっている。

「ったくよー、羨ましいぜ、なあ、俺にも同じぐれぇのガキを紹介してくれ」

やっぱりそうきた。

「ああ、まあ〜、そのうちな」

断わるとうるせぇから、適当に言っておく。

「言っとくが、マジだからな」

「ああ、わかったが、あのな、こいつはまだ13だ、バレたらやべぇ、だからよ、そう簡単にゃ見つからねぇ」

事実、13歳に手を出すのはヤバい。
借金のカタに身を売るという話は昔からよくあるが、女の方が稼げるので女が多い。
ただ、昔っから本職は18歳以下には手を出さなかった。
喧嘩や薬、賭博などでパクられるのはありがちだが、淫行でパクられるのはみっともねぇ。
中には15、6歳に売春をさせてパクられるのもいたが、暴対法で兄貴分や親父にまで迷惑がかかるようになり、最近はそういう手合いは見られなくなった。

「わかってら、別にウリをさせようってわけじゃねぇ、真面目に付き合いてぇ」

奴は笑える事を言う。

「真面目に付き合っても、許しちゃくれねぇぞ」

真面目なお付き合いで許される事じゃない。
男女関係なく、未成年に手を出すのは御法度だ。

「お前はやってるじゃねぇか」

「いや、俺は……」

やってねぇ!と声を大にして言いたいが……言えねぇ。

「へっ、まあ、とにかく頼むわ」

刈谷は言った後で車を動かしたが、バックできちんと止めるらしい。
今のうちにさっさと行った方がよさそうだ。

「じゃ、そういうこった、またな」

声をかけて車に乗ったが、裕之には後ろに乗るように指示した。

田西は言わずともわかっているらしく、俺らが乗ったら直ぐに車を発進させる。

車はそっこーで事務所前を離れ、表通りに出た。

「兄貴、刈谷の兄貴は……ショタコンっすかね?」

田西は刈谷の事を聞いてきたが、俺もこないだ知ったばかりだ。

「らしいな、まったく……、なに考えてんだか」

あいつがそんな趣味だったとは、思ってもみなかった。

「あそこの組は……全員バイセクらしいっすね」

田西は聞き捨てならない事をサラッと口にする。

「おい……、そりゃほんとか?」

「ええ、兄貴……気づきませんでした? 四七築組の若頭っすけど、いっつも若い奴を連れてるでしょう」

「ああ」

あのカシラは、色白で見るからに頼りねぇ男を引き連れて歩いてる。

「ありゃ、若頭が囲ってる男です」

「マジか?」

囲うって……男を囲うのか?

「マジっす、若頭にゃ嫁さんがいますが、別居中だそうで、あの男と一緒に暮らしてる」

「嫁と別居して……男と暮らす、すげーな」

「ですよね、ま、でも俺らは元から男だらけだし、傍についてても、あんまり気にしないっすよね」

確かに、側近だと思っていた。

「ああ」

「あ、あの〜」

裕之がシートを掴んで顔を覗かせた。

「なんだ?」

「今の話、わかります」

いきなり『わかります』ときたが、またなにかマセた事を言いそうだ。

「なにがわかるんだ?」

「好きならそばにいたいと思うし、だから一緒に住んでるんじゃ?」

案の定、こましゃくれた事を言った。

「こら、そんなのはあと10年してから言え」

ガキが言う事じゃない。

「はい……、わかりました」

すると、素直に返事をする。

田西は四七築組の話を続けたが、裕之はもう何も言わなかった。


まぁ……静かでいい。
やがて裕之の家に着いた。
閑静な高級住宅街、俺は写真で見ただけだが、実際に見たら確かにデカい家だ。

俺は約束通り、裕之に名刺を渡した。
それに電話番号が書いてある。

「さっき話したように兄さんとして会いたくなったら電話してきな、それと、なにもねぇとは思うが、もしなにかやべぇ事がありゃ電話しろ」

借金は片付いたし、揉め事は起こらねぇとは思うが、車を降りる前に一応言っておいた。

「はい、今日は……ありがとうございました!」

裕之は名刺を大事そうに両手で持ち、礼儀正しく頭を下げて挨拶すると、車を降りて屋敷の方へ歩いて行った。

「にしても……兄さんっすか」

田西はハンドルを握り、裕之を見送りながら言ったが、顔がニヤけている。

「いいじゃねぇか、兄貴っつったら俺らみてぇな感じになるからな、俺だってたまにはカタギの気分を味わいてぇ」

ヤクザの兄弟分じゃなく、兄という立場に立ってみたい。
ちょっと生意気だが、あんな可愛い弟なら悪くねぇ。

「そっすか、ええ、いいんじゃないっすか、これもなにかの縁ですよ、あの親父にあの家を買い戻す力がありゃ、もっといいんですが、それは難しいでしょう」

「ああ、そうだな……」

田西の言葉を聞いて嫌な事を思い出した。

「すみません、余計な事を言っちまって……、裕之は兄貴を慕ってる、付き合ってやるだけでも、少しは助けた事になるんじゃないでしょうか、人間、そう都合よくはいかねぇ、あの親父が借金を背負ったのは事実なんすから」

俺の顔色を見て、励ますような事を言ってきた。

「お前に言われなくてもわかってる、そこんとこは割り切るが、ま、キリのいいとこでサヨナラするつもりだ、所詮俺らとは歩む道が違う、本来は関わっちゃ駄目なんだからな」

裕之とは暫く付き合って、頃合を見て距離を置くつもりだが、たまには息抜きをしたい。

「そうっすね、兄貴、あのガキは口が達者だが、可愛らしいじゃないっすか」

田西はそこには触れず、裕之の事を褒めた。

「ああ、だな……」

俺は刈谷みてぇな趣味はねぇ。
あの年頃のガキを見ても特に何も思わねぇが、裕之は大人びた事を言い、俺らに向かって堂々と意見を言う。

つくづくおもしれぇガキだ。







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